1931年1月6日、イングランド北部ニューキャッスルとオッターバーンの間の人里離れた荒れ地で、定期バスの運転手が炎上している車を発見した。すわ一大事。バスを停めて走り寄ると、燃え盛る車は同じ会社のタクシーで、そばには運転手と思しき女性が大火傷を負って倒れている。抱き起こしてみて驚いた。社長の娘さんじゃないか!
女性の名はイヴリン・フォスター(28)。タクシーの運転手である。虫の息で語ったところによれば、ことのあらましは以下のようなものだった。
その日はオッターバーンで男の客を拾い、ニューキャッスルに向けて車を走らせた。すると、男が突然に襲いかかってきた。彼女の貞操を奪うと、なにやら液体の入った瓶を取り出し、中身を車内にぶちまけると火を放った。男はそのまま車を暴走させて、公道から荒れ地に乗り上げると去って行った。
イヴリンは結局、助からなかった。
「私は殺されたのよ」
これが臨終の言葉だった。
ところが、イヴリンの話はそのまま鵜呑みに出来ない。まず、彼女には強姦された形跡がなかった。火が放たれたのも車が走り出す前ではなく停車してからだ。また、車は「暴走」などではなく、慎重にゆっくりと荒れ地に乗り入れていることがタイヤ痕から明らかになった。
本当はいったい何があったのだろうか?
結局、謎は解決されることなく本件は迷宮入りしたが、非公式にはイヴリンによる自作自演と見られている。目的は保険金詐取である。ところが、予想外の燃え上がりで、命を落とす羽目となったのだ。
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