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ホセ・デル・ヴァル
Jose Alfredo del Valle (メキシコ


 第二次大戦が終わり旅客機の就航が盛んになると、これを殺人の手段に選ぶ不埒な輩が現れ始めた。アルベール・ガイジョン・グレアムといったところが有名だが、もう1人見つけたので紹介しよう。

 1953年5月9日、メキシコはマサトラン郊外の小さな飛行場での出来事である。ラ・パス行きの旅客機に搭載するために運ばれていた荷物の1つが爆発し、2人の荷物係空港管理者が死亡、乗客14人が重軽傷を負った。残骸の中からは時計の破片とダイナマイトの痕跡が発見された。
 航空会社の記録によれば、爆発した荷物はメキシコ・シティから送られたもので、本来ならばラ・パス行きの直行便に搭載される筈だった。ところが、その便は既に満載だったため、急遽マサラトン経由に切り替えられたのだ。犯人が直行便の爆破を狙っていたことはまず間違いない。

 当該荷物を預けた男の人相書きが手配されると、瓜二つの男がラ・パスの警察に拘留されていることが判明した。ホセ・デル・ヴァル。公園で首吊り自殺しているところを見咎められて、しょっぴかれた男だった。
 供述によれば、事のあらましはこのようなものだった。デル・ヴァルはメキシコ・シティで浮浪者を拾うと、自分の服を着せ、自分の名前で買った航空チケットを与え、そして自分の身代わりとして直行便に乗せた。ところが、荷物は別の便に搭載されてしまった! すわ一大事。パニックに陥った彼はラ・パスへと逃げ出し、自責の念からなのかは不明だが、とにかく自殺を図ったというわけなのだ。
 ダイナマイトは軍にいる友人から手に入れた。何ケ月もかけた用意周到な犯行だったのだが、ちょっとした手違いから大失敗に終わってしまった。

 島流し30年の刑を科されたデル・ヴァルは、2度の未遂を経て、1956年10月14日に遂に自殺を成就した。死因は睡眠薬の大量服用だった。

(2008年7月20日/岸田裁月) 


参考文献

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)


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