牧師室より

自民党の幹事長などを歴任した野中広務氏が雑誌「世界」で「政治家と歴史認識 日中戦争・南京事件 70年に思う」と題して語っている。率直な話に感銘を受け、下記の言葉に全く同感した。「この国のこれからの平和を考えるうえで、僕がいま一番恐れていることは米軍再編です。かつて日本は傀儡国家である「満州国」を中国の東北部につくり、そこに関東軍司令部を置いて、中国大陸を植民地化していく橋頭堡をつくりました。米軍は今、神奈川県の座間に第一陸軍司令部を置き、さらにそこへ自衛隊の陸上司令部も結集しようとしています。かつての日本の植民地政策と同じ考えではないでしょうか。当時と違うのは、日本政府がその米軍再編3兆円も金を出そうとしていることです。やってはいけない戦争をした日本が、再び戦争に巻き込まれることがあってはなりません。」

米軍司令部の設置はいつものように玉突き状態で問題を広げている。座間に司令部を置くため、厚木にある空母艦載機部隊を岩国基地に移転するという。それは、岩国基地が二倍の規模に膨れ上がることになる。タッチ・アンド・ゴーの激しい訓練で日常生活に支障をきたし、健康被害も起こっているというのに、更なる騒音が持ち込まれる。岩国市民は住民投票において圧倒的多数で「移転反対」を意思表示した。井原勝介市長は民意を背景に当然受け入れを拒否した。すると、政府は市庁舎建て替えのための補助金35億円の支払いを停止した。井原市長は、幾度も新しい予算案を提出するけれども、移転容認派が多数を占める市議会は否決し続けている。彼らは「来る物(艦載機)は来る。もらう物(お金)はもらおう」という考えである。岩国市は市を二分し、深刻な問題になっている。しかし、この問題は岩国市だけのことではない。「アメとムチ」で政治を動かす政府のあり方に地方自治はどこまで主体性を持ちうるのかという日本の民主主義に関わる問題である。横須賀は「原子力空母」の母港になるという。日本は米国の言いなりになってしまう。

旧約時代の預言者たちはこの事態をどのように見るかと想像する。武力と財力を偶像化し、これらに平伏する姿に激怒するのではないか。偶像の拒否がこの世の力に媚びない主体的な人間、自立的な国家を生み出す。井原市長の敗北は民主主義を崩壊させる。