不正競争防止法
平成24(2012)年10月25日改訂
平成26(2014)年1月4日改訂
平成27(2015)年1月2日改訂
平成27(2015)年10月26日改訂
令和元年(2019)年10月17日改訂
第一 憲法の原則
一 私的自由・権利の保持,生命・自由・幸福追求権の尊重
- 憲法12条
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によって,これを保持しなければならない。」 - 憲法13条
「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」
二 私有財産制
- 憲法29条
「財産権は,これを侵してはならない。」
「財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める。」
三 憲法は自由な経済(営業)活動を保障している。
- 憲法22条1項
「何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有する。」
第二 民法の原則
一 私有財産制 所有権絶対(不可侵)の原則(民法206条)
二 私的自治の原則(契約自由の原則)
三 過失責任主義
1 債務不履行
民法に直接的な規定はないが,債務不履行責任(民法415条)が債務者の過失によることを前提としている。
2 不法行為
民法709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
民法722条が準用する民法417条(金銭賠償の原則)
「損害賠償は,別段の意思表示がないときは,金銭をもってその額を定める。」
例外 民法723条
「他人の名誉を棄損(きそん)した者に対しては,裁判所は,被害者の請求により,損害賠償に代えて,又は損害賠償とともに,名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」
ポイント
以上の民法の原則は,自由主義経済体制において競争による活発な経済活動を促進し,それによる国民の経済生活の健全な発展を意図している。
しかし,不正ないし違法な競争行為は,不法行為であり,それを防止する必要がある。
不正競争防止法は,独占禁止法,不当景品類及び不当表示防止法,並びに特許法,実用新案法,意匠法,商標法,著作権法等の知的財産に関する特別法とともに,不正な競争行為を列挙してそれを防止できるようにしている。
cf
民法(不法行為)には不正競争防止法3条,14条等にあるような以下の請求権等が規定されていない。
(1) 侵害行為の差止請求権 |
cf 民法197条以下 | |
(2) 侵害行為の予防請求 |
||
(3) 侵害行為組成物,侵害行為により生じた物,侵害行為に供した設備等の廃棄除却請求権 |
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(4) 信用回復措置請求権 cf 民法723条 |
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(5) 損害額立証の容易化に関する規定 cf 民訴法248条 |
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(6) 相手方の行為の具体的態様の明示義務 |
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(7) 秘密保持に関する規定 |
(注)
特に侵害行為の差止請求権が重要である。
侵害者が競業者でない場合,不正競争行為による被害が希薄であり,不正行為の成立の認定が難しい場合がある。
しかし,不正競争防止法は,不正競争行為として,著名表示冒用行為,商品役務内容等誤認惹起行為,技術的制限手段無効化行為について,必ずしも競業者でなくても不正競争として規律している。
第三 不正競争防止法
最終改正 平成30年(法33)
一 不正競争防止法は,経済法・競争法の体系に入る。
1 独占禁止法などとともに,経済活動における行動基準・ルールを規定している。
cf
- 2 独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は,
競争阻害性を有する行為を,裁判手続によらないで主に行政の手で(主に公正取引委員会)行政的規制により規律する法律である。
但し,独占禁止法には,司法(裁判)上の請求権(不公正取引方法に対する差止請求権等)もある。
3 独占禁止法の規制
- (1) 「私的独占の禁止」
- (2) 「不当な取引制限」
- (3) 「不公正な取引方法」
4 不正競争防止法
私法上の請求権として不正競争を規律して,競業者や一般消費者の利益を保護する法律である。
二 不正競争防止法は,知的財産法の体系にも入る。
- 1 不正競争防止法は,経済活動における公正な慣習に反する行為(不正競争行為)を規制して,その規制(行為の差止や予防,廃棄除却請求を含む)を通じて,反射的に知的財産を不正な侵害から保護する。
- (1) 特許法,実用新案法,意匠法,著作権法等が対象とする技術・製品等
- (2) 商標法が対象とする商品・営業標章
- (3) 商法・商業登記法に規定される商号
- (4) ノウハウ,営業秘密など
