◇牧師室より◇

イエス・キリストの福音を証している新約聖書は480頁、イエスの生涯を記した4つの福音書は212頁しかない。このイエスに対して、二千年来、限りない関心が持たれ、聖書は愛読されている。

私は初めて福音書を読んだ時、こんな人がいるのだろうかと、愛の凄まじさに感嘆した。そして、イエスと同時代に生き、この目で見たかったと思った。私の求道はイエスを知りたいという願いから始まった。

イスラム圏のレバノンで、クリスチャン家庭に生まれたカリール・ジブラーンという詩人の「人の子イエス」が翻訳、出版された。イエスと同時代に生きた七十数名に「地上を歩むイエス」を証言させている。

ジブラーンはタゴールと共に20世紀最大の詩人と言われている。豊かな想像力と鋭い感性と美しい言葉で、イエスと出会った人々が受けた、震えるような感動と敵対する憎しみから、イエスの愛と幻、そして孤独と悲しみを目の前で見るように描き出している。ジブラーンの狂おしいほどのイエスへの愛と憧れが真っ直ぐに伝わってくる。

証言している七十数名はイエスの弟子たち、イエスと関わった人々、そして架空の人物まで、多様である。

イエスの愛弟子ヨハネの証言。「わが心にはガリラヤ人イエスが住まう。彼こそは、人を超えた人、私たちみなを詩人たらしめる詩人、私たちの戸口を訪れて私たちを目覚めさせ、赤裸々で混じり気のない真実へと出会わせてくれる霊に他ならない」。

マリアという名の女の証言。「あの方の頭はつねに天上に向かって高く保たれ、あの方の瞳にはつねに神の炎が宿っていました。あの方が悲しみに包まれることもよくありました。その悲しみは、苦しんでいる者に向けられた優しさでしたし、孤独な者に向けられた親愛の情でした」。

イエスによって十字架刑を免責されたバラバの証言。「それから彼は、慈愛のうちに語った。『父よ、彼らを赦したまえ。その為すところを知らざればなり』彼がこの言葉を発したとき、まるで全世界が、この一人の男を十字架に架けたことの赦しを求めて、神の前にひれ伏したように思えた」。