成年後見制度について
2001(平成13)年11月25日
2019(令和元)年10月7日改訂
2019(令和元)年11月9日改訂
2019(令和元)年10月7日改訂
2019(令和元)年11月9日改訂
第 1 成年後見制度
1.成年後見制度の意義
成年後見制度は,精神的又は身体的に自ら財産管理や身上監護の全部又は一部ができなくなった者を対象に,必要な範囲において援助を行うことをいう。
そして,旧制度では,禁治産,準禁治産制度が存在した。(平成12年3月31日まで)
しかし,これらの制度は,本人の保護という観点からすると十分な機能を果たしていないうえ,現在の世界の潮流となっている自己決定権の尊重及びノーマライゼーションの趣旨からすると,不十分な制度になっていた。
2.成年後見制度の基本理念
- (1)自己決定権の尊重
福祉サービスを権利として捉え,その権利を行使するという考え方により,「自己の意思による決定」というものを尊重しようとするものである。 - (2)残存能力の活用
たとえ,判断能力が衰えたとしても,その人の残存能力を活用しようということである。
「自己決定権の尊重」の一種である。 - (3)ノーマライゼーション
障害者を特別なグループとして社会から隔離するのではなく,可能な限り社会の一員として地域社会で通常の生活が送れるような環境や条件を作り出そうとする考え方をいう。
3.旧来の制度の問題点
- (1)硬直的で柔軟性に欠ける
- (2)準禁治産者の保佐人に代理権・取消権がない
- (3)鑑定費用が高い,また,鑑定期間が長い
- (4)名称が差別的である
- (5)公示制度に問題がある(戸籍に記載された)
- (6)不適切な欠格条項がある
- (7)心神喪失,心神耗弱の言葉が分かりにくい
- (8)監督制度が不十分である
- (9)身上配慮が不十分である
第 2 新しい成年後見制度
1.法定後見制度
- (1)法定後見制度の改正(民法の一部を改正する法律)(平成12年4月1日施行)
- 1)補助制度の新設
- 2)保佐(準禁治産を改正)
- 3)後見(禁治産を改正)
- 4)配偶者後見制度の廃止
- 5)複数後見人制度の導入及び法人後見人制度の明文化
- 6)成年後見人等選任の考慮事由の明文化
- 7)身上配慮義務及び本人の意思の尊重等
- 8)監督人体制の充実
- (2)補助類型,保佐類型,後見類型の違い
- 法定成年後見制度における代理権・同意権・取消権者
- (注)日常生活に関する行為については,取り消し得ない。
- (3)代理権,同意権,取消権について
判断能力 | 名称 | 代理権の対象 | 同意の対象 | 取消権者 (注) |
||
本人 | 保護者 | |||||
後見 | 欠けているのが 通常の状態 | 成年被後見人 | 成年後見人 | 財産に関するすべての法律行為 | なし | 本人 成年後見人 |
保佐 | 著しく不十分 | 被保佐人 | 保佐人 | 家裁が定める 特定の法律行為 | 民法12条項 所定の行為 | 本人 保佐人 |
補助 | 不十分 | 被補助人 | 補助人 | 家裁が定める 特定の法律行為 | 家裁が定める特定の法律行為 | 本人 補助人 |
- 1)代理権
本人に代わって意思表示を行うことができる地位をいう。
代理人が本人のためにすることを示してなした意思表示は,本人に対して直接法律的効果が発生する。 - 2)同意権
本人が意思を表示する際に同意することができる地位をいう。
本人が後見人の同意なくしてなした意思表示は取消すことができる。 - 3)取消権
同意を必要とする意思表示を同意なくして行った場合や不完全な意思表示を行った場合等にその意思表示を取消してその意思表示がなかった状態にすることをいう。
- (4) 後見開始審判等の請求権者
- 1)後見開始の審判の請求権者は,本人,配偶者,四親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官,及び市町村長です。(民法7条,老人福祉法32条)
- 2)保佐開始の審判の請求権者は民法11条,老人福祉法32条で規定しています。
- 3)補助開始の審判の請求権者は民法15条,老人福祉法32条で規定しています。
2.任意後見制度
- (1)任意後見制度の新設(任意後見契約に関する法律)
これは,心身の衰えに先立って自分の意思で自分の介護の体制を組んでおきたいという場合に対応するために,任意後見人に対する公的な監督制度を整備して適正な職務の行使を確保しようとする枠組みを提供するものである。 - (2)法定後見制度が既製服とすれば,任意後見制度はオーダーメードの成年後見制度である。
- (3)少なくとも,補助類型に該当する程度以上の精神上の障害(痴呆,知的障害,精神障害等)が認められるときは,補助,保佐,又は後見のいずれかの類型に該当するかの認定を要することなく,任意後見監督人を選任して任意後見人に代理権を付与する。
- (4)任意後見契約の締結・方式
要式契約-公正証書による契約が必要である。 - 理由
- ア.公証人の関与により,本人の意思能力の確認,本人の真正な意思により契約の締結及び契約書の成立の真正を制度的に担保する。
- イ.それらの事実を確実かつ容易に立証できるようにする。
- ウ.公証人役場での保管により契約証書の改ざん・滅失等を防止することができる。
- エ.公証人役場から登録機関に遺漏無く嘱託による登録を行うことにより法定後見開始請求の審理にあたって,任意後見契約の締結の有無を確認できる。
- (5)家庭裁判所による任意後見監督人の選任
家庭裁判所による任意後見監督人の選任を代理権付与の停止条件とする。
家庭裁判所は任意後見人を解任することができる。 - (6)任意後見監督人の職務等
任意後見人の事務の監督
任意後見人に事務の報告を求めることができる。
任意後見人の事務,本人の財産の状況の調査
その他 - (7)法定後見との関係の調整
両方の制度を一緒には利用できない。
3.成年後見登記制度の創立(後見登記等に関する法律)
戸籍制度を一部改正して,成年後見に関する事項を戸籍に記載しないこととし,それに代わる制度として成年後見登記制度を新設した。
これにより所謂「戸籍が汚れる。」ということがなくなった。
4.新しい成年後見制度の問題点
- (1)類型化を残したこと-もっと柔軟な方式のほうがよいと思う。
- (2)資産のない人の利用が難しい-扶助制度がない-後見人の費用負担の問題である。
- (3)「身上配慮義務」が漠然としている。
- (4)成年後見人の人材確保が十分になされていない-弁護士や司法書士の対応が必要。
参考文献
- ・野田愛子・田山輝明編集
Q&A高齢者財産管理の実務
新日本法規出版株式会社
-
・升田純著
成年後見制度をめぐる裁判例
判例時報1572号以下
-
・東北弁護士連合会
高齢者の安心できる暮らしのために-財産管理を中心として-(レジメ) -
・桑野雄一郎著
高齢者の財産管理の問題点とその方策について(レジメ) -
・第一東京弁護士会司法研究委員会編
高齢者の生活と法律
日本加除出版 -
・高村浩著
Q&A成年後見制度の解説
新日本法規出版 -
・加藤淳一著
事例でみる新成年後見制度
大成出版社 - ・高齢者・障害者の財産管理研究会
高齢者の財産管理Q&A
一橋出版 -
・(社)成年後見センター・リーガルサポート実践成年後見No.1
民事法研究会