牧師室より

死刑廃止国は129ヶ国で、賛成・維持国は109ヶ国だそうである。世界は死刑廃止に向かって動いていることは確かである。先進国と言われる国で死刑制度を持つのは日本と米国だけで、イスラム国家においても廃止になっている国もある。

日本はテレビのワイドショーで犯罪者を過酷にあげつらい、重罪に追い込む風潮を作り出しているのではないか。死刑判決を受けながら執行されない人が100人を超えているという。死刑には冤罪がつきまとう。

一家四人を殺害し、放火した容疑で、住み込みの元プロボクサーの袴田巌さんが逮捕され、苛烈な取り調べで自白した。そして、死刑が確定した。その事件から41年経って、死刑判決を書いた元裁判官が「警察が証拠を捏造し、無実の死刑囚をつくった」と涙ながらに語った。「評議の秘密」を暴露するのは裁判所法に違反すると批判された。裁判官が「私は間違いました」と言うのは容易なことではないだろう。発言の重さを思う。そして、人の命は法を超えると語られた主イエスの言葉を思う。袴田氏は長期の刑務所生活で人格的応答ができない状態にあるという。

15歳の高校生が「償わせるには死刑より無期」と新聞に投書していた。「殺人を犯した人が死刑になったとしても殺された人が戻ってくるわけではありません。それなら『人を殺した』という罪を一生背負って生きていくべきです」と書いている。

犯罪者が「早く死刑にしてほしい」と死刑を求めて殺人に走ったかのようなケースを聞く。彼らは自分の生を受け入れられないから、他者の命を抹殺できるのであろう。その虚無性は計り難い。しかし、彼らを生かして人を殺したことの償いを苦しみの中で悟らせることに意味がある。

死刑は法務大臣の署名によって執行される。国家は国民の命を守る責務はあるが、奪うまでの権利はない。命は神が支配しておられるというのがキリスト教信仰である。