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1 債務不履行- 契約違反には仕返しできる
宅氏の土地建物を剛田氏に売却する話がまとまり、10月10日に、剛田氏の取引銀行で、代金支払いと引き換えに物件の引き渡し*と所有権移転登記※を行うことになった。

が、急に売るのが嫌になった宅氏は、約束した日時に銀行へ、行かなかった。 このことは、法律的には、どう評価されるだろうか。 |
| * |
引渡し 建物の引き渡しは、カギと設計図書を引き渡すこと、土地の引き渡しは、登記に必要な書類を提供することによって行われる。 |
| ※ |
所有権移転登記 所有者が交替した場合に行う登記。⇒Part11。なお、銀行では、登記申請の専門家である司法書士に必要書類を渡し、申請を依頼する。 |

1 債務不履行のタイプと履行遅滞になる時期
約束した日時に指定された銀行に行かなかった宅氏は、契約違反だ。 契約上の債務を約束どおり履行しないことを債務不履行という。
宅氏は、債務不履行と評価される。 |

債務不履行には、次のタイプがある。
| 5-1 債務不履行のタイプ |
| 1 |
履行遅滞 履行しなければならない時(履行期)に履行できるのに、正当な理由なく、履行しない。 |
| 2 |
履行不能 履行しようにも、履行できなくなってしまった。 |
1のたとえば
Caseのように宅氏が引き渡しをすべきときに引き渡さないとか、剛田氏が代金を支払うべきときに支払わない場合だ。
2のたとえば
宅氏が、建物を失火で焼失させた場合だ。

履行遅滞になる時は、債務に付された期限との関係で次のようになる。
| 期限の種類 |
たとえば |
履行期(履行遅滞になる時期) |
| 確定期限 |
10月10日に払う |
期限が到来したとき |
| 不確定期限 |
父が亡くなったら払う |
債務者が期限到来を知ったとき* |
| 期限の定めなし |
いつでも払う |
債権者から請求を受けたとき |
| * |
たとえば、剛田氏のご父君がなくなったときに代金を支払うとしていた場合は、剛田氏は、ご父君がなくなったときではなく、そのことを知ったときから履行遅滞となる。 |
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期限とは、将来発生することが確実な事情をいう。 10月10日に引渡すという約束の場合、10月10日は到来することが確実だから、10月10日は期限だ。 |
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10月10日のようにいつ発生するのかも確実な場合を、確定期限という。

確定期限の場合は、期限が到来したときが履行期になり、その時点で債務を履行しなければ履行遅滞となる。
の宅さんは、10月10日に登記を移すと約束したのに、銀行に来なかったのだから、確定期限に違反する履行遅滞だ。 |
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「父が亡くなったら支払う」というように、発生することは確実だが、いつ発生するかは決まっていない場合を不確定期限という。

不確定期限の場合は、債務者もいつ期限が到来するかわからないのだから、期限到来を債務者が知ったときが履行期になり、その時点で、なお履行しないときに約束違反=履行遅滞となる。 |
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そして、期限の定めがないときは、請求されればいつでも払うということだから、請求を受けた時が履行期で、そのとき支払わなければ履行遅滞となる。 |

2同時に履行の場合の履行遅滞
10月10日に、剛田氏は銀行に出向いたが、宅氏は今日は来ないという情報を得ていたので、代金振り込みの準備をしてこなかった。 ところが、予想に反して宅氏が書類を持参して銀行にあらわれたので、剛田氏は、代金の振込ができないにもかかわらず、土地建物の引き渡し*と所有権移転の登記※を宅氏に要求してきた。
この場合、宅氏が履行を拒絶すれば、宅氏は履行遅滞になるのだろうか。 |
| * |
引渡し 建物の引き渡しは、カギと設計図書を引き渡すこと、土地の引き渡しは、登記に必要な書類を提供することによって行われる。 |
| ※ |
所有権移転登記 所有者が交替した場合に行う登記。⇒Part11。なお、銀行では、登記申請の専門家である司法書士に必要書類を渡し、申請を依頼する。 |

Caseでは、代金の支払いと登記の移転は、引換え=同時にすることが約束されている。*
| * |
この場合は、同時履行関係が約束されているが、売買のようにお互いが債務を負う双務契約では、特約がない限り同時履行関係である。533条 |
同時に履行すべき場合に、相手方が、自分の債務の履行の提供をしないで、一方的に請求してきたときには、

自分も履行しないと主張できる。 |
相手の履行がないのに、自分だけ履行しなければならないのは、不公平だからである。
これを同時履行の抗弁権と言う。
宅氏は、剛田氏が代金の提供をしてくるまでは、自分のほうも引き渡さないと、同時履行の抗弁権を主張できる。
履行遅滞とは、<正当な理由がないのに履行期に履行しない>ことだから、
同時履行の抗弁権がある間=相手方が履行の提供をしてくるまでは、履行期に履行をしなくとも、履行遅滞にはならない。

宅氏が、代金の提供をしないで、一方的に物件の引渡しを求める剛田氏の請求を拒絶しても、履行遅滞にならない。宅氏には、剛田氏が代金の提供をしてくるまでは、同時履行の抗弁権があり、履行期に履行しないことが正当化されるからだ。 |
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|

3 債務不履行の効果
宅氏の建物引渡しは、予定より2か月も伸びてしまった。その間、剛田氏は、アパートを借りて、そこに住まざるを得なかった。剛田氏が払った家賃は、本来しなくてもよい出費なのだから、宅氏に請求できないだろうか。 |

債務不履行は約束違反だから、相手方は、仕返しをできる。
| 5-4 債務不履行の効果 (415条、541・543 条) |
履行遅滞でも履行不能でも、債務不履行があると、その債務不履行につき、
債務者の責に帰すべき事由*がある場合は、
債権者は
| ① |
債務者に、債務不履行によって生じた損害の賠償(埋め合わせ)を請求できる。※ |
| ② |
履行遅滞の場合には履行の催告をして、
履行不能の場合にはただちに、
契約を解除する(やめにする)こともできる。 |
|
*
|
責に帰すべき事由があるとは、責任があるという意味で、わざ(故意)と又は不注意(過失)でということである。 |
| ※ |
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めることとされる。過失相殺という。418条 |


宅氏の物件引渡しの遅れは、わざとやったことであり、債務者に責任がある。アパートに入居せざるを得ず、アパート代を支払ったことは、それによって生じた損害であるから、その賠償請求をできる・。
|
債務者に責任がない履行不能の場合*、損害賠償の請求も、契約の解除もできない。この場合は、後で説明する、危険負担の問題となる。
| * |
たとえば、落雷や類焼(もらい火)で建物がなくなった場合だ。 |

では、次の場合は、どうなるだろうか。

宅氏がわざと履行遅滞をしていたときに、落雷で建物が焼失してしまった。この場合も、債務者に責任のない履行不能だろうか。 |


この場合は、債務者に責任のある履行不能となる。 建物焼失の時点だけ見れば、不可抗力で債務者に責任がないが、そうなったのは債務者に責任のある履行遅滞をしていたからであり、全体として債務者に責任がある。よって、剛田氏は、契約を解除し、損害賠償を請求できる。※
|
| ※ |
債務者に責任のある履行不能の場合、債権者は契約を解除しないで、単に損害賠償を請求することもできる。 |

4 損害賠償額の予定
宅氏の建物引渡しが遅れたことによって、剛田氏が損害賠償を請求する場合、裁判所に対して、なにを証明しなければならないだろうか。 |

債務不履行によって生じた損害の賠償請求をするのだから、裁判所にそれをわからせるため、
|
| ①債務不履行の事実と、 |
| ②それによって損害が生じたことと損害額、 |
|
を証明しなければならない。 |

①の証明は、そう難しくはないが、②の証明は、面倒な場合がある。
そこで、あらかじめ、債務不履行の場合の損害賠償額を特約しておくことがある。争いになったら、この額で決着をつけようという特約だ。
この特約を損害賠償額の予定という。
| 5-5 損害賠償額の予定-損害の証明を不要にできる特約 (420条) |
| 1 |
当事者は、債務不履行につき損害賠償額を予定できる。この場合、裁判所も予定額を増減できない。 |
| 2 |
損害賠償額の予定を定めた場合も、本来の履行の請求や契約の解除をすることはできる。 |
| 3 |
違約金の定めをした場合は、別段の意思表示がなければ、損害賠償額の予定と扱う。 |
1は、つまり
この特約をしておくと、債務不履行の事実さえ証明すれば、損害額を証明しなくとも、予定された賠償額を請求できる
 |
当事者が、実際の損害はもっと少ないとか多いという主張ができないのはもとより、裁判所も予定額を増減した裁判をすることはできない。※ |
| ※ |
ただし、法外に高額の予定をした場合は、暴利行為となる限度で公序良俗違反・無効となる(1-3)ので、裁判所は相当な額まで減額できる。 |
2のせつめい
損害賠償額の予定をしたからといって、履行の請求や契約の解除ができなくなってしまうものではない、ということ。
3はつまり
違約金の特約は、損害賠償額の予定ではないときもあるのだが、それにつき何も言っていなければ、損害賠償額の予定と扱うということ。

