牧師室より

 本日からアドベント(待降節)に入りました。岩波書店の『キリスト教辞典』には、アドベントについてこう記しています。「『到来』を意味するラテン語adventusに由来。クリスマス前の4番目の日曜日から始まる期間」。「キリストの第1の到来であるクリスマスを準備するだけでなく、第2の到来である再臨にも心を向ける期待と喜びの期間である」と。

 さて、今回はイエスの母マリアにまつわる“伝説”を紹介します。資料は『ヤコブ原福音書』という新約聖書外典の一つ。この書は3世紀の初期には完成していたと考えられています。「外典」とは、正典として採用されなかった諸文書を指す言葉ですが、古代・中世の時代から、正典よりも好んで読まれてきたと言われ、西欧の文化・芸術の深層部分で影響を与えてきた書物群です。

 その一つ、『ヤコブ原福音書』の「ヤコブ」とは、イエスの弟ヤコブを指していますが、息子による母の物語ということなのでしょう。

 マリアの両親は、ヨアキムとアンナ。マリアはアブラハムの息子イサクのように、また洗礼者ヨハネやイエスのように、神の使いによってその誕生が告げられます。マリアが3歳の時に家族で神殿に出かけ、そのまま神殿に残り、彼女は神殿で育てられることになりましたが、12歳の時に、祭司たちはマリアの夫を選ぶことを、大祭司ザカリアに求めます。そこで大祭司が至聖所で祈ったところ、導きを与えられます。「ザカリア、ザカリア、出ていって民の中の男やもめを呼び集め、各人に杖を持参させなさい。そしてマリアは、主がしるしを示された男の妻になるのです」(荒井献編『新約聖書外典』講談社)と。そして男たちが集められ、ヨセフが持参した「杖から鳩が出て、飛んでヨセフの頭にとまりました」ということで、ヨセフとマリアの縁組みが決まった、という話です。

 マリアとヨセフの出会いは、聖霊の導きによって決められたということを、この福音書は伝えたかったのかもしれません。そして物語は受胎告知へと進んでいきます。

 多くの人たちが、主イエスの誕生という出来事にワクワクし、期待と喜びをもってアドベントを迎える中で、このような伝説が誕生したのかもしれませんね。    (中沢譲)