特定商取引法
1 特定商取引法は,一般にトラブルが発生しやすい特定の取引を特定商取引としてとりあげて,トラブルを防止するためのルールを定めている法律です。 特定商取引には,以下の種類があります。
A 訪問販売
営業所,代理店その他の経済産業省で定める場所以外の場所で行われる取引をいいます。
代表的なのは自宅への押し売り,路上でのキャッチセールスです。
訪問販売に関する規制
- ア 氏名など勧誘目的の明示義務
- イ 再勧誘の禁止
消費者が勧誘訪問を断った場合,事業者は再度の勧誘のための訪問は禁止されます。
従前拒絶された商品と全く異なる商品であれば,再勧誘の禁止規定に抵触しないと考えられています。 - ウ 勧誘の際の不当行為の禁止
不実告知行為等があった場合,消費者契約法による取消しができます。
消費者契約法に記載してあるように6か月内に取消しできます。 - エ 申込書面・契約書面の交付義務
これに違反すると,事業者に対して,行政罰(たとえば業務停止命令,販売契約の強制解除)や刑事罰(100万円以下の罰金)があります。
契約書面の交付は,クーリングオフの起算点で重要です。 クーリングオフ期間は8日間です。(特商法9条)
クーリングオフに関する説明文も含めて,法定の記載事項を満たした契約書面を受領した日から起算されます。
契約書面の記載が不完全だったり,虚偽の記載がある場合は,書面交付義務が履行されていないため,クーリングオフの起算日がまだ発生していないので,不完全ないし虚偽の記載のある書面の交付を受けてから8日間が過ぎてもクーリングオフができます。 - オ 過量販売規制
一度に多量に購入させたり,同じ事業者が何度も訪問して次々と商品の購入をさせたり,通常必要となる分量を超えることを知りながら,複数の事業者が訪問して次々と商品の購入をさせる場合をいいます。 - カ クーリングオフ期間は8日間です。
契約書面交付日から起算されます。(特商法9条) - キ クーリングオフ期間を過ぎても,過量販売を理由に,書面で,契約締結日から1年以内に契約を解除できます。(特商法9条の2)
過量販売解除の効果は,クーリングオフの場合と同じです。
事業者が新聞や雑誌,インターネットなどで広告を出して,消費者から郵便,電話電子メール等の通信手段により申込を受ける取引のことです。
- ア 通信販売の規制
広告の際の表示事項の義務付け(特商法11条)
商品の販売価格や役務の対価,代金の支払い時期や支払い方法,商品の引渡時期,権利の移転時期,役務の提供時期,事業者の氏名,住所,電話番号,申込の制限等法律及び施行規則で定められた事項を表示しなければなりません。 - イ 誇大広告の禁止(特商法12条)
通信販売では誇大広告が禁止されています。
違反した場合は,消費者契約法による取消しができます。
また,罰金や業務停止命令などの対象になります。 - ウ 迷惑メール規制(特商法12条の3,36条の3,54条の3)
電子メール広告を送信する前に,予め消費者の「請求や承諾」を得ることが義務付けられています。
広告メールの送信を希望しない利用者に対する広告メールの送信は禁止されます。 - エ 返品制度
通信販売で購入した商品の引渡しを受けた日または指定権利の移転を受けた日から8日以内なら,商品購入者(消費者)の負担で返品できる制度です。
ただし,通信販売の広告に予め「返品できない」旨記載されている場合は,返品できません。(特商法15条の2)
3000円未満の現金取引であっても適用されます(特商法15条の2)。 - オ 通信販売にはクーリングオフ制度は適用されません。
事業者が電話で勧誘して,消費者からの申込を受ける取引のことです。
電話をいったん切った後に,消費者からの郵便や電話,電子メール等によって申込を行う場合もこれにあたります。
電話勧誘販売に関する規制
- ア 氏名等の明示義務
- イ 勧誘継続・再勧誘の禁止
- ウ 電話勧誘販売における禁止事項
- エ 不実告知・不利益事実の不告知・威迫による販売・クーリングオフ妨害
以上に該当すれば,消費者契約法による6カ月内の取消しができます。 - オ クーリングオフは契約書面を受領した日から8日間できます。(特商法24条)
- カ クーリングオフが出来ない商品があります。
・乗用自動車の電話勧誘販売
・政令で指定された消耗品を使用・消費した場合
・代金ないし対価が3000円に満たない場合
事業者が一般の消費者を組織の販売員(会員)として勧誘し,その販売員にさらに次の販売員を勧誘させる方法で,販売組織を連鎖的に拡大して行う販売方法です。
ネズミ講の禁止
金銭を支払って加入した人が,他に2人以上の加入者を紹介・あっせんして,その結果,出資した額を超える金銭を後で受け取る販売方法で,マルチ商法と異なり,商品の受け渡しは行われません。
連鎖販売取引に関する規制
- ア 広告事項の義務付け
