不在者の財産管理人と取得時効による
所有権移転登記手続請求訴訟

2008(平成20)年6月30日

 民法の総則の第25条に「不在者の財産の管理」の条項があります。

 私は,司法試験受験時代に不在者の財産の管理の条項はあまり関心がなく身近に不在者という人もいなかったことからこのような条文が実務に入った場合これほど頻繁に使用することになるとは予想もできなかったです。

 それだけ勉強が浅かったと言えると思います。

 弁護士を開業した後,訴訟により不動産の所有権移転登記手続を請求する場合に被告となる登記名義人について所有権の登記がされたのが明治時代とか大正時代であり,その名義人の登記簿上の住所が現在住所として存在しない住所が記載されており,かつ,その名義人が居所不明で現在生存しているかどうか不明であるケースが多々あります。

 仮にその登記簿に記載された所有名義人が生存していたにしても推定で100歳以上の長寿である人が多くいます。

 このような場合に悪意の20年の時効取得(民法第162条1項)を理由として所有権移転登記手続を請求する場合,本籍・住所不明,生死不明の登記名義人を被告として訴訟をするということになります。

 その前段階として家庭裁判所に利害関係人として原告が被告である登記名義人が不在であることを理由として不在者の財産管理人の選任申立をし,家庭裁判所から不在者の財産管理人の選任を受け,その不在者の財産管理人を被告である登記名義人の財産管理者として訴訟を提起するということになります。

 このような取得時効を理由とする所有権移転登記手続請求訴訟事件が弁護士開業後現在まで相当件数あります。不在者の財産管理人の選任申立をした上で不在者の財産管理人を被告として所有権移転登記手続の請求訴訟をなし,その判決に基づいて原告単独申請で所有権移転登記手続を完了する事件が数多くありました。

 このようなことで受験時代は学識不足のためこのような条項がこれだけ実務で活用されているということは予想しなかったことです。この民法第25条の「不在者の財産管理」の条文の様に受験時代は重要視しなかった条文で実務開始後に頻繁に利用し,もしくは,重要な事案についてこの条文がなければ事案が解決できないという条文が相当程度あることを実感しました。

 ちなみに,不在者の財産管理人として家庭裁判所から選任されるのは弁護士がほとんどで,裁判所に納める予納金は30万円前後だと思います。

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