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アーネスト・ブラウン
Ernest Brown (イギリス)


 

 馬鹿がキレると恐ろしいよ、お立ち会い。何を仕出かすか判らない。

 ヨークシャーの人里離れた農場で、アーネスト・ブラウン(35)は馬丁として、フレデリック・モートンが経営する農場に雇われていた。やがてブラウンは奥方のドロシー・モートンと懇ろになる。しかし、ブラウンの過剰な独占欲ゆえに、関係は長くは続かなかった。
 失意のブラウンは農場を離れたが、雇ってくれるところは他にない。腹ぺこの彼は再びモートンの牧場に職を求めた。
「なんだ? 無断で出て行ったんじゃなかったのか? まあいい。雑役でいいなら雇ってやろう。給金は前の半分だがな。はっはっは」
 屈辱的な扱いを受けたブラウンはこの時、復讐を誓った。
「今に見ていろ。お前の人生をめちゃくちゃにしてやる」

 アーネスト・ブラウンが身勝手な「復讐」を実行に移したのは1933年9月5日のことだった。その日、主のフレデリックは外出していた。ブラウンは奥方のドロシーに詰め寄り、不平不満をぶちまけた。
「どうしてお前は俺を捨てたんだ!」
「なによ! 調子に乗らないでよ! 使用人のくせに!」
 頭に血が上ったブラウンは彼女の横っつらを張り倒し、女中のアン・ハウスマンともども家の中に閉じ込めて、電話線を引きちぎった。

 それは悪夢のような一夜だった。ブラウンは繰り返し猟銃をぶっ放し、ドロシーたちを震え上がらせた。電話で助けを呼ぼうとしたが繋がらない。2人は身を屈めながら寝室に引き蘢り、ただただ息を潜めるよりほかなかった。
 モートンが帰宅したのは翌日の未明、午前4時頃のことである。エンジン音で旦那の帰宅を知ったドロシーは祈った。
「あなた、気をつけて!」
 直後に銃声が鳴り響き、やがてガレージから火の手が上がった。あの野郎が火を放ったのだ。このままでは自分たちも焼け焦げる。ドロシーとアンは命からがら窓から逃げ出し、草むらに身を隠した。

 雇い主を逆恨みし、射殺した上に火を放った大馬鹿者、アーネスト・ブラウンは翌1934年2月に絞首刑に処された。誠に馬鹿がキレると恐ろしい。何を仕出かすか判らない。

(2007年10月17日/岸田裁月) 


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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