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《認識票》
1999年3月28日。
新市街で待ち合わせた久々の休日、善行は開口一番注意した。
「戦士。縁起悪いですよ」
ぴしりと開衿シャツの胸元を指で示す。ボールチェーンには本来二枚あるべきところに一枚の認識票、いわゆるドッグタグと、意味を為さないサイレンサーがぶら下がっていた。
「それがどうも、なくしたようです。これでは死人・・・ゾンビみたいなものですからなあ。いやあ、参りました」
そう説明して呵々と笑った大男に、善行は僅かに棘を含んだ声で言った。
「呑気なものですね」
すると若宮は心外だと言う顔をした。
「いや、しかし。なくしたのは昨日の午後ですぞ」
「なぜそうと?」
「実はですな。昨日の昼休みに・・・」
若宮は新井木と交わした会話の内容を善行に話した。
*****
「ねえ!これってけっこーカッコイイ、ていうかオシャレだよね? いかにも軍人て感じ。映画とかでも見た事あるしさ」
「お前も支給されてるだろう?」
「ブッブー。ボクたちのは久遠にくっついてるやつだけだよー!そんな事も知らないの?って知っててもキモいけど。・・・ね、ちょっと貸して見せてよ!」
少年のような少女は着席していた若宮の背中側へと票二つを引っ張った。
「へー・・・あー!!もしかして若宮君、もうすぐ誕生日?」
「・・・ああ、」
「やっぱそうなんだ、おめでとー! ・・・でもコレ。間違ってない?」
「そうか??・・・おい、そんなに引っ張るな。やらんぞ。」
若宮は間近で叫ばれるのに堪まらず鎖を引き寄せた。
「なによケチー!おめでとうなんて言って損しちゃった。だいたいねえ、来須センパイのならともかく、アンタのなんかいるわけないじゃん!」
少女は憎まれ口を叩いたあげく、あっかんべーと舌を出した。
*****
「新井木さんですか。・・・何かのはずみで、彼女が持っているということは?」
善行の声が若干低くなった。変化を聞きつけた若宮が眉を寄せて尋ねる。
「それはないと思いますが・・・どうかしましたか?」
善行はしばし躊躇った後で説明した。
「生年月日のことですよ」
タグにはこのように打刻されている。
WAKAMIYA YASUMITSU 5121 ATP KUMAMOTO 1993/04/01 A+ M NP |
WAKAMIYA YASUMITSU 5121 ATP KUMAMOTO A+ M NP |
尚、タグの裏にはこのように打刻されている。
※大蔵省検定マーク付き
HAPPY BIRTHDAY 99/04/01 FROM T.Z
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