牧師室より

個人誌「バベル」を出している小平学園教会の宗像基牧師が「特攻兵器 蛟龍(こうりゅう)艇長の物語」を出版された。

1924年に台湾で生まれ、父親はクリスチャンであった。当時、クリスチャンは「ヤソ」と揶揄され、「スパイ、非国民」と敵視された。「クリスチャンこそ忠良なる臣民であり、立派な軍人になろう」と16歳で海軍兵学校に入学した。個を失わせ、命令に絶対服従する猛烈な軍隊教育を受けた。卒業後、巡洋艦の乗組員を経て、特殊潜航艇の搭乗員となり、艦長を勤めた。「神風特攻隊」や「人間魚雷・回天」は帰還できない自爆兵器である。特殊潜航艇は真珠湾攻撃の時に、初めて使われた。帰還できる形になってはいるが、特攻兵器であることに変わりはない。これらの兵器は、敗色が色濃くなった頃から頻繁に用いられていった。同期生の3分の1が戦死した。生と死の狭間を行き交う中で敗戦を迎えた。「悪運」が強かったからだと言われる。

戦後、「オレは洗礼を受けている」と教会を訪ねた。牧師から神学講義を受け、聖書には深い真理が隠されていることを知った。深い絶望から光が見え、牧師への道を歩み始めた。神学校卒業後、日本の教会で伝道し、その後、ブラジル宣教に向かわれた。小井沼宣教師夫妻が奉仕されたサンパウロ福音教会の開拓伝道をし、基礎を築かれた。帰国後、「広島キリスト教社会館」で働き、平和運動に奔走された。そして、小平学園教会の牧師になり、来年3月に隠退される。83年の波乱万丈、妥協しない一途な人生を歩んでこられた。

その宗像牧師は二つのことを力説しておられる。一つは、「神の愛は無限抱擁である」という宗教観である。「信じない者は救われない」ではなく、既に「皆、救われている」と神の絶対的恩寵を説かれる。主イエスの無限、無条件に包み込む愛こそが福音である。人間の作った価値観で救われる者とそうでない者を分離し、差別を増幅する原理主義的な教会のあり方に激しく抗議される。二つは、平和への強い主張と実践である。天皇は戦争に対し無責任を決め込み、戦争で命令を出した人々は生き残っている。紙一重で生き延びた者として、純粋な少年たちの命を騙して奪った者たちへの怒りを込め、歯に衣着せぬ論陣と具体的な行動をもって平和を実現しようとする使命を貫いておられる。