経営承継円滑化法と民法特例
平成20(2008)年10月25日改訂
平成21(2009)年12月25日改訂
平成31年(2019)年3月11日改訂
平成21(2009)年12月25日改訂
平成31年(2019)年3月11日改訂
- 1 「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が平成20年5月9日の国会で成立しました。
- 2 この法律は,その目的として,「中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ,遺留分に関し民法の特例を定めるとともに,中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより,中小企業における経営の承継の円滑化を図り,もって中小企業の事業活動の継続に資すること」を掲げています。
- 3 この法律の特徴は3つの内容からなっています。
・ 民法の特例(相続における遺留分の特例)
・ 金融支援措置に関する特例
・ 株式承継の贈与税・相続税の納税猶予(新事業承継税制)
- 4 この法律の施行日ですが,経営承継円滑化法そのものは平成20年10月1日から施行され,「遺留分に関する民法の特例」は,平成21年3月1日から施行されました。
- 5 以下に各特徴について説明をします。
・ 適用範囲=中小企業者
「中小企業者」には会社のみならず,個人事業者も含まれますが,個人事業者が適用を受けることができるのは,金融支援措置だけです。
民法の特例の適用を受けることができるのは「中小企業者」のうち,3年以上継続して事業を行っている「会社」に限られ,個人事業主や医療法人は含まれません。
- ・ 民法の特例(相続における遺留分の特例)
なお,平成28年4月1日施行の改正経営承継円滑法で,後継者について,先代経営者の推定相続人であることという要件を削除して,民法特例の適用対象を親族外承継にまで拡張しています。 - ア 生前贈与株式を遺留分の対象から除外できる制度の創設(除外合意)
旧代表者の生前に,旧代表者から後継者が生前贈与された自社株式等について遺留分算定の基礎財産から除外する合意を,旧代表者の推定相続人全員が書面により行ってから1カ月以内に経済産業大臣に申請して確認を受けた後,その確認後1カ月以内に,後継者単独で家庭裁判所に許可申請をして,家庭裁判所がそれを許可をすることにより,上記合意の効力が発生する制度です。
この合意により,事業承継に不可欠な自社株式等に関する遺留分減殺請求を未然に防ぐことができます。 - イ 生前贈与株式の評価額を予め固定できる制度の創設(固定合意)
旧代表者の生前に,旧代表者から後継者が生前贈与された自社株式等の評価額を合意時点の価格に固定する合意を,旧代表者の推定相続人全員が書面により行ってから1カ月以内に経済産業大臣に申請して確認を受けた後,その確認後1カ月以内に,後継者単独で家庭裁判所に許可申請をして,家庭裁判所がそれを許可をすることにより,上記合意の効力が発生する制度です。
この合意により,旧代表者から生前自社株式等を贈与された後に,後継者が後継者の貢献により自社株式等の価値が上昇しても,その上昇価値分を後継者が保持できます。 - ・ 金融支援措置に関する特例
経営の承継においては,多額の資金需要が発生し,また,信用状態の低下を招く場合があることから,経済産業大臣の認定により,会社の資金需要に対応して,中小企業信用保険法の特例により,信用保険の拡大(別枠化)を措置し,また,後継者個人の資金需要に対応して,株式会社日本政策金融公庫法及び沖縄振興開発金融公庫法の特例として,後継者個人に対する融資を実施することになりました。 - ・ 新事業承継税制(株式承継にかかる贈与税及び相続税の納税猶予)
- ア 自社株式の承継による贈与税や相続税の納税猶予制度」(いわゆる新事業承継税制)を制定しました。
- イ 自社株式の贈与や相続について,贈与税の全額,相続税の80パーセントが納税猶予されます。
但し,承継する自社株式の全てが納税猶予の対象となるのではなく,「発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分」しか対象となりません。
- ウ 新事業承継税制の適用後に一定の要件を満たさなくなれば,その時点で納税猶予税額と利子税を納付しなければなりません。
- 条件
- ① 贈与・相続による自社株式の移動に伴い,業務執行権(代表者の地位)と会社支配権(支配株主の地位)を先代経営者から後継者に承継する。
- ② 承継後5年間は,後継者が会社の代表者として,贈与・相続時の雇用を確保できる事業規模を維持する。
- ③ その後は,雇用の確保までは求められないが,事業会社としての実態を維持するとともに(資産管理会社やペーパーカンパニーにすることは原則認められない),株式を保有する。
- エ 適用対象
・ 贈与税の納税猶予は,平成21年4月以降の贈与から適用されます。
・ 相続税の納税猶予は,平成20年10月1日以降の相続から適用されます。 - オ 納税免除要件は,
贈与税
ⅰ 先代経営者の死亡
ⅱ 先代経営者死亡前の後継者の死亡
相続税
ⅰ 後継者の死亡
ⅱ 次の後継者への株式贈与に伴う業務執行権及び会社支払権の移動 - 1 鳥飼重和編著 経営承継円滑化法と民法特例の法実務 清文社
- 2 江口正夫・坪多晶子・今仲清著
経営承継円滑化法でこう変わる!新時代の事業承継 清文社 - 3 竹本雅則・小山雅久著 事業承継策の検討要素
会社法務Ato2Z 第一法規 - 4 吉岡毅編著 中小企業事業承継の実務対応
銀行法務21/2008年/9月増刊号 経済法令研究会 - 5 事業承継ガイドライン
20問20答中小企業の円滑な事業承継のための手引き
中小企業庁 - 6 事業承継相談対応マニュアル 中小企業基盤整備機構
- 7 吉田良夫弁護士 日弁連特別研修会レジメ
弁護士が中心となる事業承継プラン 日本弁護士連合会 - 8 事業承継の法律実務と税務Q&A 南繁樹(編)青林書院
- 9 柏原智行著 近年の法改正を踏まえた事業承継アドバイスのポイント 銀行法務21 №839(2019年3月号)
参考文献