牧師室より

京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏は福島原発事故後「時の人」になった。原子力の平和利用に魅せられ、その研究の道に進んだが、危険を認識し、40年来、原発阻止の発言と活動をしてきた。事故後『原発のウソ』を上梓し「まえがき」に懸念していた事故が現実になったことに対し「申し訳ない、自分の非力を情けない」と書いている。責任を真正面に負う方であると思った。小出氏の本を何冊か読んだが、最近、中学生向きの『日本のエネルギー、これからどうすればいいの?』を読み人柄と生き方に感銘を受けた。

原発はエネルギー効率が悪く、放射能を浴びる工事関係者に被害を与え、事故が起これば取り返しがつかない、更に、核のゴミの処理方法がない。現在の科学では扱えないものである。

小出氏は原発から再生可能なエネルギーに転換すれば済むとは思っていない。産業革命後、人間は膨大なエネルギーを消費し、規模は膨れ上がるばかりである。このままいけば、自然破壊が進み、人類は滅亡する運命にある。エネルギー消費を押さえることが急務である、と人類史的視点から語っている。

小出氏の原発エネルギーに対する考えは「差別」に根幹がある。原発は弱者の犠牲の上に成り立っている。原発反対論者は「命が大事」と言うが、「原発推進論者」も同じことを言っている。「自分の命が大事」と思う時、「他者の命も大事」ということを心に刻む必要がある、という。

世界のエネルギー使用量全体の80%を「工業文明国」、12%を「工業文明追従国」、8%を「第三世界」が消費している。「極貧の第三世界」は2%しか使えない状況にある。しかも、第三世界の人口は圧倒的に多い。この不条理を解消するためにも社会構造や世界のあり方を変えることが求められている、と力説している。