2 不正競争防止法が機能する場面
- (1) 著作権,ノウハウ,営業秘密等を除いて,他の知的財産権は原則として登録等の手続が必要であり,その手続をしなければ,その法律による権利を取得できず,権利行使も出来ない。
その場合に不正競争防止法を活用できる場合がある。 - (2) 不正競争防止法が他の知的財産権法と重畳的に適用される場合もある。
三 不正競争防止法の規制
- 1 限定的列挙である。
不正競争防止法は,その規律する不正競争となる行為を限定的に列挙している。 - 2 その理由は,
- (1) 民法の不法行為が,金銭賠償が原則であるのと異なり,不正競争防止法では,不正競争行為の差止請求,予防請求,不正競争行為組成物等の廃棄除却請求という,相手方の経済活動に甚大な影響を与える権利が付与されている。
それにより,相手方の経済活動は事実上不可能になる場合もある。 - (2) 不正競争行為が,限定列挙でなく一般条項とすると,何が許される競争行為であるか,何が許されない競争行為であるかについて必ずしも社会的認識が形成されていない段階では事業者がそれを判断することが困難であり,事業者の経済活動が萎縮し,それにより経済全体が萎縮してしまうおそれがある。
- 3〈注意点〉
不正競争防止法に列挙されていない不正競争行為でも,一般法である民法709条の不法行為として損害賠償請求の救済は受けられる。
四 不正競争防止法の保護法益
事業者の営業上の利益(私益)と,公正な競争(秩序)の確保(公益)である。
五 主な不正競争の種類(2条)
1 周知表示(商品・営業表示)との混同惹起行為 (1号)
- (1)他人の商品等表示(他人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの)として需要者の間に広く認識されているもの(周知表示)と同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起(じゃっき)行為)は,不正競争となる。
- (2)その趣旨は,人の業務に係る商品等表示について,商品等表示の持つ標識としての機能(商品出所表示機能,自他商品識別機能,品質保証機能,顧客吸引機能)を保護し,もって事業者間の公正な競争を確保することにある。
- (3)判例
- ア 東京地判平成10年3月13日高知東急事件
原告東京急行電鉄株式会社―「東急」は東京の「東」と急行の「急」を組み合わせた略称
被告 「高知東急(たかち・のぼる)」当時売り出し中の若手タレント
原告の請求認容 - イ 東京地判平成15年8月25日株式会社ホテルサンルート鈴鹿事件
- ウ 福岡地判平成2年4月2日西日本ディズニー株式会社事件
- エ 千葉地判平成8年4月17日ウォークマン事件
ソニー(株)の商標「ウォークマン」が他社の商号(有限会社ウォークマン)に冒用された事件 - (4)周知性
商品等表示が広く認識されていることである。
広く認識されている地域は,必ずしも日本全国である必要はない。少なくとも一地方(狭い地域の周知性でも足りる)において広く認識されていれば足りる。 - (5)同一又は類似の判断基準
- ア 外観類似
- イ 呼称類似
- ウ 観念類似
表示の意義観念において類似し,混同のおそれがあることをいう。 - エ 全体類似
最終的に,取引の実情のもとにおいて,一般取引者,需要者が全体的にみて類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断する。 - (6)使用
商品等表示を直接使用する場合のみならず,商品等表示を使用した商品を譲渡,展示,輸出,輸入することも含まれる。 - (7)混同
錯誤すること(需要者が間違って商品等が同一であると誤認すること)をいう。
現実に混同の結果が生じなくても,混同のおそれがあれば足りる。 - (8)規制の種類
侵害の差止・予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求・信用回復措置請求
刑事罰あり
2 著名表示(商品・営業表示)冒用行為 (2号)
- (1) 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引き渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供する行為は不正競争となる。
- (2) 著名な商品等表示
事業者自身の営業努力により,自己の営業の本来の需要者や本来の営業地域の枠を超えて,自己を表示するものとして広く知られ,かつ一定以上の信用・名声・評判が確立された商品表示・営業表示をいう。
「著名」とは,全国的ないし,極めて広い範囲において認識されていることを要する。 - cf
「周知性」は1地方で周知されていればよい。 - ex
「ルイヴィトン」,「シャネル」,「エルメス」,「コーチ」等
著名な商品等表示について,その顧客吸引機能を利用しての「ただ乗り」を防止するとともに,その出所表示機能,自他商品識別機能,品質保証機能,及び顧客吸引機能が希釈化され,汚染されることにより害されることを防止するための規制である。
誤認混同を要件としない。
すなわち,庭の雑草取りをしないと庭が荒れてしまい美しい庭が維持できないように,著名な商品等表示のただ乗り(フリーライド),希釈化(ダイリューション),汚染(ポリューション)を放置すれば著名表示の高級イメージ等を維持できなくなる。 - (3)著名表示冒用の事例
