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クリスティアナ・エドマンズ
Christiana Edmunds (イギリス)



さあ、毒をお食べ

 極めて特異な事件である。この犯人は己れが疑われることを恐れる余りに、町内に毒をバラ撒いていたのだ。

 ここはイングランド南岸の保養地ブライトン。1934年に相次いでトランク詰めの遺体が発見されたことでも知られるが、本件はその60年以上前の1871年の出来事である。4歳のシドニー・パーカーが叔父が買って来てくれたチョコレートを食べて死亡した。死因はストリキニーネ中毒。チョコレートの中に混入していたのだ。

 毒入りの贈り物を受け取ったのはシドニーだけではなかった。町内の何人もの住人が、郵送された毒入りケーキを受け取っている。いずれも匿名で「貴方には誰が送り主かはお判りでしょう」との手紙が添えられていた。
 クリスティアナ・エドマンズ(42)も毒入りケーキを受け取ったと警察に届け出た一人だった。そして、彼女が掛かりつけの医師トーマス・ベアードの奥方もまた毒入りケーキを受け取っていた。添えられた手紙にはこうある。
「貴方のお口に合うように、腕によりをかけて作りました」
 お口に合うどころか、口にした小間使いはたちまち寝込んでしまった。クリスティアナの犯行を疑ったベアード医師は、その旨を警察に届け出た。

 クリスティアナの目的はベアード夫人の殺害だけだった。ベアードに一目惚れしたオールドミスのクリスティアナは診察に足繁く通い、熱烈な恋文を送り続けた。これをやんわりと窘めるベアード医師。
「私には妻がおります。このようなマネなやめて頂きたい」
 これで諦めるようなタマではなかった。短絡的に夫人を亡きものにしようと考えたのである。しかし、警察に疑われるのだけはまっぴらだ。そこで無差別の毒殺魔がいることを偽装するために毒入りケーキをバラ撒き、近所の子供たちに小遣いをあげて、毒入りの菓子を店に返品させたりしていたのだ。
 女ごころの赤坂見附。ベアード医師の通報を受けて、クリスティアナは直ちに逮捕された。

「先生はひどいお方。私は先生の子を身籠っているというのに」
 よよよよと泣き崩れるクリスティアナであったが、妊娠の事実は認められなかった。やがて彼女の家系に精神異常者が多いことが判明。その遺伝子を継ぐ彼女の狂気も取り沙汰された。しかし、法的な責任を問うには無問題と判断されて、クリスティアナには死刑が宣告された。 但し、後に監獄内での奇行ゆえに「やっぱりこれはアレだろう」と不定期刑に減刑されている。


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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