このスカンジナビア半島最悪の大量殺人者に最初に疑惑を抱いたのは、地元の女性新聞記者だった。「オークダル・ヴァレー・ナーシングホーム」で死者が相次いでいるとのタレコミを受けて調査を始めた彼女は、院長のアーンフィン・ネセットが大量のクラシットを購入している事実を突き止めたのだ。
クラシットは南米の原住民が毒矢のやじりに塗るクラーレから抽出される物質で、呼吸器を麻痺させる猛毒である。ナーシングホームに必要なものとは思えない。彼女はただちに警察に通報した。
1981年3月9日に逮捕されたネセットは、当初は犬に使用するために注文したのだと弁明していたが、やがて患者の殺害を自供した。
「あまりにも大勢殺したので、何人殺したのか憶えていません」
そう云うとネセットは、1962年以降に彼が勤めていた3つの施設で死亡したすべての患者のリストを見せて欲しいと云い出した。記憶を蘇らせるためである。その結果、なんと62人も殺害していることを思い出した。べらぼうな数である。その動機は「安楽死」「自己顕示欲」「面白いから」「なんとなく」と様々であった。
裁判においてネセットは供述を覆して無罪を主張した。そのために、対象となったのは1977年5月から80年11月にかけての25件に絞られた。クラシットは月日が経つと検出が困難になるためである。そして、22件について有罪となり、22年の懲役を云い渡された。これがノルウェーで定められている最高刑なのである。今はもうシャバに出ている筈である。
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