展覧会の紹介
岩下寿男展 | 2001年11月8日(木)〜13日(火) 大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階) |
岩下さんは小樽在住。100号から120号までの油彩10点と、淡彩14点が展示されています。
今回も出品されている油彩「遠い日の風景−旅の予感」は、1998年の全道展入選作です。その時は「写実的で、上手な絵だな。稚内の風景かな」くらいの感想しか持ちませんでした。今回の個展で、自分の迂闊さに気がつきました。
たんなる写実ではないのです。たしかに、右側のモティーフは、稚内港の岸壁のドームに似ています。しかし、奥には大きな白い飛行船がゆったりと横切っており、停泊した汽船の船腹にはブルートレインが入ろうとしています。真っ青な空には、青い月が浮かんでいます。左手には、工場らしい建物と紅白に塗り分けられた煙突。さらにSLが止まっています。
客車がすっぽりと入る客船など日本にはありません。雪の上に見えるレールや腕木式信号の置かれ方も、どこか妙です。つまりこれは、現実にありそうで、ありえない風景なのです。現実の要素をたくみに組み合わせ、微妙に改変してつくりだした光景といえます。
海沿いの港湾もしくは広場、極端なまでに青い空、鳥、白い飛行船…。これらが、油彩のほとんどに共通しています。すべて「遠い日の風景」という言葉が題に付いています。建物の背後を地平すれすれの低さで通り過ぎる飛行船は、下部の居室部分から推測すると、とんでもない巨大さのようで、非現実感をいっそう増しています。
「遠い日の風景・夢・存在」は、港近くの広場を描いています。左側には、やはり稚内のドームに似た建物が続き、すぐそばを路面電車が走っています。レールは、右側の岸壁のすぐそばにもあります。奥にはサンクトペテルブルクにでもありそうな洋館。そして中央には、騎馬の銅像があります。石畳の広場には、坐って新聞を読む男が一人いるだけですが、人間が登場するのは10点中この絵を含めて2点しかありません。
強いて類縁の画家を探せば、キリコとデルヴォーということになるのでしょうか。とはいえ、キリコの絵よりは写実的で、重苦しさはなく、デルヴォーが夕方や夜ばかり描いていたのとも異なります。ありそうで、これまでなかった絵といえるのではないでしょうか。
なお、水彩は、「旅の空から」と題してプラハやタリン(エストニア)の街並みを描いた作品にはやはり飛行船が浮かんでいますが、あとは国内外の風景を丁寧に描いたものです。
とはいえ、パリに行って「セーヌの河船」を4枚かくのですから、やっぱりほかの人とは視点がちがっているのかもしれませんね。「小樽過ぎ行く風景」と題した3点もあり、もう今はない築港駅附近の機関庫などがモティーフになっています。
油彩も水彩も例外なく、かなり横長の画面になっていることも、この画家の特徴といえるかもしれません。
なお、99年以降は、岩下さんは道内の公募展には出品していないようです。
岩下さんのHPはこちら。