牧師室より

岩波書店の月刊誌「世界」で、元沖縄県知事の大田昌秀氏と健筆を振るっている作家の佐藤優氏が「沖縄は未来をどう生きるか」と題する対談を重ねている。9月号は「いくどでも『沖縄戦に立ち返る』こと」を話し合っている。大田氏は125名ほどいたクラスメートの内、生き残ったのは30数名しかいないと、沖縄戦での若者たちのムダな死傷を悼みながら、長崎大学医学部の永井隆博士の反戦に賭ける強い思いを想起すると語っている。

永井博士は奥さんを原爆で亡くされ、ご自分も被爆していながら、被爆者の治療に全力をささげられた。そして、40代半ばの短い生涯を終えられた。永井博士は逝去する前に、誠一(まこと)さんと茅乃さんという二人のお子さんに「いとし子よ」と題する遺書を書き残している。世の親たちは子供に平穏無事に生きることを願うが、永井博士は迫害を受けても、「平和」を実現する生き方をするようにと書いている。大田氏が紹介している永井博士の「遺言」に感銘を受けたので、一部を転載したい。

「もしも日本が再軍備をするような事態になったら、そのときこそ誠一よ、茅乃よ、たとい最後の二人になっても、どんなののしりや暴力を受けても、きっぱりと戦争絶対反対を叫び続け、叫び通しておくれ。裏切り者とたたかれても戦争絶対反対の叫びを守っておくれ。」

「敵が攻め寄せたとき、武器がなかったら、みすみす皆殺しにされてしまうではないかという人は多いだろう。しかし、武器を持っている方が果たして生き残るであろうか、武器を待たぬ無抵抗の者が生き残るであろうか、オオカミは鋭い牙を持っている。それだから人間に滅ぼされてしまった。ところが、ハトは何一つ武器は持っていない。そして今に至るまで人間に愛されて、たくさん残って空を飛んでいる。愛で身を固め、愛で国を固め、愛で人類が手を握ってこそ平和で美しい世界が生まれてくるのだよ。」

「いとしい子よ。敵を愛しなさい。愛し愛し愛し抜いて、こちらを憎むすきがないほど愛しなさい。愛すれば愛される。愛されたら滅ぼされない。愛の世界には敵がない。敵がなければ戦争も起こらないのだよ。」

対談相手の佐藤氏は「心を打つ言葉です。これに対して、現下日本では、沖縄戦を材料にして、国内に敵をつくりだし、憎しみを煽ろうとしている言論人がいます」と応じている。佐藤氏が指摘するように、徒な危機感と敵愾心を煽りたて、軍備を増強し、海外派兵に熱心で、更に核保有を進める論調さえある。

「憎むすきがないほど愛しなさい」という言葉は素晴らしい。永井博士の反戦・平和への思いを受け継ぎたいと思う。