人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族―トラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯(あかり)と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが・・・
『おくりびと』以来7年ぶりに主人公・幸夫を演じるのは、『日本のいちばん長い日』で賞レースを席巻した本木雅弘。イメージを大きく覆す新境地に挑み、歪んだ自意識とコンプレックスに溺れるタレント小説家を人間味たっぷりのチャーミングな人物に見事に昇華させた。
陽一にはミュージシャンの竹原ピストルを抜擢、幸夫の妻に深津絵里、さらに池松壮亮、黒木華、山田真歩など贅沢な共演陣が、緊張感と豊かさをスクリーンに焼き付ける。
約1年の撮影期間を経て成長を遂げていく子役たちの予測不能な演技にも魅了される。
原作・脚本・監督を手掛けたのは、『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』に続くオリジナル脚本を書き下ろし、本作の原作で直木賞候補となった西川美和。自ら集大成と語る通り、卓抜したストーリーテリングと強烈な心理描写が研ぎすまされ、かつてない優しさと希望にあふれた作品となった。