◇牧師室より◇
お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔氏(36歳)の発言が注目されている。このユニットは、吉本興業所属で、「THE MANZAI 2013」の優勝者としても知られる。その村本氏が注目された理由とは、「終戦記念日」にツイッターで、「僕は国よりも自分のことが好きなので絶対に戦争が起きても行きません よろしく」と発言したことによる。
この発言に対して、ジャーナリストの田原総一朗氏が、「もしも日本が攻められたら守らないといけないと思う」というツイッターを寄せたらしい。そうした周囲の反応に対して村本氏は、「自分の死は自分で選ぶものです。国が選ぶことではないと思ってます。僕は日本人の前に人生を自分のために生きる、人です」「あと、国を守るってことは、こっちも攻めるってことですよね。そしたら向こうもやり返す」「それが伸びると自衛隊だけじゃなく国民が徴兵される可能性があります」「徴兵っとか、国を守るって言い方より国のために殺されるっていい方にしたほうが想像しやすいです」(日刊スポーツ8月17日)。
毎年8月になると、報道機関は戦争の悲惨さを伝える慣習があるようだ。しかしその同じ報道機関が、日々テロや戦争の脅威についても喧伝し、戦争への備えを訴えているように感じられる。実際の政治に至っては、戦争を回避するために外交に尽力するのではなく、米国に追随し、実際に戦争を行うのに必要な法整備や軍事力の強化を進めることに力を傾注しているように見える。この雰囲気のただ中で、「人生を自分のために生きる」と発言するのは、実に勇気がいることだと私は感じている。
岩波の『世界』(9月号)の寺島実郎氏の連載記事は、「ひとはなぜ戦争をするのか」だった。このテーマは、アインシュタインとフロイトの往復書簡(1932年)に由来する。ちなみにこの企画は、第一次大戦の反省から誕生した国際連盟の要請によるものだった。その書簡でアインシュタインはフロイトに、世界平和実現のために国家を規制するための制度設計が必要だと指摘しつつ、「憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求」をどう考えるべきかを問うたという。その問いに答えてフロイトは、人には「二つの欲望」が潜在・対立しているとの分析を紹介する。「一つは『愛』(エロス)−−保持し統一しようとする欲望、もう一つは『攻撃本能』で、破壊し侵害しようとする欲望だ」とし、「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうもない」が、「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩み出すことができる」とフロイトは結論している。その結論を紹介しつつ寺島氏は、「文化力を形成する知性の中核は歴史認識だ」と語っている。
私も同意見だが、それに加えて人に必要なのは、“恐れ”である。幸いなことに、キリスト者は神という存在を知らされている。そのことこそが、平和への鍵ではないだろうか。
(中沢譲)