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キャロライン・グリルズ
Caroline Grills (オーストラリア)


「キャリーおばさん(Aunt Carrie)」の愛称で知られるキャロライン・グリルズは、シドニー在住の57歳(逮捕時63歳)。1947年の或る日、保健所職員の訪問を受ける。
「近頃ペストが流行っています。ネズミを駆除するために、これを排水溝に撒いて下さい」
「まあ、ネズミを?」
「ネズミはペストを媒介するんですよ。あ、それからこれは猛毒なので、くれぐれも取り扱いに注意するように。いいですね」
 手渡された薬瓶の中身は、かのグレアム・ヤングも愛用した毒性の強い重金属
、タリウムだった。

 やがてキャロラインの継母、クリスティナ・ミケルソンが死亡。もう87歳だったので誰も死因を疑わなかった。キャロラインが涙ひとつ流さなくても誰も不審に思わなかった。彼女が長きに渡って父の後妻を嫌悪していたことは周知の事実だったからだ。

 まもなく夫の親族、アンジェリン・トーマスが死亡。彼女も84歳だったので誰も死因を疑わなかった。夫は彼女のコテージを相続した。キャロラインは「別荘ができた」とたいそう喜んでいたという。

 ほどなくキャロラインの義弟、つまり妹の夫であるジョン・ランドバーグが死亡。彼の具合が悪くなったのはグリルズ家とランドバーグ家とで共に休日を過ごした直後だった。原因はシーフードによる食あたりかと思われたが、次第に髪が抜け、手足が痺れ、単なる食あたりではないことを知る。医者は何もできないままに、苦しみ抜いて息を引き取る。死因はさっぱり判らなかった。

 次いでキャロラインの義妹、つまり弟の妻で未亡人のメアリー・アン・ミケルソンが死亡。症状はジョン・ランドバーグとほとんど同じだった。

 ジョン・ランドバーグの未亡人、つまりキャロラインの妹イヴリンは、夫が死んでからというもの体調が優れず、キャロラインが頻繁に見舞っていた。お茶を入れ、お手製のケーキを振る舞う。そのうちにイヴリンだけでなく娘のクリスティーンの髪も抜け、手足が痺れ始めた。
 或る日の午後、クリスティーンの夫ジョン・ダウニーが台所にいるキャロラインの姿を目撃する。ポケットから何かを取り出し、お茶の中に入れている。その晩にイヴリンの容態が悪化したことで疑惑は確信に変わった。
 あいつだ! あのばばあが原因だ!
 翌日にキャロラインが入れたお茶はそのまま鑑識に回された。タリウムが混入していたことはいうまでもない。

 1953年10月15日、4件の殺人と2件の殺人未遂で有罪になったキャサリン・グリルズは終身刑に処された。刑務所の中で彼女は「タリウムおばさん(Aunt Thally)」と呼ばれていたという。
 彼女にまつわる疑問は、最初の2件には動機があるが、残りについてはないことだ。どうして近しい人々を次々に殺さなければならなかったのか? おそらく毒殺の魔力に取り憑かれていたのだろう。

(2008年7月19日/岸田裁月) 


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『LADY KILLERS』JOYCE ROBINS(CHANCELLOR PRESS)


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