1972年6月16日、カリフォルニア州サンタバーバラの量販店に強盗が押し入り、逃げる途中に発砲して警官を負傷させた。たまたま目撃者が車のナンバーを覚えており、照合した結果、シャーマン・マクレアリーの所有であることが判明した。
シャーマンは近くのゴレータに、妻のキャロラインと19歳の息子ダニーを共に住んでいた。既に結婚して3人の子持ちのジンジャーという娘もおり、その夫のレイモンド・カール・テイラーがこのたびの下手人だった。
レイモンドを取り調べるにつれて、義父のシャーマンと共に数々の強盗を働いていたことが発覚した。2人は5年から無期の不定期刑に処され、他の3人の家族には犯人隠匿の罪で9ケ月の刑が科された。
と、ここまでならば単なる強盗一家である。ところが、話はこれで収まらなかった。余罪を洗ううちに、彼らが少なくとも22件の殺人事件に関わっていることが判明したのである。現代に生きるベンダー一家だったのだ。
証明可能な最初の犯行は1971年8月12日の誘拐殺人事件である。ユタ州ソルトレイクシティのパン屋が襲われ、17歳の店員、シャリー・マーティンが誘拐されたのだ。1ケ月後、彼女の遺体がネバダ州ウェンドーバーで見つかった。腰から下は裸だった。強姦されて32口径の銃で射殺されたのだ。
8月20日 リオラ・ローズ・ルーニー(コロラド州デンバー)
9月28日 エリザベス・ペリーマン(テキサス州ルボック)
10月17日 フォレスト・コベイ(テキサス州メスキート)
ジェナ・コベイ (同上)
10月20日 スーザン・ショー(テキサス州メスキート)
11月31日 ボビー・ターナー(フロリダ州メルローズ)
バレリー・ターナー(同上)
パトリシア・マー(同上)
上記の犯行は手口がほとんど同じである。店鋪を襲って金を奪い、店員を連れ去ると、強姦して射殺するのだ。凶器はいずれも同じ32口径だった。
マクレアリー一家はそもそも、アメリカ南西部を仕事を求めて転々とするワンダラーだった。それがいつしか強盗を稼業とするようになり、やがて殺人にも手を染めた。カリフォルニアに流れて来たのは1972年4月のことだ。この地で量販店を3件叩いて5万ドルほど稼いだ彼らは、中流が暮らす地域に家を2軒購入し、定住し始めた矢先の逮捕だったのだ。
キャロラインとジンジャーは犯行そのものには加担していなかったが、己れの罪深さは自覚している。キャロライン曰く、
「私は夫の犯行を止めませんでした。その意味で私も同罪です。だけど、私には他に行くところがありません。こんなことを云うと気狂いかと思われるかも知れませんが、私は夫をとても愛しています」
殺人一家は固い絆で結ばれていたのだ。
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