10月29日、親父の入っている老人保健施設で「運動会」があった。
二度目の脳梗塞により左半身不随となってしまった親父と運動会という言葉は結びつかない。
老人ホームとはちがい、老健施設は今後の自立に備えて過ごす場所で、半年で出なければならない。
んが、実のところは老人ホームとそう変わりない状況で、親父も含め、今後の自立が考えられない人も少なくない。
そんな施設での運動会とはどんなものなのか?
車いすの入所者が多いので、本格的なものでないことは明らかだ。
「玉入れなんかをやる」という話は聞いているが、親父は玉入れすらままならないだろうなぁ。
場所は天王台。利根川のほとりの、ほぼ茨城な場所にある。
施設の出す送迎バスは天王台駅を9時半に出るので、10時からの運動会を観るにはこのバスに乗らないといけない。
予定では、西船橋で母と、天王台で姉と合流するはずだったが、前日終電で帰ったオレは見事に寝坊してしまった。
結局西船橋からの武蔵野線1本遅れで済み、予定通り1本前の武蔵野線で向かった母とは6分差で天王台に到着。
送迎バスはマイクロよりも小さいもの。10人ちょいでいっぱいになる。
オレが遅れたせいでバス乗り場に並ぶのが遅くなったのだが、うちら3人が最後の3席に納まってセーフ。
9時半になってもあとの人は来ず、出発。
イベントがあるからもう一台来るかと思ったが。
到着。
施設の1階の中央はすこしスペースがとってあって、そこを利用して行うようだ。
万国旗をはじめとする運動会的な飾り付けがされていて、床には整列用にカラーの粘着テープが貼られている。
なんだか幼稚園のころを思い出した。
施設は2〜4階が居室になっていて、運動会のチーム分けはこの階ごとと、デイケアの人たちの4チームだ。
親父は4階で、会場に降りてくるのは最後になった。特に親父は背が斜めになっている車いすで、エレベーターでの移動も最後の最後となった。
やはり、こんな状態での運動会など考えられない。
一度4階に行って親父の車いすを押して1階に降りると、すでに全チームが揃っていた。
予想通りそのほとんどが車いす。学校の運動会よろしく、車いすやいすを列に並べて応援席にしてある。
各チーム、色分けされた鉢巻きを「選手」全員が頭に巻いている。
会場の広いスペースもさすがに「走り回る用」にはできていないので、大きな柱が2本中程に立っていて、場所によっては奥がよく見えない。
この場合の「奥」は、進行役がマイクでしゃべっている位置であり、競技のゴールでもあるところだ。
3・4階チームは玄関に近いところで、2階・デイケアチームが奥となる。
準備が遅れ10時を回ってもまだ始まっていないためか、結構な数の観覧者が集まっている。マイカーで訪れている人がかなり多い。
親父の近くで観ることにしたのが、椅子が足りないので、玄関の近くに立つ。
プログラムを観ると、借り物競走、パン喰い競走、出前レース、玉入れの4つだけ。
まぁ、選手の体力気力を考えてもそんなもんだろうね。
パン喰い競走のあとの中休みには「チアリーディング」と書いてある。はぁ、どんなもんかね?
競技の前に応援合戦が行われた。
「応援団」を任された介護士は若い人が多く、いまのお笑いのネタを採り入れたり、ロッテの黒ユニを着たりとそれなりに工夫。
でも「フレー、フレー、デ、イ、ケ、ア!」はちょっとヘンなコールだったなぁ(笑み)
いつも4階へ見舞いに行くだけだったが、施設で働いている人はほんと若い人が多い。
そして病院同様女性が多く、茶髪のソバージュの人や、どう見てもサーファーのガン黒のネーちゃんなどキャラもさまざま。
見た目は弾けてるけど、みんな真剣に仕事に従事していて感心。
競技開始。まずは借り物競走。
「選手」は状況が理解できる人が選ばれるのは言うまでもなく、どこも半分弱しか参加できない感じだ。
車いすの人たちは、介護士や家族がダダっと押す。ゆえに、歩ける入所者は逆に不利なのだ。
で、札に書かれたモノをとりに行くのも押してる人で可なので、実質「選手」がやる行為は札めくりだけなのだ。
一応ネタも仕込んであった。「銀髪」という札。
「銀髪」がめくられると、施設長のオジサンが銀ぎつねヅラを被って登場するのだ。
その脈絡のなさがシュールすぎて、入所者たちにはその面白さが全く伝わってなかったっぽい。
親父はというと、…寝ていた(笑み)
顔が斜め上を向く状態の車いす、常にボーっとしているので、そりゃ寝るわ。
場所もチームの一番後ろの列で、状況もよく見渡せないし。
パン喰い競走。
パンは今日日のパン喰い競走の定番で、店で売られている状態のポリの袋に入ったものが吊されている。
健常者でも口だけでとるのは容易ではないんだけど…
見ていると、予想どおり口ではどうにもならず手でとっているジイさんがいた。
ゴールするなり袋を開けてパンをむさぼるバアさんも。ボーっとする時間が多い入所者たちは腹が減りやすく、間食を欲しがちなのだ。
やはり親父は競技に参加するような状態ではない。
2競技に出たのは列の前の方の割とマトモな人たちだけ。中程から後ろはなんとなく応援をしているか、寝ているかだ。
2競技が終わって、おやつの時間となる。
結局全員にアンパンが配られた。親父は硬いモノが喰えないので、ミキサーがけされたアンパンのなれの果てをすする。
観に来た人々もこの間にあちこちに動いたので、立ちっぱなしだったオレは親父の後ろの位置の空いた席に座ることにした。
目の前に柱がある上、座面が低いいすのために競技が見にくそうなのだが、親父が出るわけでないのでいいや。
おやつが片づくと、チアリーディングが始まるとのアナウンス。
するとビックリ、若手女性介護士が本物のチアリーダーのカッコでゾロゾロ出てきた。
スカートの下は黒スパッツで生脚丸出し。
さっきまでパンツスタイルの白衣上下だったのに、このギャップがたまりません。
練習を積んでいたようで、フォーメーション組んで一生懸命やってましたわ。
ルックスバッチリな子が何人かおりまして… もっと見える席に居りゃぁよかった。
オレくらいの歳の男がわんさかいたらきっと恥ずかしかったんだろうが、観ていたのは子どもと中高年がほとんどだった。
競技に戻って出前レース。
東京フレンドパークのカブよろしく、そばのせいろを積み上げたものを運んでリレーする。
これ、ほんと押す人次第。車いすの「選手」たちは腿と顎でせいろを挟んで押されてるだけだ。
さいごの玉入れは全員参加。
親父にお手玉を渡すものの、参加意欲ゼロ。持たせてもすぐに床に投げてしまう。
玉入れは段ボールを背負った介護士が応援席の周りを回って玉を受けに来るので、投げさえすれば参加になるのだが。
結局親父の玉は全部オレが投げ込む(笑み)
4競技が終わって成績発表。
親父のいる4階が最多得点で優勝となった。
写真があるとどんな雰囲気かわかるのだが、場所が場所だけに、遠慮した。
それにしても、なかなか盛り上がった。
競技自体は大したことがないんだけど、あぁいう所に居っぱなしの人々にとって、この賑やかさが何よりの刺激になる。
競技を終えて席に帰ってきたジイさんの嬉しそうな顔がすごく印象的だった。
親父にとってはただただやかましいだけだったようだが。
あぁ、オレにもあの生脚軍団はすんごく刺激的で…
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