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アリス・クリミンズ
Alice Crimmins (アメリカ)



アリス・クリミンズ


クリミンズと殺された子供たち

 アリス・クリミンズは一見、女優さんかと見まがうほどの美貌の持ち主である。そのことが事件をより一層に衝撃的なものにしている。なにしろ、彼女の容疑は「実子殺し」なのだ。

 1965年7月14日早朝、ニューヨークのクイーンズ警察署に通報があった。電話の主はエドモンド・クリミンズで、息子のエディ(5)と娘のミッシー(4)が行方不明だという。
 当時のエドモンドは妻のアリス(26)と離婚調停中だった。原因は妻の不貞である。美貌の妻は浮気が絶えなかったのだ。2人は別居し、エディとミッシーはアリスに引き取られていた。
 アリスによれば、前日の午後9時頃に子供部屋で2人を寝かしつけた。彼女が就寝した午前4時には、2人がすやすやと眠る姿を確認している。そして、午前9時に起床すると、子供たちはいなくなっていた。夫のエドモンドが連れて行ったのかと思い、彼に電話をかけたというわけだ。

 子供部屋を捜索した警察は不審に思った。ドアには外側に掛け金があり、中からは開けられないようになっていたのだ。理由をアリスに問いただすと、エディが夜中に冷蔵庫を漁るのを防ぐためだと答えた。しかし、アリスの浮気性を知った警察は、男友達とのお楽しみを邪魔されないためだと考えた。
 アリスの住居はマンションの1階で、子供部屋の窓は開いていたことから、何者かが子供たちを攫った可能性も否定できない。しかし、アリスの態度は冷静で、とても子供を攫われたようには見えなかった。警察は彼女への嫌疑を深めて行った。

 その日の午後、ミッシーの遺体が162丁目の空き地で発見された。死因は絞殺である。胃の内容物はほとんど消化されていなかった。つまり、彼女はアリスが寝かしつけたという午後9時頃に殺害されたのだ。午前4時にはすやすやと眠っていたというアリスの証言が出鱈目であることが明らかになった。
 1週間後にはエディの遺体が高速道路脇の茂みの中で発見された。腐乱がかなり進んでおり、死因の特定は出来なかった。

 聞き込みを続けた警察は、やがてアリスの男友達、ジョセフ・ロレックからこのようなことを聞き出した。
「彼女は子供たちを夫に取られることを恐れていました。取られるぐらいなら死なせた方がましとさえ云ってましたよ」
 また、隣人のソフィー・エアロミルスキーはこのように証言した。
「午前2時頃、換気のために窓を開けると、幼い子供を連れた男女が、近くに停めてある車に向って歩いていました。男は毛布に包んだ何かを抱えていました。それを車の座席に投げ入れると、女は『その子をそんな風に投げたりしないでよ』と文句を云いました。私は窓を閉めました。すると、その音を聞いた女が云いました。『誰かに見られたわ』」
 彼女はその女がアリスであることを認めた。

 アリスの裁判は世間の注目の的となった。事件そのものよりもスキャンダラスな部分に飛びついたのだ。裁判官が陪審員に対して「我々は彼女をモラルで裁いているのではありません」と忠告しなければならなかったほどだ。
 結局、ミッシーの殺害についてのみ有罪となり、5年から20年の刑が下されたわけだが、事件は多くの謎を抱えたままだ。ソフィー・エアロミルスキーの証言が真実だとして、その男は誰だったのか? そして、動機は何だったのだろうか?


参考文献

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス )


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