牧師室から

北朝鮮の金正日総書記と韓国の金大中大統領とがピョンヤン空港で握手を交わした。半世紀を越えて敵対関係にあった南北両国が統一に向かって第一歩を踏み出す歴史的な出来事であった。そして、将来に関する共同声明にも両首脳はサインした。北朝鮮の閉鎖的な恐怖政治はいただけない。今回、ベールに包まれていた金総書記の肉声、そして笑顔は興味深かった。北朝鮮はアメリカ以外にも外交を盛んに展開し始めた。色々な事情があるのだろうが、金大統領の「太陽」政策が生み出したものと思う。金大中氏の講演集を何冊か読んだことがある。当時の軍事政権に対し、自由と正義による民主化を主張しておられ、深く感銘した。大統領になって日本の国会で演説した時、幾多の死線を乗り越えた迫力に圧倒されたという報道を聞いた。政治、経済、文化の異なる両国が統一されるまでには時間がかかるだろう。しかし「北風」より「太陽」の方が平和に有効であることを世界は知るべきである。いたずらに危機感を煽る解説者は沈黙し、武器商人は引き下がってもらいたい。

南北分断は米ソ冷戦が発火したために起こった。しかし、その遠因は日本の朝鮮支配にある。日本は北朝鮮に戦争責任を果たし、国交を回復し、南北統一に協力する責任がある。同じ民族の自由な行き交いはどんなに嬉しいことだろうか。離散家族の再会を求める心情は両首脳の握手を喜ぶ涙に十二分に現れている。

1945年の日本敗戦時、朝鮮に帰れなかった人々が「在日」という名で、60万人おられる。彼らの人権は著しく制限されている。この回復にも責任がある。在日の友人の父親が亡くなった時、韓国系の「民団」と北朝鮮系の「総連」が押しかけ、自分たちが葬式を仕切ると言い争った。在日も母国の分断に苦しんでいる。統一は彼らにも和解をもたらす。

ただ、日本人拉致事件ははっきりと決着をつけてもらいたい。政治は妥協だけでなく、「正義」に裏打ちされていなければならない。