商品表示,営業表示,商号に使用,ドメイン名への使用も対象となる。
「シャネル」がラブホテルやポルノショップの名前に使われた場合。
ボーカルグループの「シャネルズ」から「ラッツアンドスター」への変更の経緯
「ディズニー」がパチンコ店名に使用された例
「ニナ・リッチ」がノーパン喫茶店名に使用された例
ドメイン名の事例
「SONYBANK」事件(東京地判平成13・11・29)
「J-PHONE」事件(東京地判平成13・4・24) - (4)規制の種類
侵害の差止・予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求・信用回復措置請求
刑事罰あり
3 商品形態模倣行為(デッドコピー) (3号)
他人の商品(最初に販売された日から起算して3年を経過したものは除く)の形態を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸し渡しのために展示し,輸出し,輸入する行為は,不正競争となる。
- (1) デッドコピー規制の趣旨
先行開発者の成果を模倣者がデッドコピーすることにより生ずる競争上の不公正を是正することである。
コピー商品は,商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減することができるので,コピー商品を放置すれば,先行者の市場先行の利益は著しく低下し,模倣者と先行者との間に競争上著しい不公正が生ずるし,模倣者が商品形態開発のための費用・労力を要することなく先行者と市場において競合することを許すことは,先行者を競争上不当に不利な地位に置くとともに,模倣者を競争上不当に有利な地位に置くものであり社会正義に反するとともに新商品開発に対する社会的意欲を減殺することになってしまうから,商品化のために資金・労力を投下した先行者の開発利益(市場先行の利益)を模倣者から保護する必要がある。 - cf
商品形態について意匠登録をしていれば,当然意匠法による意匠権に基づいて差止請求等の権利主張もできる。(意匠権の存続期間は,設定登録の日から20年(意匠法21条)) (平成19年3月31日までに出願したものは15年) - (2) デッドコピーの概念
- ア 商品の形態
商品の形やデザインをいい,商品の品質や内容と異なる。 - イ 「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」はデッドコピーとはならない。
その形態が市場で事実上の標準となっているような形態又はその形態をとらない限り商品として成立しない形態(機能に由来する形態)をいう。 - ex
- 1) 折りたたみコンテナ事件(東京地判平成6・9・21)
- 2) 組立パイプ事件(東京地判平成14・1・30)
- (3)模倣(デッドコピー)
模倣(デッドコピー)とは,先行者の成果を完全に模倣して,何らの改変を加えないことである。
「模倣」とは,既に存在する他人の商品の形態をまねて(依拠性が必要である),これと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。
デッドコピーの規制を免れる意図で,実質的に同一性を失わない程度のわずかな改変を加えたに過ぎない場合もデッドコピーである。
形態がたまたま同一であっても,それが独自に創作されたものである場合は,「模倣」とはならない。
模倣(デッドコピー)と認められた事例 - 1) たまごっち事件(東京地判平成10・2・25)
- 2) 写真立て事件(大阪地判平成14・2・26)
- cf
「類似の商品形態」は規制対象ではない。 - (4) 最初に販売された日から起算して3年の経過前のものが保護される。
先行開発者が投下した費用・労力の回収が終了し,通常期待しうる程度の利益を得た後(投資が回収された後)は,デッドコピーによっては競争上の不公正が通常生じないと考えられる。
投資の回収期間は一律ではないが,玩具等の模倣の多い商品では概ね3年以内のモデルチェンジが行われることが多い事などを考慮して3年とされた。
これは,保護要件が,保護対象商品の創作性や周知性を要求せず,商品形態の模倣という容易に充足され得るものとしていることを前提として,競争の自由や工業所有権制度との調和等をも考慮した上で規定されたものと解される。 - (5) 請求主体
模倣(デッドコピー)であるとして不正競争防止法の定める保護を請求できる者は,原則として,自ら開発・商品化し,市場においた者に限られる。
輸入業者やライセンシーとして商品の製造の許諾を得たにすぎないものは保護請求ができないとした判例(東京地判平成13年8月31日エルメスバッグ事件)。但し,独占的販売権者について請求権を認めた判例がある(ヌープラ事件・大阪地判平成18.1.23)。 - (6) リバースエンジニアリング
他人の商品を解析し,技術を探りだし,それに基づいて改良を行うことをいう。
リバースエンジニアリング自体は,原則として違法行為ではないが,それにより完全模倣をした場合や実質的に同一性を失わない程度に改変したに過ぎない場合は問題がある。但し,不正競争防止法は,模倣行為自体を不正競争とはしていない。 - (7) 規制の種類
