コリン・ウィルソン著『現代殺人百科』には、北欧の奇妙な殺人事件が紹介されている。
1983年3月11日、デンマークでルイジ・ロンギという男が、西ドイツから来た若い旅行者ハイケ・フライハイトを殺害した容疑で、精神治療施設での無期拘禁を云い渡された。ヒッチハイクをしていた彼女を自室に連れ込み、洗髪した後に絞殺したのである。
ちなみに、翻訳版のこの項の見出しは「恐怖の洗髪男」である。
このロンギという男、女の髪を洗うことに異常に興奮したらしい。10歳の時に美容院からシャンプーとかつらを盗んだというから栴檀は双葉より芳し。否。この修辞は適切ではない。殺人者が栴檀でたまるか。
やがて、かつらでは満足できなくなったロンギは、知り合いの女に頼み込んで髪を洗った。頼み込んでも洗わせないと、有形力を行使して洗うこともあった。強姦するわけではない。ただ洗うだけである。それだけで彼は満足してしまうのだ。
トラック運転手をしていた彼は、若い女のヒッチハイカーを拾うと頼み込んで洗髪した。ハイケ・フライハイトの時も、
「コペンハーゲンまでの汽車賃出すから、お願いだからまんこ見して」
あ、違った。
「コペンハーゲンまでの汽車賃出すから、お願いだから洗髪させて」
とゴリ押しで承諾させ、どうにか自室に誘い込んだのだ。ひとしきり洗い終えて満足したロンギはそのまま寝てしまった。しばらくして眼が醒めると、また洗いたくなった。拒絶されると困るので、すやすやと眠る彼女を縛り、猿轡をし、無理からに髪を洗った。ところが、なんたることか、シャンプー液が切れてしまった。仕方がないので、そこらにあるものを手当たり次第にぶっかけた。蜂蜜にカッテージチーズにサラダドレッシング。彼女は足をバタつかせて必死で逃げようとした。逃がしてなるものかと首を絞めた。気がついたら、彼女はぐったりしていた。
他に類を見ない極めてユニークな事件である。フェティシズムが高じて殺人に至るケースはまま見られるが、洗髪にこれほど執着した男は前代未聞ではないだろうか。
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