5 金銭債務の特則
買主の剛田氏が代金を持参することを約束した前日、食中毒で急遽入院し、面会謝絶の状態が2か月経過し、退院後代金を支払った。この場合は、代金支払いが遅れたことは不可抗力であるので、 剛田氏は損害賠償責任は負わないのだろうか。 |

剛田氏が負う代金支払い義務は、金銭債務だが、金銭債務の債務不履行には、いくつか特殊性がある。
まず、金銭債務では、履行不能はありえず、履行遅滞しかない。履行不能とは、履行が不可能になることだが、金銭債務は、借金をすれば履行(支払い)できるはずだからだ。
さらに、

| 5-6 金銭債務の特則 (419条) |
| 1 |
金銭債務の不履行では、損害を証明しなくても、法定利率によって定める損害賠償(遅延損害金)を請求できる。ただし、約定利率が法定利率を超えるときはそれによる。*
| * |
法定利率 利率を定めていなかったときはこの利率にしなさいと法律が定めた利率。民法 では年5分である。約定利率は、契約で定めた利率。 |
|
| 2 |
債務者は、1の損害賠償については、不可抗力を抗弁とすることができない。 |
1のこころ
金銭債務を履行してもらえなかったら、少なくとも利息分は損害を被っているからだ。なお、利息相当額の損害賠償の請求ができるということは、実損害を証明しても利息相当額を超えては請求できないことも意味する。
2はつまり
損害賠償責任は、債務不履行につき不可抗力のときは成立しないのが原則だが、金銭債務ではこれを認めず、履行期に遅れた以上、不可抗力であっても、損害賠償責任を認めるということ。
2のこころ
金銭債務は借金をすれば履行できるのだから、不可抗力で払えませんでしたという言い訳は認めない。

剛田氏の代金支払いが2か月遅れたことは、不可抗力を抗弁とできないので、2か月遅れたことの、法定利率によって定める損害賠償(遅延損害金)責任を負う。
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2 契約の解除 契約をなかったことにする
宅氏は、剛田氏の再三の催告(催促)にもかかわらず、一向に剛田氏に土地建物を引き渡そうとしなかった。剛田氏は、こんな宅氏とは契約をやめにしたいと思っている。どうしたらよいだろう。 |

1 債務不履行による契約の解除
契約を最初からなかったことにするのが契約の解除だ。債務者に責任のある債務不履行があると、次のとおり相手方は契約を解除できる。
| 5-7 債務不履行による解除権の発生(541・543条) |
| 1 |
債務者に責のある履行遅滞をされたときは、相当期間を定めた履行の催告をし、その期間内に履行がなされなかったときに、契約を解除できる。 |
| 2 |
債務者に責のある履行不能にされたときは、直ちに契約を解除できる。 |
2のこころ
履行不能の場合は、履行の催告は無意味なので、直ちに契約を解除できる。

発生した解除権を行使すると、契約は解除される。
| 5-8 解除権の行使(540、544条) |
| 1 |
相手方に対する一方的意思表示でよい。いったん行えば撤回できない。 |
| 2 |
当事者が複数のとき、全員一律に法律関係が決まるように、その全員から、又は、その全員に対してのみ解除しなければならない。
この場合、一人につき解除権が消滅したときは、他の者についても消滅する。 |
2の、たとえば
売却する物が共有物で売主が複数の場合や、別荘を共同購入する場合のように買主が複数の場合だ。

Caseでは、宅氏の履行遅滞なので、剛田氏は相当期間を定め、代金を支払うから土地建物を引き渡すよう催告し、その期間内に引き渡しがなければ、契約を解除する旨、宅氏に一方的に通告すればよい。 |
2 解除条件付契約と条件について
1 解除条件付き契約
下記の契約の場合も、解除権を行使しないと、契約は解除されないだろうか。
「10月10日に、登記を移転し、 物件を引き渡すこととするが、 それまでに、剛田が住宅ローン を組めなければ、契約は解除されたものとする。」
|

この場合は、解除権の行使は必要ない。契約で、「剛田がローンを組めなければ、契約は解除されたものとする。」となっているのだから、そのとおりの効力が生じる。つまり、買主のローン不成立という事実が発生した以上、契約は解除されたことになる。 法律用語を使って言うと、この契約には、解除条件が付いているのだ。
|
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なお、契約で、「剛田がローンを組めなければ、剛田は、契約を解除することができる。」となっていた場合は、ローン不成立で契約の効力が当然になくなるのでなく、解除することもできるという趣旨だから、契約を効力を失わせるには、解除権の行使が必要だ。 |

条件とは、<将来発生することが不確実な事情>をいう。
例えば、「剛田が住宅ローンを組めなければ、契約は解除されたものとする」と、意思表示した場合、赤字部分が条件だ。
そして、この場合のように、<契約等の効力解消を条件成就にかからせる>場合を、解除条件という(条件成就により契約の効力を解消(解除)させる、という意味)。したがって、この場合は、契約の効力解消は、条件付の契約自体の効力として生じるので、解除権の行使は必要ない。
逆に、 <条件成就に、契約等の効力発生をかからせる>場合を停止条件という(条件成就まで効力発生を停止させている、という意味)だ。
2 条件について
仲介が成功することを停止条件として報酬の支払いを約し、土地売却の仲介を、剛田氏に依頼した宅氏は、剛田氏が買主として探してきた舘氏と、剛田氏を通さず、直接交渉をして売買契約を成立させてしまった。この場合、剛田氏は、舘氏を探してきたにもかかわらず、宅氏が直接取引をしたため、仲介は不可能となったので、報酬は請求できなくなったのだろうか。 |

条件に関する規定がいくつかあり、そこから出題されることがある。
| 5‐9 条件に関する規定 128~130条 |
| ① |
条件付権利の侵害の禁止
条件付権利は、条件成否未定の間でも侵害してはならず、侵害すれば条件成就のときに不法行為責任(損害賠償責任、 11-19)が生じる(128条)。 |
| ② |
条件付権利の処分、相続等
条件付権利は条件成否未定の間でも、保存(仮登記等 14-13)、処分(譲渡等)、相続等できる(129条)。 |
| ③ |
条件の成就の妨害
条件成就により不利益を受ける当事者が故意に条件成就を妨害したとき、相手方は、条件成就とみなせる(130条)。 |
たとえば
①は、他人の抽選前の宝くじを破いてしまうと、宝くじが当選したとき、損害賠償責任を負う。
②は、抽選前の宝くじも相続できる。
③は、Caseの答を参照

Caseは、③条件成就の妨害の具体例だ。宅氏は、剛田氏の仲介成功という条件が成就すれば、剛田氏に報酬を支払わなければならないのだから、《条件成就により不利益を受ける者》にあたる。その宅氏が、剛田氏が紹介しようとした舘氏と、直接交渉をして売買契約を成立させてしまったことは、剛田氏の報酬請求権の停止条件の成就を妨害になる。よって、剛田氏は、条件成就とみなして、宅氏に報酬を請求できる。
|
 |
3 解除の効果
宅氏が剛田氏に土地建物を売却し、土地を引渡し、登記も移転したところ(①)、剛田氏は、直ちに同土地建物を舘氏に転売し、登記名義も舘氏に移した(②)。
その後、宅氏が剛田氏の代金不払いを理由に剛田氏との契約を解除した(③)場合、
宅氏は舘氏から土地建物を返してもらえるだろうか。 |
解除前に利害関係をもった第三者との関係
宅―――①―――剛田―――②――→舘

③解除
|

解除されると契約がなかったことになるので、各当事者は契約前の状態に戻す義務を負う。
| 5-10 解除の効果としての原状回復義務 (545・546条) |
| 1 |
契約解除により、移転した権利は復帰するので、各当事者は原状回復義務を負う。
原状回復義務相互は、同時に履行の関係となる。
| ただし |
解除前に利害関係をもって登記までした第三者の権利を害することはできない。 |
|
| 2 |
金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付けなければならない。 |
| 3 |
解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 |
1はつまり
契約解除により、契約は失効するので、いったん移転した権利は復帰し、また、引き渡したものがあれば、元に戻す(原状回復)。
相互に原状回復義務を負うときは、同時に履行の関係となる。*
| * |
つまり、お前が返さないなら、私も返さないよと言える。 |
ただし、解除前に契約目的物を取得等して、登記までした第三者の権利を害することはできない 登記までした第三者には、契約解除による権利の復帰を対抗できない。 結局、その第三者に権利を取得されてしまう。
そのこころ
契約解除は、第三者には関係のないトラブルだ。まして、第三者が登記までしている場合には、第三者を保護する必要がある。
3はつまり
契約を解除しても、債務不履行を理由とする損害賠償の請求はできる。
剛田氏から転売を受けた館氏は、解除前に利害関係を持った第三者なので、登記があれば、解除を対抗できない。登記がなければ、解除を対抗できる。Caseでは、登記があるので、解除を対抗できない。その結果、宅氏は、土地建物を返してもらえない。
 |

