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レオポルド&ローブ
Nathan Leopold & Richard Loeb (アメリカ)



レオポルド(右)とローブ(左)


遺体発見現場


現場に落ちていたレオポルドの眼鏡

 云うまでもないだろうが、アルフレッド・ヒッチコックの異色作『ロープ』の元ネタになった事件である。

 1924年5月22日、シカゴ郊外にある自然保護地域の排水溝で少年の全裸死体が発見された。頭部を強打されており、顔は酸で焼かれている。身元はすぐに判明した。14歳のボビー・フランクスである。実は前日の夜、彼を誘拐した旨の脅迫電話が自宅にかかってきていたのだ。そして、早朝に1万ドルの身代金を要求する手紙が速達で届いた。資産家であった父親は1万ドルを用意すると犯人からの電話を待った。その矢先に遺体が発見されたのである。

 遺体のそばには眼鏡が落ちていた。犯人のものである可能性が高い。一見、何の変哲もない眼鏡かに思われたが、蝶番に特徴があった。シカゴでは1社でしか作られていないものだったのだ。この蝶番を使った同じフレームの眼鏡はこれまでに3つしか出ていなかった。そのうちの1つの持ち主がシカゴ大学の学生、ネイザン・レオポルド(19)だった。そして、他の2つの持ち主は現在も眼鏡を使っていたのだが、レオポルドだけが使っていなかったのだ。
「おそらくバード・ウォッチングをしている時に落としたのでしょう」
 彼はこのように釈明したが、図らずしも現場に土地鑑があることを認めることとなった。また、彼のノートは2種類のタイプライターで打たれていたが、そのうちの1つが脅迫状のそれと一致した。同じ便箋も彼の部屋から発見されている。
 レオポルドの親友、リチャード・ローブ(19)も別室で取り調べを受けていたが、数々の証拠を突きつけられて観念した。
「彼と二人でやりました。だけど、殺したのは彼です。僕は運転していただけです」
 レオポルドに問いただすと、
「違う! 殺ったのはあいつだ! 僕が運転していたんだ!」
 互いに罪のなすり合いを始めたが、結局、二人でやったことは認めたのだった。

 レオポルドもローブも大金持ちのボンボンだった。レオポルドの父親は海運業で一財を為し、ローブの父親は全米一の通販会社シアーズ・ローバックの副社長にまで登りつめた。共にシカゴのユダヤ人社会の大物である。しかし、大金持ちのボンボンであるが故に、彼らは下々の者には理解出来ない悩みを抱えていた。
 まず、ローブは厳格な乳母兼家庭教師にスパルタ方式で育てられた。息がつまりそうな毎日の中で、彼は犯罪小説にのめり込み、やがて自らも完全犯罪をやってみたいと思うようになった。
 一方、レオポルドはニーチェに傾倒し、その超人思想にのめり込んだ。そして、15歳の時に出会ったローブに一目惚れして「彼こそが超人に違いない」と信じるようになったのである。
 つまり、完全犯罪に憧れる男と超人思想にかぶれた男のニーズが合致した結果がボビー・フランクスの殺害だったのだ。だから、動機などないのだ。誰でもよかったのである。

 彼らの弁護を受け持ったのは、翌年に「進化論裁判」のジョン・スコープス教諭を弁護したことでも知られるクラレンス・ダロウである。彼は二人の精神異常を主張し、実に11時間にも及ぶ熱っぽい弁論を行った。裁判を欠席するどこかの国の誰かさんとは大違いである。ダロウの声は判事には届かなかったが、二人は未成年であったことが考慮されて極刑だけは免れ、終身刑を云い渡された。

 12年後の1936年1月28日、ローブは囚人仲間に殺された。原因は同性愛のもつれであるらしい。
 一方、レオポルドは1958年に仮釈放され、非行少年を救済する財団を設立した。そして、1971年8月30日に心臓発作で死亡した。

 彼らの事件は前述の『ロープ』を初めとして数多くの創作の題材となっている。リチャード・フライシャー監督の『Compulsion』もその一つだ。レオポルド役にはディーン・ストックウェル、ローブ役にはブラッドフォード・ディルマン、弁護人のダロウ役にはオーソン・ウェルズが扮しており、特にウェルズの弁論はなかなか見物だそうなのだが、筆者は未見である。残念。


参考文献

『殺人百科』コリン・ウィルソン(彌生書房)
『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
週刊マーダー・ケースブック78『エリート学生の歪んだ欲望』(ディアゴスティーニ)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
『PARTNERS IN CRIME』ALLAN HALL(BLITZ EDITIONS)


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