◇牧師室より◇
品川正治氏は経済同友会終身幹事、国際開発センター会長などをし、財界で大きな働きをしている方である。その品川氏は憲法9条を守るために精力的な講演活動をしている。財界人は9条を改定して、米国の軍事力を背景にした市場原理主義に追従する中で繁栄を勝ち取ろうとする考えが主流であろう。品川氏は1924年生まれで、中国戦線に駆り出され、悲惨な体験をしている。その体験から平和を望み、また平和が真の繁栄を生み出すという哲学を持っている。
1945年8月15日を「敗戦」と言うか「終戦」と言うかで人は分かれる。私は「終戦」はごまかしで「敗戦」が事実であると思っていた。ところが、品川氏は興味深いことを語っている。月刊誌「世界」で「九条の世界的意味を探る」と題して「チョムスキー9・11」を撮った映画監督のジャン・ユンカーマン氏と対談している。そこでも「敗戦」と「終戦」問題を語っているが、よく理解できなかった。K兄から、品川氏が「9条の会・わかやま」で語った講演のコピーを見せてもらった。これを読んでよく理解できた。
品川氏は国共内戦に巻き込まれた。11月に武装解除され、数千人が俘虜収容所で生活した。その時、陸軍士官学校を卒業した将校や軍司令部に勤務していた人々は日本政府が「終戦」というごまかしの言葉を使うことは「卑怯」だと激怒した。自分の指を切って、政府への血染めの弾劾署名運動を繰り広げた。「敗戦」を認めた上で、国力を回復し「敗戦」の屈辱を晴らすという主張であった。
それに対し、戦闘部隊の経験者は真っ向から反対した。神国不敗の精神教育を徹底してきた政府が「敗戦」と言わずに「終戦」ということくらい分かり切っている。それよりも、戦友300万人を失い、中国人2,000万人を殺し、どの面下げて中国人に顔を合わせることができるのか。「終戦」で結構である、二度と戦争をしない国になるという意味で「終戦」を主張した。両者の間で流血騒ぎも起こった。そして、収容所内では「終戦」派が多数になったという。厳しい戦争に直接関わった兵士たちは「戦争は終わった」、もう戦争をしない「終戦」を選んだという主張に考えさせられた。
品川氏は復員する船の中で日本国憲法の草案を読んだ。軍備を放棄し、交戦権をも否定した憲法に涙を流した。これで、アジアで生きていける、仕事を続けていけると思った。9条は、アフガニスタンやイラクに派兵しボロボロになっているが、世界の将来に対し、大きな意味と力を持っている。今こそ、改定に「NO」を言う「国民の出番」であると一人一人の平和への歩みを訴えている。