Caseでは、館氏が土地建物を買ったのは、宅氏が剛田氏との契約を解除する前だが、もし、館氏が、宅氏が契約を解除した後に土地建物を買った場合はどうなるだろうか。
その場合は、物権変動と登記(6-4)のところでやるが、結論だけ言っておくと、宅氏への権利の復帰と館氏への権利の譲渡が、二重譲渡の関係になるので、宅氏と館氏の登記の早い者勝ちになる。
|
|
館氏が、宅氏が契約を解除した後に土地建物を買った場合、
宅と館は、登記の早いもの勝ち  |
|
4 解約手付
宅氏の土地建物を、5000万円で剛田氏に売る話がまとまり、その際剛田氏は手付として100万円を支払った。が、その翌日、館氏から「剛田に売った物件を、7000万円で買いたい。」と宅氏に電話がかかってきた。宅氏は剛田氏との契約をやめにして、館氏との契約に乗り換えたいと思うのだが、剛田氏との契約をやめるにはどうしたらよいのだろう。
|

契約をした以上、相手方が債務不履行をしていないのに、契約を解除することはできないのが原則だ。
だが、Caseでは手付の授受があったので、宅氏は、手付金相当額の100万円の損を覚悟すれば、剛田氏との契約を解除できる。
手付とは、契約締結の際、当事者一方(一般には買主)が他方に交付する金銭その他のものだ。交付するのは、金銭でなくともよい。契約締結と同時でなくてもよい。
手付は、契約を締結した証拠として交付する。また、代金の一部前払いの意味をもたされているのが普通だ。それ以外の手付交付にともなう約束を手付契約という。 
手付契約の内容は、
| ① |
手付だけの損を覚悟すれば、気が変わったというだけで契約を解除できるとする特約 |
| ② |
一方が債務不履行をしたら、相手方は手付金相当額を罰金として取れる、とする特約 |
などがある。
しかし、手付は交付したが、手付契約の内容をはっきり定めていない場合も多い。

そこで、民法は、売買契約の際に買主が売主に手付を交付したときは、特に反対の意思表示がない限り、上記①の内容の手付契約をしたものと扱うことにした。①の内容の手付を解約手付というので、これを解約手付の推定と言う。
Caseでは、特に反対の意思表示がないので、剛田氏が宅氏に交付した手付は、解約手付と扱われる。 解約手付には、次の効力がある。
| 5-11 解約手付の効力-手付だけの損を覚悟すれば解除できる(557条) |
| 1 |
買主が売主に手付を交付したときは、 相手方が履行に着手*するまでは、
| 買主は手付を放棄し、 |
売主はその倍額を償還して、 |
契約を解除できる。
 |
手付交付者が解除するには、その旨口頭で告げればよいが、手付受領者(売主)が解除をするには、手付の倍額を償還すると告げただけの口頭の提供では足らず、手付の倍額を現実に提供しなければならない(判例)。
そのこころ
口頭の提供だけでは、手付倍返しがなされるか不確実だからだ。 なお、手付倍返しで手付受領者が解除する場合も、手付の2倍損をするわけではない。解除をすれば手付はもともと返さなければならないのだから、損をするのは手付金相当額であることには変わりない。 |
|
| 2 |
解除をされても、相手方は損害賠償の請求はできない。 |
1のせつめい
手付交付者からも手付受領者からも、気が変わったというだけで契約を解除できる。が、相手方に対する迷惑料として、手付交付者が解除するには手付を放棄しなければならず、手付受領者が解除するには、手付を倍返ししなければならない。
そして、解約手付による解除ができるのは、相手方が履行に着手するまでだ。相手方がこの段階以上に契約を進めてしまったら、契約を止めにされることの損害が、迷惑料を上回ってしまうからだ。
自分が履行に着手していても、相手方が履行に着手していなければ、解約手付による解除はできることに注意。
2のこころ
手付放棄または手付倍返しには、相手方への損害賠償の意味も含まれているからだ。
| * |
履行の着手の具体的な時点は、 |
| 売主の履行の着手は、 |
物件の引渡しと登記の準備ができたことを買主に伝えた時点 その時まで、買主は手付を放棄し契約を解除できる |
| 買主の履行の着手は、 |
手付以外に代金に充当する金銭を支払った とき
その時まで、売主は手付の2倍を返して契約を解除できる |
|

Caseの宅氏は、剛田氏が履行に着手(手付以外に代金に充当する金銭を支払う)までなら、200万円を剛田氏に支払って、契約を解除できる。 |

では、買主剛田氏は、どんな場合に手付放棄で契約を解除するのだろう。
宅氏と契約した後、3000万円で買える、もっとよい土地建物を見つけた場合は、手付を放棄して、宅氏との契約を解除するだろう。
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|
| |
|
3 危険負担
10月1日に宅氏所有の土地建物を剛田氏に売却する契約が成立し、10月10日に、代金支払いと引き換えに物件の引き渡しをすることになったが、10月7日に、落雷で、建物が滅失してしまった。建物がなくなってしまったことの損失は、宅氏が負うのだろうか、剛田氏が負うのだろうか。
|

契約後・引渡し前に不可抗力で契約目的物が滅失したことのリスクはだれが負うのか。
建物滅失の原因が売主・宅氏の失火であったなら、売主に責任のある債務不履行責任(履行不能)が成立する(買主は、無催告で契約を解除でき、損害賠償の請求もできる 5-4))。 しかし、落雷や類焼・放火の場合には、売主に責任がない。この場合には、不能になった建物の引き渡し債務は単純に消滅する。*
| * |
売主に責任がないのだからやむを得ない。もちろん、建物を建て直して引き渡す必要もない。売買契約では、そこまでは、約束していない。 |

が、売買契約からは代金支払い債務も生じていたが、その債務はどうなるのか。
それが危険負担の問題だ。
 |
代金債務も消滅すれば、売主は、建物は失くなった上、代金を支払ってもらえなくなるのだから、リスクは売主が負ったことになる。 |
 |
代金債務は残るなら、建物は引渡してもらえないのに代金は支払わなければならないのだから、買主がリスクを負ったことになる。 |

民法上、建物の売買契約での危険負担は債権者(買主剛田)が負う。
民法は、建物の売買のような特定物(当事者にとって世の中に一つしかないもの)の売買では、債務者(売主)の責めに帰すべからざる事由による滅失・損傷では代金債務は消滅しない、つまり危険は買主が負担するとしているからだ。
建物引渡し債務の債権者がリスクを負うから債権者主義という |
そのこころ
特定物の売買契約では、あとで説明するように、目的物の所有権は契約と同時に買主のものになっているので(6-1)、滅失・損傷のリスクは所有者となった買主が負うのが当然だと考えるのだ。
| 5-12 建物の売買契約の危険負担(534条) |
| 建物の売買契約で、建物が引渡し前に、売主の責めに帰することができない事由により、 |
| 滅失 |
⇒売主は何も引渡す必要はなく、買主は代金全額を払う義務。 |
| 損傷 |
⇒売主はそのまま引渡せばよく、 買主は代金全額を払う義務。 |
民法の定めが納得できないなら、特約で別段の定めをしておけばよい。危険負担に関する定めは、特約がない場合にはこのようにしなさいという趣旨なのだ。

建物売買契約で建物が滅失する場面が3回出てきた。まとめておこう。
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5-13 建物売買で建物が滅失する3つの場面 |
| 1 |
契約締結《前》に滅失していた ⇒ 契約は無効 (1-3) |
| 2 |
契約締結《後》引渡し《前》の滅失は、
| ① |
売主に責任あり(売主の失火)⇒売主の責めに帰すべき債務不履行(履行不能)
買主は、契約を解除し、損害賠償を請求できる。(5-4) |
| ② |
売主に責任なし(落雷)⇒危険負担債権者主義・代金債務全額につき残る
売主は、なにも引渡さなくてもよく、買主は、代金全額支払う義務。 |
|
|
|
 |
|
債務不履行と解除は、1問は出る。解除は、利害関係をもった第三者との関係(5-10)がよく問われる。損害賠償額の予定と金銭債務の特則は、両制度のうちいずれかが、5年に1回程度周期的に出題される。危険負担は、5年以上で1回程度。
また、建物の売買で目的物が滅失する3つの場面(5-13↑真上 )は、どこかの場面が2年に1回程度は出題される。 解約手付も、宅建業法の業者自ら売主規制の前提となる制度で、他の記述と混ぜて、よく出題される。解約手付の効力(5-11)は、きっちりおさえておこう。宅建業法からも出る。 (業者自ら売主規制・手付に関する規制) |
|
|
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1 物権変動と登記
10月1日に、宅氏の土地建物を剛田氏に売却する契約が成立した。それによると、10月10日に、剛田氏指定の銀行で、代金5000万円の支払いと引き換えに土地建物の引き渡し及び登記申請の依頼を行うこととなった。この場合、土地・建物の所有権は、いつ、どういうことをしたときに宅氏から剛田氏に移るのだろうか。
|
1 売買契約で所有権はいつ移転するのか
土地の売買契約をすれば、土地の所有権が売主から買主に移る。また、抵当権設定契約をすれば、目的不動産に抵当権が設定される。 このように物権が移転したり、設定されたりすることを物権変動という。
この物権変動は、いつ、どういうことをしたときに生じるのだろうか。
これにつき、民法176条は次のように定めている。
| 6-1 物権変動の要件と時期 (176条) |
物権変動は、原則として、意思表示=契約をしただけで、その時点で生じる。
例外として、特約があれば、その特約のとおりに変動する。 |
| つまり 土地の売買契約をしただけで所有権は移転する。移転の時期も、特約がなければ契約をした時だ。もし、「代金支払いのときに所有権も移転する」と特約すれば、そのとおりに移転する。
|