- イ 誇大広告の禁止
- ウ 迷惑メール規制
- エ 勧誘目的の明示
- オ 不当行為の禁止
- カ 概要書面の交付義務
- キ クーリングオフ
クーリングオフ制度告知の日から20日間(特商法40条) - ク クーリングオフ期間が過ぎても,中途解約権があります。
入会後1年以内の店舗をもたない個人であれば,引渡しから90日以内で未使用の商品を返品することが出来ます。(特商法40条の2) - ケ 返品による損害賠償の制限があります。
商品が返還されたか,引渡前であれば,商品の販売価格の10%に相当する額プラス6%の法定利率とする制限があります。(特商法40条の2) - コ 消費者契約法による取消しができる場合があります。
E 特定継続的役務提供に係る取引
長期・継続的なサービスの提供の対価として,高額の金銭の支払いを求める取引です。語学教室,エステティックサロン,学習塾(家庭教師・通信指導も含まれます。),パソコン教室,結婚相手を紹介するサービス等です。
特定継続的役務提供に係る取引に対する規制
- ア 広告規制があります。
- イ 書面等の交付義務があります。
- ウ 勧誘行為規制があります。
- エ クーリングオフ
契約書面をもらった日を含めて8日間(特商法48条) - オ クーリングオフ期間が経過してクーリングオフできない場合でも中途解約権があります。(特商法48条)
- カ 消費者が中途解約権を行使すると,事業者の請求する損害賠償金についての限度額の規制があります。(特商法49条)
F 業務提供誘引販売取引
「依頼した仕事をしてくれれば収入を得ることが出来る」といった口実で消費者を勧誘し,仕事に必要であるとして,商品等を販売する取引です。
事業者に対する規制
- ア 広告規制があります。
- イ 勧誘規制があります。
- ウ 書面交付義務があります。
- エ クーリングオフ期間は,20日間です。(特商法58条)
G ネガティブ・オプション
いきなり商品を送り付け,商品代金を請求する「ネガティブ・オプション」について特商法59条(売買契約に基づかないで送付された商品)で規制しています。
消費者は,商品が送付された日から起算して14日間保管しておく義務がありますが,15日目からは商品を捨てても使っても全く自由です。
消費者は事業者に対し,商品代金を支払う義務はありません。
消費者が事業者に対し,商品の引取りを要求した場合は,その日から7日を経過すれば自由な処分が出来ます。
この規制は特定商品等の制限がないので全ての商品に適用されます。
代金引換郵便や代金引換宅配には注意する必要があります。気づいたらすぐに事業者に対する支払凍結の申出を郵便局や宅配会社にすることが大事です。
二 特定商取引法が(全部又は1部)適用されない場合(特商法26条)
- 1 弁護士が行う弁護士法に基づく役務の提供
- 2 宅地建物取引業法に基づく宅地建物取引業者が行う商品の販売・役務の提供(宅建業法37条の2により規制されています。)
- 3 飲食店が行う路上の客引き行為など
- 4 自動車の販売・自動車リース(割賦販売法で規制されています。)
- 5 生鮮食料品取引
- 6 消耗品については消耗した部分はクーリングオフはできません。
参考文献
- 1.改正法対応 消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の法律知識
藤田裕監修 三修社 - 2.図解・イラストによる金融商品販売法・消費者契約法早わかり
松本恒雄監修 BSIエデュケーション - 3.図解でわかる改正割賦販売法の実務
小山綾子著 経済法令研究会 - 4.改正特定商取引法のすべて第2版
村千鶴子著 中央経済社 - 5.実務論点金融商品取引法
松尾直彦・松本圭介編著 金融財政事情研究会 - 6.金融商品取引被害救済の手引五訂版
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編 民事法研究会 - 7.Q&A資金決済法・改正割賦販売法
渡邊雅之/井上真一郎著 金融財政事情研究会 - 8.よくわかるクーリングオフの仕方
村千鶴子著 日本法令 - 9.第4版特定商取引ハンドブック
斎藤雅弘・池本誠司・石戸谷豊著 日本評論社 - 10.詳説改正割賦販売法
中崎隆著 金融財政事情研究会 - 11.Q&A市民のための特定商取引法
村千鶴子著 中央経済社 - 12.改正割賦販売法の要点解説Q&A
右崎大輔著 中央経済社 - 13.詳解特定商取引法の理論と実務(補訂版)
圓山茂夫著 民事法研究会 - 14.改正特商法・割販法の解説
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編 民事法研究会 - 15.改正法完全網羅 特定商取引法・割賦販売法
日本司法書士会連合会