◇牧師室より◇
最近、「社会的企業」という言葉を耳にします。事業を通して社会の問題に取り組み、その解決を目的とする企業のことです。チャリティー(慈善事業)との違いは、活動が、収益において自立的であるという点だと思います。社会的企業で、当事者自身がその事業の担い手として、主体的に楽しく活躍している日本での例を、私は二つ即座に思い浮かべることができます。一つは、北海道浦河町の「べてるの家」、もう一つが「ビッグイシュー(日本版)」です。「べてるの家」紹介は別の機会にゆずり、「ビッグイシュー」の紹介をします。
The
Big Issue という雑誌が最初に発行されたのはイギリスで1991年のことでした。ホームレスの人々が路上で販売する雑誌です。日本では、都市計画プランナーであった佐野章二氏が代表として会社を立ち上げ、2003年9月に『ビッグイシュー(日本版)』が創刊されました。雑誌の路上販売を担当するのはホームレスの人々で、佐野氏は彼らをビジネス・パートナーと見なしています。驚くのは、雑誌としての内容の充実度です。日本版の内容は、一部イギリスの雑誌と共通で、世界的に有名なアーティストのインタヴュー記事などを読むことができます。個人的な事の取材には応じない大物アーティストでも、ビッグイシューの取材には意義を感じて応じる場合もあるのです。彼らが語る生い立ちや社会に対する姿勢は興味深いです。日本版の、原発や震災、環境や平和の問題など、社会の今日的テーマに鋭く切り込む記事から、いつも教えられます。エコノミスト浜矩子氏や作家の雨宮処凛氏のコラムも毎回楽しみです。ホームレスである販売員さんが相談役を務める、読者からの人生相談コーナーも良い味です。最近は、若者の貧困がテーマになることが多いと感じます。月二回発行、約30ページのこの雑誌は、路上でビッグイシューのIDカードを首に下げたベンダー(販売者)さんから350円で購入でき、うち180円がベンダーさんの収入となります。横浜市内なら、横浜、関内、上大岡駅周辺で購入できます。都内の主要駅周辺でも販売しています。私たちの社会を路上の視点から眺めることの大切さを、私はこの雑誌から教えられた気がします。教会ライブラリーに、バックナンバーを少し置かせていただきたいと思います。 (中沢麻貴)