所有権移転時期につき特約のないCaseの場合、10月1日の契約をした時点で、土地建物の所有権は宅氏から剛田氏に移っている。 |

では、宅氏が二重に契約をした場合はどうなるだろう。
2 二重に譲渡した場合の決着のつけ方
宅氏・剛田氏の契約が成立した翌日、館氏から宅氏に「剛田に5000万円で売った物件を、7000万円で買いたい。」と電話がかかってきた。動揺した宅氏、その日のうちに館氏と会って、即時館氏とも契約をしてしまった。さらに、翌日には、書類をそろえて、所有権移転の登記をして登記名義を宅氏から館氏に変えてしまった。この場合は、どちらが所有権を取得するのだろう。
|

このように、一つの不動産を2人の人に売ってしまうことを二重売買とか二重譲渡という。 この場合に「契約だけ所有権は移転する」というルールだけでは、2人とも所有者ということになってしまう。 しかし、物件は一つしかないのだから、どちらか一方を所有者と決めなければならない。
そこで、民法は登記制度*を用意し、そこに証拠を残しておかなければ、つまり、登記をしておかなければ、物権変動の当事者以外の第三者には、物権変動があったことを対抗できない=主張できない、とした。
| * |
登記制度 不動産(土地・建物)の物理的な現況と権利関係を記録しておき、誰でも閲覧できるようにする制度。権利関係は目に見えないので、それを見えるようにし、取引の安全と安定を図るのである。くわしくは、Part11 。 |
| 6-2 不動産物権変動の第三者対抗要件(177条) |
| 不動産に関する物権変動は、登記をしなければ当事者(及びその地位をそのまま引き継ぐ相続人)以外の第三者には対抗できない。 |
 |
物権変動の当事者(及びその地位をそのまま引き継ぐ相続人)に対しては、契約だけで権利は完全に移転しているので、登記をしていなくても権利の移転を主張できる。
|
Caseでは、宅氏から館氏へ所有権が移転した旨の登記をしている。
この場合の6‐2の具体的な意味は、
剛田氏は館氏より先に契約しているが登記をしていないため、所有権を取得したこと(物権変動)を、宅・剛田間の物権変動の第三者である館氏に対抗できない。 逆に、
登記をした館氏は、宅・剛田間の物権変動の第三者である剛田氏に所有権を取得したことを対抗できる。
 |
対抗できるかできないかは登記の有無だけで決め、善意悪意は問わない。つまり、登記をした者が自分より前に契約した者がいることを知っていた場合でも、自己の権利を対抗できる。 |
剛田氏も館氏も登記をしていないときには、どうなるのか。

このままでは、互いに所有権の取得を対抗できず、先に登記を受けた者の早い者勝ちの状態だ。

その場合、登記を先に受けられなかった剛田氏はどうしたらよいのか。
宅氏の債務不履行責任を追及するほかない。
宅氏は館氏に登記を移してしまい、剛田氏に完全な所有権を移転することを不可能にしたのだから、債務者に責任のある履行不能の責任を負う。
つまり、 剛田氏は契約を解除し、目的物に代わる損害の賠償を請求できる(5-4)。

登記がない剛田氏は、自分が所有者となったことを館氏に対抗できず、逆に、登記がある館氏は自分が所有者になったことを剛田氏に対抗できる。結果、登記のある館氏が所有権を取得できる。剛田氏は、館氏の債務不履行責任を追及するほかない。 |

3 登記を対抗要件とする物権変動
10月1日に、剛田氏が、宅氏から、宅氏所有の甲土地に抵当権の設定を受けた場合、そのことを登記する前に、10月2日に宅氏が同土地を館氏に売却し、その旨登記もした。
剛田氏は、甲土地に抵当権が設定されていることを館氏に対抗できるだろうか。 |

登記を第三者対抗要件とするのは、売買による所有権の移転だけではない。 登記制度は、目に見えない権利関係を目に見えるようにして、取引の安全と安定を図る制度だから、原則として、すべて物権変動は、目に見えるように登記をしなければ第三者に対抗できない。

たとえば、 贈与(死因贈与を含む)、 特定遺贈、 遺産分割、による権利の取得や 地上権・抵当権・不動産賃借権の設定も、 登記をしておかないと第三者に対抗できなくなる。

| 6-3 登記を対抗要件とする物権変動1(177条) |
| 1 |
贈与(死因贈与)・特定遺贈・遺産分割による権利の取得 |
| 死因贈与 |
贈与者が死亡したときに効力が生じる贈与 11-16 |
| 特定遺贈 |
特定の財産を遺言により譲与すること 特定遺贈と包括遺贈 |
| 遺産分割 |
遺産分け 12-8 |
|
| 2 |
抵当権、不動産賃借権、地上権、等の設定 |
| 抵当権 |
債権の引当とするため、不動産の占有は移さないで、付着させる(設定する)権利で、債権の支払いがないときに、付着させた不動産を競売できる。 8-1 |
| 地上権 |
他人の土地を、工作物や竹木を所有するため、使用できる権利 9-25 |
| 不動産賃借権 |
有料で他人の不動産の使用・収益を要求できる権利 Part9 |
|
1はたとえば
甲土地の贈与を受けた場合、そのことを登記しておかないと、同土地を買い受けた第三者に、同土地の贈与を受けたことを対抗できなくなる。
死因贈与、特定遺贈、遺産分割の場合も同様で、その旨の登記をしておかないと、同一物件を買い受けた第三者に対抗できなくなる。
2はたとえば
甲土地に抵当権の設定を受けた場合、そのことを登記しておかないと、同土地を買い受けた第三者に同土地に抵当権を設定したことを対抗できなくなる。
不動産賃借権や地上権の設定の場合も同様で、その旨の登記をしておかないと、その物件を買い受けた第三者に、賃借権等を設定したことを対抗できなくなる。

剛田氏は、抵当権を受けてもそのことを登記していないので、宅氏から同土地を買い受けた館氏に、同土地に抵当権が設定されていることを対抗できなくなってしまった。 |

また、詐欺・強迫取消しによって取消し者へ権利が復帰したことや契約解除により解除者へ権利が復帰したこと、さらには取得時効により権利を取得したことも一種の物権変動なので、その旨の登記をしておかないと取消し・解除後又は時効完成後に当該不動産の権利を取得した第三者には対抗できなくなる。

| 6-4 登記を対抗要件とする物権変動2 |
|
| 3) |
取消しにより権利が復帰したことを取消後の権利取得者に主張するとき |
| 4) |
解除により権利が復帰したことを解除後の権利取得者に主張するとき |
| 5) |
時効により権利を取得したことを時効完成後の権利取得者に主張するとき |
|
3)4)は、たとえば
宅・剛田間の土地売買契約に基づき、剛田氏に所有権移転登記がなされた後に、宅氏が当該契約を詐欺又は強迫を理由に取り消した(又は、解除した)場合、宅氏は、その旨の登記*をしておかなければ、所有権が復帰したことを、取消し(解除)後に当該不動産を剛田氏から取得した第三者・館氏に対抗できなくなる。
| * |
その旨の登記 剛田氏への所有権移転登記を抹消するか剛田氏から宅氏へ所有権移転登記をして、登記名義を宅氏に戻しておくことを指している。 |
そのこころ
《取消し・解除による権利の復帰①》と《館氏への権利の譲渡②》は、剛田氏を起点とする二重譲渡類似の関係となるからだ。したがって、①と②は、登記の早い者勝ちになる。
なお 登記をしないと取消し又は解除による権利の復帰を対抗できないのは、<取消し後又は解除後の権利取得者>に対してであることに注意。
5)のせつめい
後で説明するように(Part7)、取得時効とは、無権利者であっても、不動産を長期間占拠(占有)すると権利を取得できるという制度だ。そこで、宅氏の土地を剛田氏が時効取得した場合には、
 |
時効取得者・剛田氏と時効完成当時の権利者・宅氏は、物権変動の当事者≒買主・売主の関係になるので、時効取得者・剛田氏は、登記なくして時効による取得を時効完成当時の権利者・宅氏に主張できる。 しかし、 |
|
時効取得者と時効完成後に権利者・宅氏から権利を譲り受けた館氏との関係は、二重譲渡類似の関係となる。そこで、剛田氏は、時効完成後の権利取得者・館氏には、登記なくして時効取得を対抗できない。つまり、剛田氏と館氏は登記の早い者勝ちとなる。 |

