◇牧師室より◇
「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
この言葉は、夏目漱石『草枕』の冒頭の言葉である。「智」は、私には皆無なので経験しようがないが、「情」と「意地」については理解できる。「とかく人の世は住みにくい」というのは、私の実感でもある。
国政選挙が嵐のように過ぎ去った。安倍首相は、「国難突破」と称して解散したが、歴史的には「国難到来選挙」と呼ばれるのではないだろうか。
「解散は首相の専権事項」と開き直ったが、何人もの憲法学者が首をかしげている。憲法7条「天皇の国事行為」三項の「内閣の助言と承認による解散」が、解散の根拠とされている。このことが「専権事項」と言えるのかどうか、かなりあやしいのだ。私には、天皇の政治利用にしか見えない。「錦の御旗」が、政治利用の旗でしかなかったとしてもだ。天皇主義右翼の方たちは、このことをどう見ているのであろうか。
選挙の結果は、すでにマスコミが報道したように、野党勢力の自滅によるものだと思う。実態は、「国民ファースト」ではなかった政党に、振り回された、というところだろう。
評論家の寺島実郎氏が雑誌『世界』で、「希望の党」に足りなかったものを指摘している。「政策を問うのであれば、準備不足を超えて国民の心を捉える政策が希薄であった。たとえば国民政党に求められる経済政策、アベノミクスの影に生じている格差と貧困に対する問題意識、つまり分配の公正に関する政策論が欠落していた」(2017年12月号)。安倍首相と同じで、貧困対策への関心が、薄いのだろう。
今回の国政選挙に、はじめて18〜19歳の若者が参加したが、戦後、二番目の低投票率だったという。同志社大学の浜 矩子氏が、「若者は保守的だ」と、この教会を会場とした講演会で語っていたが、原因は若者たちが“人の世は生きづらい”と感じているからだと思われる。私たち大人の責任であろう。 (中沢譲)