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ビンガム事件
The Bingham Case (イギリス)


 

 今回は古城を舞台にした、まるでマリオ・バーヴァの映画のような事件である。

 ビンガム家は過去30年に渡ってランカスター城の管理をしてきた。ところが、或る日を境に続々と不幸に見舞われる。
 まず1910年11月12日、娘のアニーが30歳の若さで急死する。次いで翌1911年1月24日、当主のウィリアム(73)が激しい嘔吐と下痢に襲われ、2日間苦しみ抜いた挙句に死亡。長男のジェイムス(37)が跡を継ぎ、腹違いの姉マーガレット(48)が家事を受け持つ。ところが、そのマーガレットも父親と同じ症状で急死する。

 ジェイムスは妹のイーディス(29)にマーガレットの代わりを任せたが、これはかなりの冒険だった。イーディスには知的障害があり、読み書きも満足に出来なかったのだ。そのくせ理想だけは高く、浪費が絶えない。見るに見かねたジェイムスは彼女を解雇し、他の女性を雇い入れた。ジェイムスが急死したのはその直後の8月15日のことである。観光客を案内している時に不意の腹痛に襲われ、そのまま3日間苦しみ抜いた挙句に死亡したのだ。体内からは大量の砒素が検出された。

 怪しいのはイーディスをおいて他にいない。事実、ジェイムスは倒れる直前に彼女が焼いたステーキを食べていたのだ。掘り起こされたウィリアムとマーガレットの遺体からも砒素が検出された。イーディスの有罪は免れないかに思われた。
 ところが、知的障害が彼女に有利に働いた。砒素は城内に保管されている除草剤が出所と思われたが、それを毒物として使用するだけの知能があるかが問われたのだ。陪審員はノーと下し、かくしてイーディス・ビンガムは無罪放免となった。

 ランカスター城を舞台にした連続毒殺事件はいまだに未解決のままだが、浪費家で多額の借金を抱え、且つ虚言癖があると法廷で指摘されたイーディス・ビンガムの犯行と見て間違いないだろう。家族を皆殺しにしたこの哀れな女がその後どうなったのかは参考文献には記されていない。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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