以上取消解除後に権利を取得した者に対しては、取消・解除は登記をしないと対抗できないが、
<取消し前又は解除前に権利を取得した者>との関係では、取消・解除は登記をしないと対抗できないであろうか。

<取消し前又は解除前に権利を取得した者>との関係では、
取消し・解除による権利の復帰は、
登記をしなくても対抗できるのを原則とする。
| そのこころ |
第三者が権利を取得する前に、権利が復帰した旨の登記をせよとするのは無理なので、登記がないと権利の復帰を対抗できないとすると、第三者との関係では、取消制度、解除制度の否定になってしまう。 |
|
ただし、例外的に、第三者に保護すべき事情がある場合は、その第三者には、取消し・解除による権利の復帰を、対抗できないとする。
| そのこころ |
第三者を保護するためである。
第三者に保護すべき事情がある場合とは、
詐欺取り消しにあっては権利を取得した第三者が善意の場合であり、(3-1)
解除の場合にあっては権利を取得した第三者が登記までした場合である。 (5-10) |
 |
取消解除後の第三者との関係及び取消解除前の第三者との関係は、問題を解いてみないとよくわからないと思う。一問一答問題を十分演習しておこう。 |
|
|
|
4 登記なくして対抗できない者と対抗できる者
剛田氏は、土地所有者宅氏と売買契約を締結し甲土地の所有権を取得したが、まだ所有権移転の登記は受けていない。この場合に、甲土地を不法に占拠している館氏に、所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができるだろうか。 |

権利取得者は、登記がないと一切権利主張できないのではない。登記制度の目的から、権利取得者が《登記がないと対抗できない者》と《登記がなくても対抗できる者》の区別は次のようになる。
| 登記制度の目的 |
正当な利害関係者相互の優劣を決める。 |
| 6-5 登記なくして対抗できない者と登記なくして対抗できる者 |
| 1 |
その物件に正当な利害関係を有する第三者には、登記なくして 権利取得を対抗できない。
| 正当な利害関係者の典型は、その物件を譲り受けた者(所有権の取得者)だが、所有権以外の権利、たとえば賃借権、抵当権などを有する者も含む。 |
|
| 2 |
その物件に正当な利害関係を有しない次の者には、権利者は登記なくして権利主張できる。
| 1) |
売主等契約当事者及びその相続人 |
| 2) |
無権利者-虚偽登記名義人、虚偽契約による譲受人、不法占拠者等 |
| 3) |
詐欺、強迫によって他人の登記の申請を妨げ、自分への登記をした者 |
| 4) |
他人のため登記を申請する義務があるのに、自分への登記をした者 |
| 5) |
上記3・4に準ずるほど悪質な者=背信的悪意者  |
| |
 |
但し、背信的悪意者から同物件を譲り受けた者に対しては、その者自身が背信的悪意者と認められない限り、登記なくして権利主張できない。 |
|
|
2の1)はつまり
契約当事者である売主は、売ったことにより正当な利害関係を失っているので、買主は登記なくして自己の権利を主張できる。また、売主の相続人も売主の地位をそのまま引き継ぐので、正当な利害関係は有しない。
2の2)のたとえば
虚偽登記の名義人や虚偽表示の契約による譲受人は、その不動産に何ら利害関係を有しない。
権利者は登記なくして権利を主張できる。
また、建物を不法に破壊する不法行為者や、不法に占拠する不法占拠者も何ら正当な利害関係を有しない。
所有者は、所有権の登記をしていなくても、
自己の所有権を主張できる=不法行為者に対する損害賠償の請求や、不法占拠者に対する建物からの退去を請求できる。
2の3)のたとえば
二重譲渡の場合に、ライバルの譲受人の登記申請を詐欺強迫によって妨げ、自己への登記を強引に行った者。
詐欺強迫を受けた者は、登記なくして自己の権利を対抗できる。
2の4)のたとえば
代理人として本人のために不動産を取得した者が、自分でその不動産が欲しくなり、本人のために登記申請する代わりに、自分名義の登記をした者。
本人は、登記なくして自己の権利を対抗できる。
2の5)のたとえば
未登記の譲受人に登記名義を不当な対価で引き取らせるため、売主と共謀して安価に登記名義を得た者(要するにいやがらせの二重譲受け)。
未登記の譲受人は、登記なくして自己の権利を対抗できる。
以上の、正当な利害関係を有しないには、
| 利害関係が全然ない場合と、 |
1)と2)がそうである |
| 利害関係はあるが、それが正当なものでない場合 |
3)~5)がそうである |
がある。
3)~5)は、形式的には二重譲受人だから利害関係はあるのだが、その振る舞いから、利害関係の正当性が認められない
これらの者に対して、
ライバル関係にある未登記の譲受人、
| 3)は詐欺強迫を受けた者、 |
| 4)は本人、 |
| 5)は未登記の譲受人 |
は、登記なくして自己の権利を対抗できる。
なお、3)~5)の者は、単なる悪意を超えて悪質であるという共通性があるので、 背信的悪意者という。 |
甲土地を不法占拠する館氏は、甲土地につき無権利だから、甲土地の所有者剛田氏は、登記がなくても所有者としての主張、すなわち甲土地からの退去請求ができる。 |
|
|
5 虚偽登記を知りながら放置すると権利を失う
剛田氏の秘書館氏は、剛田氏所有のブリリアントマンション72号室につき、各種の書類を偽造して自らに登記名義を移したうえ、剛田氏の友人宅氏に売却し、所有権移転登記をした。なお、契約当時、宅氏は館名義の虚偽登記を真実なものと誤信していた。この場合、宅氏は、同マンションの権利を取得できるだろうか。
|

これは、取得できない。館氏は無権利者で、虚偽登記名義人だ。その虚偽登記名義人から所有権移転の登記を受けても、権利は取得できない。仮に、宅氏が館氏を権利者と誤信し、そのことに過失がない(善意・無過失)場合でも、権利を取得できない。 |
真の権利者が、虚偽登記に関与した場合はどうなるだろう。
剛田氏がマンションを買うとき、名義を隠しておきたいので愛人サユリさん名義の虚偽の登記をした。これを知ったサユリさんは長年尽くしたのだからこのくらい当然と、そのマンションを、サユリさんを権利者だと信じている宅氏に売ってしまった。宅氏は、マンションを取得できるだろうか。

この場合も、虚偽登記名義人と取引しても権利を取得できないというルールだけで解決を図ると、宅氏は権利を取得できない。しかし、虚偽の登記を作り出した者の権利まで守ってやる必要はない。そこで、
|
6-6 権利者が虚偽登記を知りながら放置すると権利を失う(判例) |
| 権利者が、虚偽の登記に自ら関与した場合はもとより、虚偽の登記があることを知りながら放置しただけでも、虚偽登記名義人を権利者と信じた=善意の第三者(虚偽登記名義人からの譲受人)には、自己の権利を対抗できなくなる。 |
そのこころ
虚偽登記を知りながら放置するのは、実質的に虚偽表示と同じだから、虚偽表示無効は善意の第三者に対抗できないというルール(3-3)を、類推適用(似た状況に適用)する。

剛田氏が虚偽の登記を作り出したのだから、宅氏が虚偽登記であることを知らなかった(善意)場合は、権利を取得できる。 |
|
|
|
|
| 物権変動と登記は、2年に1回程度の出題。 登記なくして対抗できない権利変動は、典型的な二重譲渡の場合のほか、抵当権の設定、取消し・解除による権利の復帰、時効取得、賃貸人の地位の移転等である。
また、登記なくして対抗できる第三者等も出題ポイントである。まず、当事者(売主)は、当然だが、その相続人も当事者の地位を引き継ぐので、登記なくして対抗できる。また、何ら正当な利害関係のない無権利者や背信的悪意者も登記なくして対抗できる。
以上をきちんと判断できればよい。 |
|
2 債権の消滅―契約関係の終了
代金先払いの特約をしていた宅氏所有の土地建物売買契約の買主剛田氏が、期日に、代金を持参して、売主宅氏の住所地におもむいた。ところが、宅氏は、館氏から、剛田氏に売った額より高い値段で買いたいという申し込みがあり、剛田氏との契約をやめたくなっていた。そこで、宅氏は、剛田氏が代金支払いのため来訪しても、居留守を使って、会おうとしなかった。剛田氏は、約束した日に代金を支払っていないのだから、契約違反=債務不履行ということになるのだろうか。 |

