死体処理の方法としてバラバラにするのはよくあることだが、これほどカラフルなバラバラ死体は他にないのではないか。なにしろニーナ・ハウスデンは夫を殺してバラバラにした後、箱に入れて鮮やかな柄の紙で梱包すると、赤いリボンで飾りつけたのである。
1944年12月21日早朝、クリスマスに向けてウキウキ気分が盛り上がりを見せていた頃、ニーナ・ハウスデンは後部座席にいっぱいのプレゼントを積み込むと、オハイオ州デトロイトを後にした。端から見たらお姐のサンタさんだが、貰った子供はひきつけを起こすこと必至である。否。彼女は別に子供たちに配るつもりは毛頭ない。生まれ故郷のケンタッキーで廃棄するまでのカムフラージュに過ぎなかったのだ。
ところが、トレドにさしかかった頃、エンジンがぷすぷすぷすとイヤな音をたてて停止した。
マジかよ。
いわゆるエンストというやつである。ガソリンは満タン。バッテリーもバッチリ。だけどエンジンだけが動かない。自動車産業の街、デトロイトから来たというのに皮肉な話である。女のニーナにはお手上げで、これはもう助けを呼ぶより他なかった。
車を牽引した修理工は、ひとしきり調べてこう云った。
「2日はかかりますね。エンジンがもうオシャカっすよ」
「2日ですって!?」
ニーナは卒倒しそうになったが、乗りかかった舟である。ここはもう腹をくくって全うするよりしゃあない。
「判ったわ。でも、なるべく早くやってちょうだい! 急いでるんだから!」
そう啖呵を切ると、運転席にどっかりと座った。
「あのお、そこに座られると邪魔なんすが…」
「いいのよ。あんたたちがサボらないように見張ってるんだから」
なんだか判んねえけど怖い姐さんだ。修理工たちはいそいそと修理に取り掛かった。
修理は徹夜で行われ、朝になって勤務が交代してからも続行された。その間、ニーナは一睡もすることなく、買いに行かせたサンドイッチにパクつき、ワインをラッパ飲みした。
やがて午後になると、工場内の熱気がプレゼントの中身に影響を及ぼし始めた。
「おい、なんか臭わねえか?」
「ああ、臭う臭う。なんか腐った臭いだな、こりゃ」
臭いはどんどん酷くなる。堪り兼ねた一人がニーナに云った。
「あのお、なんか凄く臭うんすけどお」
もちろんニーナの鼻はバカではない。腐臭にはとっくに気づいていたが、ここは必死で誤魔化した。
「肉よ肉。鹿の肉よ」
「もう棄てた方がいいんじゃないんすか?」
「馬鹿ねえ、あんた。鹿はねえ、腐りかけてるくらいが美味しいのよ」
そういうもんすかねえと釈然としない修理工は、ニーナが遂に睡魔に負けてうたた寝を始めた隙に、臭いの元を調べにかかった。後部座席に山と積まれたプレゼント。明らかにこれから臭ってくる。
「鹿の生肉をリボンで飾るかねえ…」
不審に思いながらもうちの1つを開けてみると、人間の脚が出て来てウギャア。 いや、足でよかった。顔が出て来た日にゃあ、ウギャアどころじゃ済まなかっただろう。
やがて駆けつけた警察に起こされたニーナは、犯行の模様を淡々と語った。夫のチャールズ・ハウスデンは睡眠薬を飲まされて絞殺され、カラフルなプレゼントとなったのである。動機は彼の浮気だそうだ。極めて支配欲の強い姐御だったようだ。
かくしてニーナは第一級殺人で有罪を宣告され、終身刑に処された。
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