牧師室より

 ジョン・ミアシャイマー氏(シカゴ大学教授)が「ウクライナ危機を誘発した大きな責任は、ロシアではなくアメリカとヨーロッパの同盟諸国にある」と、『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(20149月)に寄稿して話題になった。ウクライナでマイダン革命が起き、徽章を付けない所属不明軍(ロシア軍)がクリミア半島を占領した直後の論文である。

 エマニュエル・トッド氏(仏の歴史人口学・家族人類学の研究者)は、ミアシャイマー氏を支持しつつも、ロシアとウクライナのパラダイムの違いを指摘している。トッド氏は、「近代以降の各社会のイデオロギーは、農村社会の家族構成によって識別できる」と仮説を立てたことで知られる学者で、彼は家族制度を7つに分類した。それに従うと、ロシアは「外婚性共同体家族」、ウクライナは「核家族」(個人主義)となる。「外婚性共同体家族」は、家父長的大家族制という権威のもとに村落共同体を形成し、共産主義革命はこのような共同体と結び付いたと分析。この民は、法律に敬意を払わないが権威には従うとのこと。このパラダイムと、ウクライナの個人主義的パラダイムの差異のために、スターリン時代に「ホロドモール」(人為的大飢饉・虐殺)が起きたと分析。この指摘によって、ロシア人の発想が少し理解できたように思う。 (中沢譲)