◇牧師室より◇
日本の漫画は、面白い。「輸出」されるだけのことはあると感じることがよくあります。マイブームは、キリスト教系雑誌『ミニストリー』掲載の「シナイ女学院学園祭」です。お笑い芸人の“ヒロシ”のぱくりネタですが、「ヒロシです」に置き換えて、以下お読みください。
「ピラトです」「ローマ帝国辺境の地、ユダヤにとばされました」「ピラトです」「暴動になりそうなので、適当な判決を出しときました」「ピラトです」「もっと、めんどくさいことになりました…」「ピラトです…」。
かなりマイナーで、かつ笑えないと怒られるかもしれません。そこでもう一作品。以前も紹介したと記憶していますが、『聖☆おにいさん』(作:中村光)というのがあります。イエスとブッダが現代社会に現れ、ルームシェアして生活し、珍事を引き起こすお笑い漫画です。この物語では、三位一体の神は存在せず、イエスも「父」も、別々の人格として描かれています。またイエスの弟子たちや天使たち、またブッダの弟子たちもレギュラーメンバーとして登場させています。イエスは一日中パソコンをいじる“おたく”で、ゲーマー、かつ人気ブロガーとして描かれています。
『ポップカルチャーを哲学する・福音の文脈化に向けて』(新教出版社)の著者高橋優子氏は、この作品が日本的多神教を描いた点に驚きつつ、「さらに興味深いのは、アニミズム、とくにテクノアニミズム」があると指摘しています。「テクノアニミズム」とは、工業製品に対するアニミズムという意で、古くからある「九十九神(つくもがみ)」思想が背景にあると見るのです。その意味では、八百万の神々の物語とも言えます。
前述の高橋氏は、[『聖☆おにいさん』から透けて見えるのは、現代日本では「誰も何も信じていない」ということと、同時に「誰もがすべてを信じたがっている」ということだ]と分析しています。この作品がヒットした背景には、読者の宗教に対する自覚されない憧憬があるのだという指摘には私も賛成です。 (中沢譲)