牧師室よ

永田浩三氏のNHK、鉄の沈黙はだれのために 番組改変10年目の告白」を読んでいる時は、興味津々に引き込まれたが、読み終わってから何とも悲しい気持ちにさせられた。

ETV2001」シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二回「問われる戦時性暴力」は、元従軍慰安婦が一堂に会して「女性国際戦犯法廷」の場で証言し、それを国際法の専門家が裁判するというかたちで事実を認定し、判決をくだすドキュメンタリー番組であった。女性国際戦犯法廷は架空の市民法廷で実効性はない。

多くの賞を取った名ディレクターの永田氏も深く関わっていた。ところが、NHKに対して右翼からの嫌がらせと有力政治家からの圧力があった。番組はずたずたに改変されていった。その場にいた永田氏でないと書けない緊迫した状況を伝えている。

その後、NHKは女性国際戦犯法廷を企画したバウネット・ジャパンから訴えられ、また「朝日新聞」の報道とも絡んで、裁判になった。裁判では、NHKを守ろうとする立場からの言葉で証言されていった。最高裁までいったが、NHKは編集権があると勝訴し、組合も勝訴をこともなげに追認した。事件そのものは落着した訳である。

しかし、永田氏は10年目に、この問題に関わった者として克明な告白を著わした。第三者には事の真偽は分からないが、永田氏の誠実な告白から、NHKの体質が伝わってくる。NHKアーカイブスは、テレビ番組の収蔵・公開施設として最大規模を誇っている。その中に「戦争をどう裁くか」は収蔵されていないという。NHKは事実を押し殺して、鉄の沈黙を守り続けている。

権力の前で崩壊しているジャーナリズムと日本の民主主義の脆弱さを見せつけられた。