侵害の差止・予防,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰あり
4 営業秘密の不正取得・使用・開示行為 (4号~10号)
- (1) 営業秘密
営業秘密は,無体物である情報であり,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報で,公然と知られていないものをいう。 - (2) 秘密管理
当該情報の保有者に秘密に管理する意思があり(主観的意思),かつ,当該情報を漏洩させないための客観的に認識できる程度の管理がなされていること(客観的秘密管理)が必要である。 - (3) 有用性
有用性とは,当該情報自体が事業活動に使用・利用されたり,又は,使用・利用されることにより費用の節約・経営効率の改善等に役立つことであり,客観的に有用でなければならない。 - (4) 非公知性
当該情報が刊行物に記載されていない等その保有者の管理している範囲以外では一般的に入手できない状態をいう。
営業秘密が意匠登録出願され意匠公報に掲載されたときは,意匠公報の発行日以降は「営業秘密」に当たらないとした判例がある。(東京地判平成14・3・19) - (5) 営業秘密に該当しないもの
反社会的な行為に関する情報は「営業秘密」には該当しない。 - ex
脱税,プライバシーの侵害等の情報 - (6) 不正取得(4号)
窃盗,詐欺,強迫その他の不正な手段で営業秘密を取得する行為をいう。
営業秘密の不正取得は,現実的には会社役員や従業員の退職に伴って発生する場合が多いが,職務上正当に取得した場合は不正取得にならない。 - (7) 営業秘密の使用
営業秘密を自らの事業活動に活用することをいう。 - (8) 営業秘密の開示
公然と知られるものとして,または秘密の状態のままで,他の者に知らせることをいう。 - (9) 不正取得後悪意転得行為 (5号)
その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って,若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し,またはその取得した営業秘密を使用し,若しくは開示する行為は,不正競争となる。 - (10) 不正取得善意転得後悪意使用行為 (6号)
営業秘密を取得した後に,その営業秘密に不正取得行為が介在したことを知り,又は重大な過失により知らないで,その取得した営業秘密を使用し,または開示する行為は,不正競争となる。
(但し,契約等に基づき取得した権原の範囲内であれば,当該営業秘密を使用又は開示出来る。) - (11) 不正目的使用開示行為(7号)
営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合,不正競争その他の不正の利益を得る目的で,又はその保有者に損害を与える目的で,その営業秘密を使用し,又は開示する行為は不正競争となる。 - (12) 不正開示後悪意転得行為(8号)
その営業秘密に関して不正開示行為であること,もしくはその営業秘密に不正開示行為が介在することを知って,もしくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し,又はその取得した営業秘密を使用し,若しくは開示する行為は不正競争となる。 - (13) 不正開示善意転得後悪意使用行為(9号)
営業秘密を取得した後にその営業秘密について不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って,または重大な過失により知らないで営業秘密を使用し,又は開示する行為は,不正競争となる。
(但し,契約等に基づき取得した権原の範囲内であれば当該営業秘密を使用又は開示出来る。) - (14)(6)、及び(9)ないし(13)の行為により生じた物を譲渡し、引渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為(平成27年7月改正により新設) (10号)
- (15) 規制の種類
侵害の差止請求・予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰あり
平成23年の改正で,刑事訴訟手続における営業秘密の適切な保護にかかる措置が規定された。 - (16) 守秘義務,競業制限契約が問題となる場合がある。
企業は,営業秘密を管理するため,従業員との間で,営業秘密の使用・開示制限契約を結び,また退職後に一定の秘密保持契約や競業制限契約をして守秘義務や競業避止義務を課することが多い。
これらの契約は,合理的な範囲を越えない限り有効である。
5 限定提供データの不正取得等(11号~16号)
- (1) 窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為又は限定提供データ不正取得行為により取得した限定提供データを使用し,若しくは開示する行為(11号)
- (2) 12号ないし16号に規定する限定提供データに関する不正競争行為
- (3) 規制の種類
侵害の差止請求
予防請求
廃棄除去請求
損害賠償請求
信用回復措置請求
6 技術的制限手段の無効化行為(17号・18号)