目に見えない所有権は契約をしただけで移転するが、代金の支払いや建物の引渡しは、現実に約束を果たす=債務を履行する=弁済をすることが必要になる。この弁済につきいくつかルールがある。
また、弁済以外のイレギュラーな債権の消滅原因もある。

1 弁済
1弁済の提供
Caseの剛田氏は、やることはやったのだから、これが債務不履行になってはおかしい。そこで、
| 6-7 弁済提供 (492 条) |
| 債務者は、弁済の提供*の時から、一切の債務不履行責任を免れる。 |
| * |
弁済の提供とは、弁済の準備をして、債権者の受領をうながすことだ。
弁済の準備の程度は、債権者が受け取ろうとすれば直ちに受け取れるようにする(現実の提供)のが原則だが、債権者が受領拒絶をしている場合は、弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すれば足りる(493)。これを口頭の提供という。 |

Caseの剛田氏は、現金を持参し、宅氏宅を訪れているので、現実の提供をしており、これ以降、債務不履行責任を負うことはない。 |

しかし、債務は依然として負っている。
これがおもしろくないときは、供託をして、債務そのものを免れることができる。
供託とは、法務局等の指定の場所に、債務者が弁済すべきものを預けておき、債権者が受け取ろうとすれば受け取れるようにしておく制度だ。

ただし、供託をするためには、次の供託原因がなければならない。
受領を拒みとは、債務者が弁済の提供をしたのに、受け取りを拒絶すること。
受領できないとは、債権者が行方不明であるなどの場合。
債権者を確知できないとは、債権者側に共同相続があり、だれがその債権を相続したのかわからないという場合など。

Caseの宅氏は、あからさまな居留守を使っているので、受領拒絶にあたり、供託することは可能だ。

2弁済の費用
不動産の売買契約では、登記の費用(登録免許税、司法書士への謝礼)は、どちらが負担すべきだろうか。

登記費用は、弁済費用にあたる。買主(建物引渡し債務の債権者)負担の特約をすることが多いが、民法の規定では、売主負担だ。
| 6-9 弁済費用 (485 条) |
| 弁済費用は、特約がなければ債務者(登記費用については売主)が負担する。 |
民法の規定は、実務の慣行とは逆になっている。民法は、特約がないときはこうしなさいという趣旨だから、この慣行が悪いということではない。
なお、契約の費用(契約書の紙代等)は、両当事者が等しい割合で負担する(558条)。

3その他の弁済に関するルール
その他、弁済に関して、次のルールがある。
| 6-10 弁済に関するその他のルール (486条等) |
| 1 |
受取証書(領収書)の交付(486条)と弁済は、同時履行の関係にある(判例)。 |
| |
なお、抵当債務の弁済、と、抵当権*設定登記の抹消は、弁済が先履行になる。
また、債権証書=借用書等の返還と弁済では、弁済が先履行になる(487条)。 |
| |
| * |
抵当権とは、債務者が債務を支払わないときに備え、債権者が債務者又は第三者の不動産に設定(付着)させる権利だ。債務者が債務を支払わないときは、債権者=抵当権者は、その不動産を競売して、その代金を自分の債権の弁済に充てられる(抵当権の実行)。このように債務の弁済を確実にするための権利だから、抵当債務の弁済があれば消滅し、抵当権設定登記も抹消することになる。 |
|
| 2 |
債務者が同一債権者に複数の債務を負うとき、弁済として提供した給付が総債務に不足するとき、どの債務に充当するかは弁済者が指定できる(488条)。ただし、元本と利息では、まず利息に充当しなければならない(491条)。 |

4第三者の弁済
債務者以外の第三者も、弁済できる場合がある。
弁済は、タレントの出演債務のように、①個性が強く、第三者の弁済が性質上許されないもの、又は②当事者が反対の意思表示(特約)をしたときを除き、第三者も弁済をすることができる(474条1項)。
ただし、
|
6-11 第三者弁済と債務者の意思 (474条2項) |
| |
| 弁済につき、 |
利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済できない。*
利害関係を有する第三者は、債務者の意思に反しても弁済できる。 |
|
ここで、弁済につき利害関係があるとは、弁済をすることによって法律上利益を受ける関係にあるということだ。たとえば、剛田氏が宅氏に対する代金債務を払えない場合、剛田氏の親兄弟は剛田氏のために立替え払いをしたいという感情的な利害関係をもつかもしれないが、それはここでいう利害関係ではない。
これに対して、剛田氏の債務の引当て(カタ)に、自分の不動産に抵当権をつけて(設定して)あげた者(=物上保証人)は、ここでいう利害関係者になる。物上保証人は、剛田氏が代金を支払ってくれないことには、抵当権を実行されて自分の不動産を失うおそれがある。そのおそれをなくすため、剛田氏の債務を第三者の立場から弁済する利益がある。 |
*のこころ
第三者が弁済するといっても、これは立替え払いだから、弁済者は、債務者に、立替え分を返してくれと請求でき、これを求償という。とすると、弁済希望者が○暴力関係の人だった場合、債権者より取り立てが厳しいはずだ。債務者にとって、○暴関係の人が代わりに払ってくれるということは、ありがたいことでなく、実は怖いことなのだ。そこで、債務者をこのように怖い目にあわせないよう、法律上の利害関係者でない者は、債務者の意思に反しては弁済できないとしたのだ。

第三者が弁済をすると、債務者に求償できる(立て替えた分を返してくれと請求できる)が、この求償権を確実なものにするため、債権者に代位(成り代わる)できる。代位により、弁済をした第三者は、債権者が持っていた権利を取得することになる。
|
6-12 弁済者による代位-代位とは成り代わること (499・500条) |
| 1 |
弁済につき正当な利益をもたない者が弁済したときは、債権者の承諾を得て、債権者に代位できる。代位したことを債務者に対抗するためには、その旨、債権者から債務者に通知するか、債務者が承諾しなければならない。 |
| 2 |
弁済につき正当な利益をもつ者は、弁済によって当然に(=債権者の同意を要せず)債権者に代位し、債務者にも対抗できる。 |
せつめい
| 1の弁済につき正当な利益をもたない者とは、弁済につき利害関係がない者と同じだ。この者が、債務者の意思に反せず弁済したときは、債権者の承諾を得て債権者に代位できる。そして、そのことを債務者に主張するためには、債権者から債務者に通知するか、債務者が承諾しなければならない(∵債権が移転するので、債権譲渡の債務者に対する対抗要件を要求した⇒11-2) |
|
2の弁済につき正当な利益をもつ者とは、弁済につき利害関係があるものとほぼ同じ意味で、物上保証人、抵当目的物の第三取得者(8-15)、保証人(8-24)などがこれにあたる。これらの者は、代位に債権者の承諾は必要なく、また、代位したことを債務者に対抗するにも、何の手続も要しない。 |

5債権者以外の者への弁済
債権者以外の者に弁済して有効になる場合もある。
| 6-13 債権者以外の者への弁済が有効になる場合 (478・480条) |
|
への弁済は、 弁済者が善意無過失*のときには、有効な弁済となる。 |
| ① |
の債権の準占有者とは、外見上債権者に見える人だ。
たとえば、銀行にとって、預金通帳と届出印を持参した人は預金者でなくても預金債権の準占有者だ。その人を銀行が預金者だと誤信し、払い戻してしまったときは、そのことに過失がなければ、その払い戻しは有効になる(預金債権は消滅してしまう)。 |
| ② |
の受取証書とは領収書のことだ。
領収書を持ってきた人を弁済受領権限がある者(有効に受領できる者=債権者本人又は債権者から受領の代理権を与えられた者)と誤信し、そのことに過失もなければ、その支払いは有効になる。
|
*のこころ
債権者以外の者への弁済が有効になるということは、債権者は債権を失うのだから、債権者を保護するため、弁済者の善意無過失は当然要求される。
6代物弁済
| * |
代物弁済の効力発生時期 不動産の所有権の移転で代物弁済する場合には、所有権移転の登記をした時点で弁済としての効力が生じる(判例)。 |
代物弁済は、文字どおり、債権者の承諾を得て、代わりのもの(有体物=形のある物でなく、債権などでもよい)を給付して本来の弁済に代えるというものだ。
|
|
| |
|
7 相殺
5,000万円の建物の買主・剛田氏が、売主・宅氏に対して、たまたま、別の取引で5,000万円の債権をもっていた場合でも、剛田氏と宅氏は、現実に5,000万円を払い・払われなければならないのだろうか。 |

どちらかが相殺をすれば、その必要はない。 債権が対立して存在する場合、当事者一方の意思表示により、お互いの債権を消滅させることが認められており、これを相殺という。これにより、一方が取りはぐれることを防止でき公平だし、また、払い・払われる手間が省ける。 相殺は、次の場合にできる。 |

