牧師室より

雨宮栄一先生が、3月に上梓された『ドイツ教会闘争の史的背景』を贈ってくださった。ドイツでは、教会は政治に深く関わっている。ヒトラーのナチズムが台頭してくる状況と、それに対応する教会の多様な姿が、詳細に捉えられている。ヒトラーはドイツを「民族共同体」とし、ユダヤ人を抹殺していった。「民族教会」を形成したグループは、ドイツ的キリスト者として、ヒトラーに迎合していった。彼らが表明した12命題の第三命題は下記の文言である。「われわれが神に大いなる感謝を捧げていることは、神はわれわれ民族の歴史に救済者としてアドルフ・ヒトラーを与え、難しい危急の時に指導者、救い主として送り給うことである。われわれは生命と身体でもってドイツとその指導者に結びつけられているし、また義務を負っている。この結びつきと義務は、福音主義キリスト者としてのわれわれにとって、神の戒めに服従するということで、最も深い聖なる責任である。」ヒトラーは、神から送られたドイツの救済者であり、彼に服従することが神の戒めを守ることであるという。

ヒトラーに反抗した告白教会は「バルメン宣言」を告白した。6項からなるが、その1項は下記の文言である。「聖書においてわれわれに証しされているイエス・キリストは、われわれが聞くべき、またわれわれが生と死において信頼し服従すべき神の唯一のみ言葉である。教会がその宣教の源として、神のこの唯一のみ言葉のほかに、またそれと並んで、更に他の出来事や力、現象や真理を、神の啓示として承認しうるとか、承認しなければならないという誤った教えを、われわれは退ける。」

二つの告白の違いに驚く。知性を誇ったドイツの教会は、地上の者を救済者とする偶像礼拝に陥った。キリスト教信仰はイエス・キリストの啓示にのみ、立脚する。