- (1)コンテンツを記録した媒体あるいはコンテンツを視聴又は記録するための機器が技術的制限手段(営業上用いられているコンテンツの視聴又は記録を一律に禁止するための技術的制限手段)を用いている場合に,その「技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有する装置」等を譲渡等する行為は不正競争となる。
平成23年の改正により,不正競争の定義に,技術的制限手段の効果を妨げることにより映像の視聴等を可能とする機能を有する装置等であって当該機能以外の機能を併せて有するものを,技術的制限手段の効果を妨げることにより映像の視聴等を可能とする用途に供するために譲渡する行為等を追加した。
ex
コピーガードを解除する装置の販売
スクランブルを解除する装置の販売 - (2)規制の種類
侵害の差止請求,予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
平成23年の改正で刑事罰が規定された。
7 ドメイン名の不正取得・使用行為 (19号)
- (1)不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的で,他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し,若しくは保有し,又はそのドメイン名を使用する行為は,不正競争となる。
「ドメイン名」とは,インターネットにおいて,個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号,記号又は文字の組み合わせに対応する文字,番号,記号その他の符号又はこれらの結合をいう。 - ex
J-phone事件(東京地判平成13・4・24)
SONY事件(東京地判平成13・11・29)
自由軒事件(大阪地判平成16・2・19) - (2)規制の種類
侵害の差止請求,予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰なし(但し,他の刑罰の適用は妨げない。)
8 商品・役務内容等誤認惹起行為 (20号)
- (1)商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途,若しくは数量若しくはその役務の質,内容,用途若しくは数量について誤信させるような表示をし,又はその表示をした商品を譲渡し,引渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供し,若しくはその表示をして役務を提供する行為(商品・役務内容等誤認惹起行為)は,不正競争となる。
- ex
国産の腕時計に「PARIS」と表示した行為が,出所地誤認惹起行為に当たるとされた事例(東京地判昭和58・12・23,ルイ・ヴィトン事件) - (2)規制の種類
侵害の差止請求,予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰あり
9 競争関係にある営業者に関する虚偽事実流布(るふ)による信用棄損(きそん)行為 (21号)
- (1)競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為(信用棄損行為)は,不正競争となる。
- (2)問題
「比較広告」
自己の供給する商品又は役務について,これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合も含む),商品等の内容又は取引条件に関して,客観的に測定又は評価することによって比較する広告
比較広告の内容が客観的に実証され,実証された数値や事実を正確かつ適正に引用し,比較方法が公正である場合は,不当広告(不正競争)にならないと考えられる。 - (3)規制の種類
侵害の差止請求,予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰なし(但し,他の刑罰の適用は妨げない。)
10 代理人等の商標冒用行為 (22号)
- (1)パリ条約の同盟国,世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締結国において商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又はその行為の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者が,正当な理由がないのに,その権利を有する者の承諾を得ないでその権利に係る商標と同一若しくは類似の商標をその権利に係る商品若しくは役務と同一若しくは類似の商品若しくは役務に使用し,又は当該商標を使用したその権利に係る商品と同一若しくは類似の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供し,若しくは当該商標を使用してその権利に係る役務と同一若しくは類似の役務を提供する行為は不正競争となる。
- (2)規制の種類
侵害の差止請求,予防請求,廃棄除却請求
損害賠償請求,信用回復措置請求
刑事罰あり
11 外国国旗・紋章等冒用(16条・17条)
- (1)外国国旗,国際機関の紋章等(標章)の商業上の使用を禁止している。
但し,権限のある官庁や国際機関からの許可があれば使用可能である。 - (2)規制の種類