1相殺の要件
1の要件があるため、相殺は事実上、金銭債権でしか問題にならない。 相殺する側がもつ債権を自働債権(相殺する自分が持つ債権とイメージしておこう)、相手方がもつ債権を受働債権という。宅氏から相殺する場合、宅氏がもつ債権が自働債権だ。
2のこころ
相殺は、自働債権を払わせ、受働債権を払ってしまうのと同じだから、自働債権は相手に「今すぐ払え」といえる状態でなければならない。これに対して、債務を期限前に前払いすることはできるので、期限前の受働債権を払ってしまう≒相殺することもできるので、受働債権は弁済期がきていなくともよい

2債権の対立があっても相殺できない場合
債権の対立があっても、相殺できない場合がある。
たとえば
互いに債権を持ち合っていた宅氏と剛田氏が相殺禁止の約束をしていたら、お互いに相殺できない。しかし、宅氏から剛田氏に対する債権を譲り受けた大地氏が、相殺禁止の特約を知らなければ(善意)、大地氏はその債権を剛田氏との相殺に用いることができる。
| * |
不法行為とは、故意又は過失により他人の利益又は権利を侵害した場合には、加害者は被害者に、生じた損害を賠償しなければならないという制度。 |
たとえば
宅氏が、運転中、過失で人を轢いてけがをさせてしまったところ、その人は買主の剛田氏であった。この場合、宅氏の自動車事故は剛田氏に対する不法行為となるので、剛田氏は宅氏に、治療費等の損害賠償を請求できる債権をもつことになる。
この場合、宅氏は、
《剛田氏に対する代金債権を自働債権》とし、《剛田氏の損害賠償債権を受働債権》として相殺することはできない。
そのこころ 不法行為の被害者には現実の救済を与えなければかわいそうで、宅氏は、治療費は治療費として直ちに支払うべきだからだ。
逆に被害者の剛田氏から相殺するのはかまわない(不法行為による債権を自働債権とすることは差支えない)。 加害者のほうから相殺でチャラにするのが許されない。

6-18 債権の対立があっても相殺できない場合3 (511条)
|
債権の差押え*により、支払の差止め※を受けた第三債務者☆は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
| * |
債権の差押え 債権者は債務者が持っている財産を差し押さえることができるので、債務者が持っている債権も差し押さえることができる。債権が差押えられると第三債務者☆は、差押え債権者に支払うことになる。
| ☆ |
第三債務者 差押えられた債権の債務者(剛田氏)。 |
|
| ※ |
支払差し止め 債権の差押えがあると、第三債務者(剛田氏)は、差押え債権者(館氏)へ支払うべきことになるので、元の債権者(宅氏)への支払いは差し止められる。
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たとえば
宅氏の剛田氏に対する代金債権が館氏に差押えられてしまい、剛田氏が支払差止めを受けた場合、その後に剛田氏が宅氏に5,000万円の債権を取得しても、剛田氏は差押え債権者・館氏に、宅氏の債権は相殺で消滅しましたという主張はできない。
そのこころ
債権の差押え(①)があると、その債権は、実質的に差押債権者の館氏のものになってしまうので、その後に名目上の債権者・宅氏に対して反対債権を取得(②)しても、実質的には債権の対立が生じない。
しかし 下図のように、もともと債権の対立があったところに、館氏が宅氏の債権を差押えた場合は、債権の対立があって、剛田氏は相殺できるという期待をもっていたところに、いわばちょっかいを出されたのだから、剛田氏は、館氏の請求に応ぜず、相殺することができる。

3 消滅時効にかかった債権で相殺できる場合
バーのママ薫さんがツケで剛田氏に飲ませ、そのツケが100万円になった。そのとき、バーを改装する必要が生じ、薫ママは「剛田パパ、改装資金に100万円用立てて」と頼む。 この機会にツケを回収するつもりだったのだ。 一方、剛田パパは、ここで100万円用立てると何かいいことがあると思って、100万円用立てる。
この時点で、ツケと貸金は相殺適状になっており、ママは相殺しようと思えば相殺できた。しかし、相殺などとヤボなことを言わなくても、改装資金の100万円はツケの支払いに充てられたと思い、又、剛田氏もそう考えるはずだと思い、あえてママは「相殺」ということは言わなかった。
ところで、飲食代金のように日常ありふれた債権は、後で説明するように、1年間請求しないと時効で消滅してしまう。貸金のほうは、10年間は時効にかからない(7-7)。
とすると、剛田パパが100万円用立てた時点では、相殺適状になっても、1年後にはツケは時効で消滅し、剛田パパの債権だけ残る。

そこで、1年後下心が成就しなった剛田パパが「改装資金で貸した100万円を返してくれ。ツケは時効で消滅しているから、「今更相殺といっても遅いぞ」などとヤボなことを言い出した時、ママは、100万円払わなければならないのだろうか。
|

債権の対立がないのに相殺できる場合もある。
そのこころ
相殺適状になった時点で、相殺の意思表示をしなくても、債権債務は決済されたと考えるのが普通だから、その期待を保護する。
つまり、相殺適状になった時点で、相殺の意思表示をしなくても債権債務は相殺されたと考えるのが普通だから、その時あえて相殺の意思表示をしないこともある。そして、相殺の意思表示がなかったことを利用して、剛田パパのように時効で消滅していない債権の債権者が請求してきても、請求された時点で、相殺で切り返せるようにしたのだ。

ママは、100万円払わなくてもよい。剛田パパの貸金債権とママのツケの債権は、ツケが時効消滅するまでは相殺適状にあった。とすれば、時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合だから、ママは相殺することができる。 |
4相殺の方法と効果 相殺は、どのようにして行うのか
| 6-20 相殺の方法・効果 (506・505条) |
| 1 |
相手方に対する一方的意思表示によって行う。この意思表示に条件や期限を付けられない。
相殺の意思表示は、相殺に適するようになった時にさかのぼってそ の効力を生じる。 |
| 2 |
相殺により、各債務者は、対等額(同じ額)について債務を免れる。 |
1のこころ
条件(5-9)をつけられないのは、相手方の立場を不安定にするから。期限(5-2)をつけられないのは、相殺は、相殺適状時までさかのぼって効力を生じるのだから、つけても意味がないから(期限到来で相殺の効力が生じても、その時点で相殺の効力がさかのぼってしまう)。 |
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| 債権の消滅は、4肢全部使って聞かれることは少なく、他の論点との混合問題で出題されることが多い。第三者の弁済や、相殺がよく問われる。不法行為加害者からの相殺は不可(6-17)時効消滅した債権も前に相殺適状にあれば、自働債権として相殺に用いることができる(6-19)、自分への債権が差押えられた後に取得した債権では相殺できないが、差押え前から有する債権では相殺できる(6-18)等の論点が、他の論点と混ざって出題される。 |
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3 売主の担保責任
宅・剛田間の5,000万円の建物売買契約によって引き渡された建物が、実は第三者・大地氏のものであり、後日大地氏にその建物を取り返されてしまった。又は、柱の内部が腐食しており到底5,000万円の価値があるしろものではなかった。このように給付物に権利や品質の欠陥がある場合、買主の剛田氏はどうしたらよいのだろう。 |
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このような場合は、売主の担保責任を追及できる。民法は、売主が給付した物に権利や品質の瑕疵(欠陥)がある場合、代金に見合っただけの担保=保証責任を認めているからだ。 |

1 目的物に隠れた瑕疵がある
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6-21 目的物に隠れた瑕疵がある (570条) |
| 1 |
売買の目的物に。通常の注意を払ったのでは発見できない瑕疵(欠陥)があった場合、その瑕疵を知りえなかった(善意・無過失)買主は、損害賠償の請求ができる。 |
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なお、瑕疵には、道路予定地になっており宅地として使えないとか、事故物件(自殺者等が出た物件 当然安く評価される)であるという無形の欠陥も含む。 |
| 2 |
契約の目的を達成できない場合は、契約の解除もできる。 |
そのこころ
目的物に瑕疵があり、買主がその瑕疵を知りえなかった(善意・無過失)場合、買主は瑕疵がないものとしての代金を了承したのだから、損害賠償の請求と契約の解除ができる。
瑕疵があることを知っていたか知りえた買主は、瑕疵があることを前提に代金を決定できたので、売主の責任を追及することはできない。

2 数量を指示した売買で数量不足
| 6-22 数量を指示した売買で数量不足 (565条) |
| 1 |
数量を指示した売買で、目的物の数量が足りない場合、善意の買主は代金の減額請求と損害賠償の請求ができる。 |
| 2 |
その数量では買わなかったろうというときには、契約を解除できる。 |
| |
数量を指示した売買とは、この土地は100㎡あり、1㎡あたりの値段が50万円だから総額5,000万円となるというように売買目的物が一定数量あることを前提に値段がつけられた売買。
|
そのこころ
約束した数量がないのだから、そのことを知らなかった買主は、代金減額、損害賠償請求、契約の解除ができる。が、悪意買主は、その数量で納得していたはずなので、売主の責任追及はできない。

