◇牧師室より◇
「ああベツレヘムよ」(『讃美歌21』:267番、1954年版:115番)というクリスマスの讃美歌がある。心静かに、穏やかな気持ちで歌える讃美歌だ。歌詞は、聖公会の牧師、フィリップス・ブルックスによる。彼は19世紀、米国のボストン生まれの人である。彼は1865年に、休暇をとってパレスチナを旅行した。クリスマスをイエスが誕生したベツレヘムの教会で過ごしたいと願ったからである。5時間にわたる深夜のイブ礼拝に出席したという。それから3年後、彼はこのベツレヘムのイブ礼拝を思い起こし、日曜学校の子どもたちのために、この「ああベツレヘムよ」を作詞したそうだ。彼は日曜学校の校長でオルガニストのルイス・レッドナーにこの歌詞を渡し、作曲を依頼した。しかしレッドナーには、良い曲がすぐに浮かんでこなくて苦戦を強いられたという。ところが、彼が眠っている時に、天使の声がして目が覚め、メロディーを書き留めて、なんとか日曜日の礼拝に間に合わせたと、レッドナーは手記に書いている。残念なことに、当初この讃美歌は評価されず、米国聖公会の讃美歌に収録されたのは、24年後のことだったという。
ブルックスは5番まで作詞している。その5番(『讃美歌』と『讃美歌21』では4番)の歌詞に、「今しもわれらに くだりたまえ」(1954年版)という部分があるが、賛美歌研究者の大塚野百合氏は、彼女の著書『「きよしこの夜」ものがたり』の中で、この部分を「今日、私たちの中に生まれてください」と訳している。賛美する者たちの心の中に、イエスが誕生するようにとのブルックスの祈りが、この歌詞には込められている、ということなのだろう。
(中沢譲)