民事的規制はない。
刑事罰がある。
六 不正競争の規制手段
但し,商品形態模倣行為の場合請求権者に限定がある。
- 1 差止請求権(3条)
不正競争によって営業上の利益が侵害される場合,被侵害者は,侵害者に対して,不正競争行為を差止(ストップ)させることができる。
侵害者の故意又は過失の立証が不要である。 - 2 予防請求権(3条)
営業上の利益がある者は,現実の侵害がなくても,侵害するおそれがある者に対して,侵害の予防請求ができる。 - 3 廃棄除却請求権(3条)
侵害行為を組成した物や侵害行為により生じた物等の廃棄除却請求ができる。 - ex
・不正商品,不正表示の付された物等の廃棄,撤去
・原版,金型の廃棄
・表示の抹消
・包装容器の廃棄
・営業秘密が記載された資料の廃棄
・侵害行為に供された設備の除却
七 損害賠償請求権(4条)
- (1)故意,過失の立証が必要である。(過失責任主義)
損害額の立証が実務的に困難な場合が少なくない。
そうした不都合を解決するために後記の損害額立証の容易化規定がある。 - cf
民法上の不法行為による損害賠償請求をなすことも出来る。(民法709条) - (2)損害額立証の容易化(5条)
逸失(いっしつ)利益の証明の容易化・損害額の推定・使用許諾料相当額の請求権(5条) - (3)技術上の秘密について第2条第1項第4号、第5号又は第8号に規定する行為があった場合において,その行為をした者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生産その他技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める行為をしたときは,その者は,それぞれ当該各号に規定する行為として生産等をしたものと推定する。
(第5条の2・平成27年7月改正で新設)
八 信用回復措置請求(14条)
不正競争により,営業上の信用を害された者は,損害賠償に代え,または損害賠償とともに,その営業上の信用回復に必要な措置を請求できる。
- ex
謝罪広告
九 相手方の行為の具体的態様の明示義務(6条)
十 損害額立証のための文書提出命令(7条)
十一 損害額計算のための鑑定(8条)
十二 相当な損害額の裁判所による認定(9条)
十三 秘密保持命令(10条)
十四 当事者尋問等の公開停止(13条)
十五 信用回復の措置(14条)
十六 営業秘密に関する不正競争の消滅時効(15条)
被侵害者が不正競争行為を知ったときから3年間,不正競争行為開始時から20年間(平成27年7月改正で除斥期間を延長した。)
十七 刑事罰(21条)
- (1)懲役又は罰金,ないし併科が出来る。
- (2)刑罰が適用除外されている行為
- 1) ドメイン名の不正取得・使用行為
- 2) 信用棄損行為
- 3) その他
- 4) 但し,刑法その他の法律による刑罰規定の適用は防げない。
- (3)両罰規定(22条)
行為者個人だけでなく,その使用者である「法人」または「個人」を処罰する規定がある。(1部類型について) - (4)平成27年7月の改正により刑罰が加重された。
十八 適用除外等(19条)
- 1 適用除外(19条1項)
- (1) 商品及び営業の普通名称・慣用表示
- ex
「弁当」,「酒」,「幕の内」 - (2) 自己の氏名の不正の目的でない使用
- ex
「本名」,「芸名」,「雅号」 - (3) 周知性獲得以前からの先使用
- (4) 著名性獲得以前からの先使用
- (5) 日本国内において最初に販売された日から起算して3年経過した商品
- (6) 模倣商品の善意取得者保護
- (7) 営業秘密の善意取得者保護
(その取引によって取得した権原の範囲内においてその営業秘密を使用・開示する行為は保護される。) - (8) 試験又は研究のために用いられる装置等の譲渡等
- 2 混同防止表示付加請求権(19条2項)
自己の氏名を不正の目的なくして使用する行為,先使用にかかる商品等表示を不正なくして使用する行為等により,営業上の利益を侵害され,または侵害されるおそれのある者は,自己の商品または営業との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求できる。
以上
参考文献
- 1. 不正競争防止法 青山紘一著 法学書院
- 2. 不正競争防止法 飯塚卓也・三好豊・末吉亙著 中央経済社
- 3. 逐条解説不正競争防止法 経済産業省知的財産政策室編著 有斐閣
- 4. 商品形態の保護と不正競争防止法 牛木理一著 経済産業調査会
- 5. 不正競争の法律相談 寒河江孝允編著 学陽書房
- 6. 不正競争の法律相談 小野昌延・山上和則編 青林書院
- 7. 不正競争防止法研究「権利侵害」と「営業秘密の保護」について
- 日本弁理士会中央知的財産研究所編 雄松堂出版
- 8. 座談会不正競争防止法をめぐる実務的課題と理論 飯村敏明編集・牧野利秋監修 青林書院
- 9. 不正競業訴訟の法理と実務 松村信夫著 民事法研究会
- 10. 最新不正競争関係判例と実務 大阪弁護士会友新会編 民事法研究会
- 11. 実務相談不正競争防止法 田倉整・元木伸編 商事法研究会
- 12. 不正競争防止法(事例・判例)第2版 青山紘一著 経済産業調査会
- 13. 不正競争防止の法実務 棚橋祐治監修 三協法規出版