3 目的物に借地権等の制限がある
| 6-23 目的物に借地権等の制限がある (566条) |
| 1 |
売買の目的物に、登記をした借地権や建物賃借権が設定されていたときは、善意の買主は損害賠償の請求ができる。 |
| 2 |
これらの権利があると契約の目的が達成できない場合は、契約を解除できる。 |
そのこころ
売買目的物に対抗力のある利用権が設定されているときは、買主はその物件を使用できないので、利用権の設定を知らず(善意)自分で目的物を使おうとしていた買主は、損害賠償の請求と契約の解除ができる。利用権の設定を知っていて(悪意)買った者は、はじめから貸主の地位を買ったのだから(∵賃貸物件の譲受人は、貸主の地位を引き継ぐ⇒9-18)、売主の責任を追及することはできない。

他人の権利の売買も有効だ(⇒1-3)。売主は、他人からその権利を取得して、買主に権利を移転しなければならない。これが実現できれば、なんら問題はない。が、できなかった場合には、担保責任の問題となる。
4 他人の権利の売買で、権利移転できなかった
| 6-24 他人の権利の売買で、権利移転できなかった (561条) |
| 1 |
他人の権利の売買で、売主がその権利を取得して買主に移転できなかったとき、買主は、他人の権利であることにつき善意・悪意にかかわらず契約を解除できる。 |
| 2 |
善意の買主は、損害賠償の請求もできる。 |
 |
なお、悪意の買主も、売主に権利移転できないことにつき責めに帰すべき事由がある場合には、債務不履行一般の規定(5-4)に従い、損害賠償を請求できる。 |
そのこころ
買主に権利移転できなかったのなら、代金を支払ういわれはないので、買主は善意悪意にかかわらず、契約を解除できる。善意買主は、権利移転されるという期待も大きかったから、損害賠償の請求もできる。

5一部他人の権利の売買で権利移転できなかった
| 6-25 一部が他人の権利の売買で、その権利を移転できなかった (563条) |
| 1 |
一部が他人の権利の売買で、売主がその権利を取得して買主に移転できなかったときは、買主は、一部が他人の権利の売買であることにつき善意・悪意にかかわらず、足りない部分の割合に応じ、代金の減額の請求ができる。 |
| |
たとえば
売買目的となった一区画の右半分が売主以外の者の所有であった場合に、その部分の権利を移転できなった。 |
| 2 |
善意の買主は、さらに損害賠償の請求もでき、また、権利移転できなければ買わなかったろうというときには、契約を解除できる。 |
そのこころ
買主に権利移転できなかった部分の代金を支払ういわれはないから、善意悪意にかかわらず代金減額の請求ができる。善意買主は、全部権利移転されるという期待も大きかったから、損害賠償の請求と契約の解除もできる。

6 抵当権の実行で権利を失った場合
|
6-26 抵当権等の実行で権利を失った場合 (567条) |
| 1 |
売買の目的物に抵当権等が付いており、その後抵当権の実行により、目的物が競売されて、買主が所有権を失った場合、善意・悪意にかかわらず、契約の解除及び損害賠償の請求ができる。 |
| 2 |
買主が費用を支出してその所有権を保存したときは、善意・悪意にかかわらず、その費用の償還と損害賠償の請求ができる。 |
そのこころ
抵当権(Part8)の実行により、目的物を競売されてしまったわけだから、代金を支払ういわれはなくなったので、善意悪意にかかわらず、契約を解除できる。さらに、いったん権利移転されたものを持って行かれたのだから、ダメージも大きく、善意・悪意にかかわらず、損害賠償の請求もできる。そして、抵当権の実行がなかったとしても、自分の出費で所有権を保存した場合(第三者の弁済(⇒6-11)や抵当権消滅請求(⇒8-16)で抵当権を消滅させた場合を指している)も、余分な出費と手間を強いられたことになるので、その償還(返還)と損害賠償の請求ができる。
売買目的物に抵当権が設定されていただけでは、責任追及できない。抵当権が実行されて買主が所有権を失ったか、自己の出費で抵当権を消滅させた場合に責任追及できることに注意しておこう。

7 担保責任の性質と責任追及期間
売主の担保責任は、契約違反=債務不履行責任ではなく、一種の品質保証責任である。
| 6-27 担保責任の性質と責任追及期間 (561~570条) |
| 1 |
売主の担保責任は、売買目的物に代金に見合った品質がないことが責任根拠だから、売主に過失がない場合でも責任を負う(無過失責任)。 |
| 2 |
責任追及期間は、
| ① |
他人の権利の売買と抵当権の実行の場合は制限なし。 |
| ② |
一部が他人の物の売買で、悪意者が代金の減額を請求する場合は、契約のときから1年以内。 |
| ③ |
その他善意者が責任追及する場合は、事実を知ってから1年以内。 |
|
≪売主の担保責任一覧≫
| 瑕疵(欠陥)の態様 |
解除* |
損害賠償 |
代金減額 |
責任追及期間 |
| 隠れた(=買主善意無過失)瑕疵 |
○ |
○ |
|
知ったときから1年 |
| 数量指示売買で数量不足 |
○ |
○ |
○ |
|
| 借地権等の制限 |
○ |
○ |
|
|
| 他人の権利の売買で権利移転できない |
● |
○ |
|
制限なし |
| 一部他人の権利で権利移転できない |
○ |
○ |
● |
知った(善意)・契約のとき(悪意)から1年 |
抵当権等の実行又は
自己出費による所有権保存 |
●※ |
● |
|
制限なし |
| ●は善意悪意にかかわらず、○は善意者だけに認められる。 |
| * |
契約解除は、契約目的が達成できないときにのみ認められる。 |
| ※ |
自己の出費で所有権を保存した場合は、費用償還請求が認められる。 |

悪意買主にも認められる、売主の担保責任
| ① |
他人の権利の売買で、権利移転できなかった場合の契約解除権 |
| ② |
一部が他人の権利の売買で、権利移転できなかった場合の代金減額請求権 |
| ③ |
抵当権等が実行された場合の契約解除権と損害賠償請求権 |

悪意買主にも認められる(一覧表●) |
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|
悪意買主にも認められる場合の共通点は、
権利を移転できないとか後で権利を取られたという場合だ。このような場合は、買主が悪意であっても代金に見合ったものをもらっていないのだから、売主に責任を追及できる。
これに対し、善意の買主しか責任の追及をできないのは、目的物を移転できたがその品質に瑕疵があった場合だ。この場合は、瑕疵を知っていた悪意の買主はその瑕疵を前提に値段を決めたはずであり、自分がつけた価格に見合ったものの給付を受けているのだから責任追及などできない。
この理屈がわかっていれば、与えられた問題文だけで解答できる 。

8 担保責任免責特約の効力
| 6-26 担保責任免責特約の効力- 知りて告げざりしは責任の元 (572条) |
| 売主は、560~571条の担保責任を負わない旨の特約をしたときでも、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利についてはその責任を免れることができない。 |
免責特約有効だが、知りて告げざりしは責任のもと |

9 他人物売買では善意売主にも契約解除権
そのこころ
他人の権利の売買であることを知らなかったほどのうっかり者なのだから、少し大目に見て、契約の拘束力から免れさせてやる。
ただ、買主も善意のときは、迷惑料を払って(損害賠償して)、契約を解除できる。買主も悪意の時は、「君も人が悪いね。僕がうっかりして他人のものを売っているのを知っていながら黙っているなんて。契約ははなかったことにするよ。」と単に契約を解除できる。
10他解・一減・抵解損に関連する代金支払拒絶権
他解・一減・抵解損に関連して、買主に代金支払拒絶権が認められることがある。
|
6-29 買主の代金支払拒絶権 (576・577条) |
| 1 |
権利を失うおそれがある場合
売買目的につき、権利主張者がいて、買主が権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。 |
| 2 |
目的物に抵当権が付いているとき
買受けた不動産に抵当権等の登記があるときは、買主は抵当権の消滅請求の手続が終わるまで代金の支払を拒絶できる。この場合に、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。 |
そのこころ
いずれの場合も、代金を支払っていないのなら、事態がどうなるか見守ったほうが得策である。
上記1・2の場合、売主は、切り返しとして、買主に対して代金の供託を請求でき(578条)、買主がこれに応じない場合は、代金支払い拒絶権は認められない |
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売主の担保責任は、不動産取引では重要な問題なので、3年中2回は出題される。
もっともよく出題されるのは、実務的にもっとも問題となる瑕疵担保責任である。次いで、他人の権利の売買である。数量指示売買や目的物に借地権等の制限がある場合の売買は、まず出題されない。したがって、瑕疵担保責任をきっちりおさえておこう。 |
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