個人債務者再生手続について
2008(平成20)年7月10日改訂
2012(平成24)年6月25日再改訂
2016(平成28)年3月15日再改訂
2016(平成28)年4月18日再改訂
2018(平成30)年6月23日再改訂
2020(令和2)年8月8日再改訂
2020(令和2)年9月14日再改訂
2022(令和4年)7月12日再改訂
2012(平成24)年6月25日再改訂
2016(平成28)年3月15日再改訂
2016(平成28)年4月18日再改訂
2018(平成30)年6月23日再改訂
2020(令和2)年8月8日再改訂
2020(令和2)年9月14日再改訂
2022(令和4年)7月12日再改訂
- 1 2001(平成13)年4月1日から民事再生法の改正として、
個人債務者再生手続が施行されました。 - 2 従来の制度の問題点
- ① 従来の個人の多重債務(その個人が返済出来ない程度に多額の債務が発生した場合をいう。)の解決方法は、自己破産と債務整理(特定債務調停も結果的に同様です。)だけでした。
- ② 自己破産手続は、破産決定の後に免責決定が確定すれば既存債務を支払わなくてもよくなりますが、破産者が破産決定時に所有していた不動産、預金等の財産は原則としてすべてなくなります。
また、自己破産をすると金融機関のブラックリストにのり、その後数年間は金融機関から借り入れができなくなることや一定の資格業種の場合に破産するとその資格に基づく仕事ができなくなる等デメリットもあります。
一方,債権者の立場からすると破産手続による配当はほとんど期待できないような事例がほとんどです。 - ③ 債務整理は、利息制限法に違反した約定利息が支払われている場合は、利息制限法により引き直し違法利息分を元本に充当して債務額を減額しますが、それによっても残債務がある場合はそれを一括か分割で弁済をすることが必要となり、債権者の個別の同意を得ないで残債務を減額する法的方法がありませんでした。
- ④ 平成12年4月1日から施行された民事再生法は個人が利用できるようにはなっているが、あくまで企業向けの再建手続であり、事業者以外の個人が利用するのは事実上困難でした。
- ⑤ そこで、利息制限法によっても残債務がある場合に、一定の法的手続によりその事業者以外の個人が支払うことが可能な程度の額にその債務を減額させ、それを一括または分割で弁済することにより破産を回避でき,同時に破産手続に比較してより多くの配当が債権者に与えられるような法的制度の制定が望まれていました。
- ⑥ そのような制度を制定したのが今回の改正(以下「民再」と表記します。)です。
- 3 その内容は3つに分かれています。
- ① 小規模個人再生
- ② 給与所得者等再生
- ③ 住宅資金貸付債権に関する特則
- 4 小規模個人再生(民再221条以下)
- ① 小規模個人再生は、将来において継続的に収入を得る見込みがある個人債務者で、無担保再生債権の総額が5000万円を超えない者を対象として、その将来の収入を弁済原資として再生債権を原則3年(最長5年)で分割弁済をすることを内容とする再生計画案を作成して裁判所の認可を得てこれを弁済すれば残債務が免除される民事再生手続です。
- ② 再生債権者の消極的同意(再生計画案に同意しない意思を通知した債権者が半分に満たない限り再生計画案への多数の賛成があったとします。)で足ります。
- ③ 小規模個人再生では、職務を必要最小限のものに限定した個人再生委員の制度を採用して、手続費用を低廉にするようにしています。
-
④ 小規模個人再生では、再生計画における無担保債権者への弁済額は、債務者が破産した場合における配当額を上回るものでなければならないとともに、無担保の再生債権の総額が、
3000万円超5000万円以下の場合はその10分の1の額
1500万円超3000万円以下の場合は300万円
500万円超1500万円以下の場合はその5分の1の額
100万円以上500万円以下の場合は100万円
100万円未満の場合は全額
でなければなりません。 - 5 給与所得者等再生(民再239条以下)
- ① 給与所得者等再生は、小規模個人再生の対象者のうち、一般のサラリーマンなど、将来の収入を確実かつ容易に把握できる者を対象とする手続です。
- ② 再生債務者の収入や家族構成等を基礎に再生債務者の可処分所得を算出して、その2年分以上の額を弁済原資に充てることを条件に、再生計画の成立に通常必要な再生債権者の決議が不要となります。
したがって、債権者の半分以上の同意による決議がいりません。 - ③ この算定方式で算出した可処分所得2年分以上の金額を原則として3年で弁済することになります。
- 6 住宅資金貸付債権に関する特則(民再196条以下)
-
① 住宅ローンについてその弁済の繰り延べを内容とする特別条項を再生計画で定め,その認可を得た上でこれを計画通り支払うことにより住宅を失うことなく住宅ローンを弁済できるようにする制度です。
この特則は,民事再生手続,小規模個人再生手続及び給与所得者等再生手続にも適用されます。
なお,この「住宅」とは,再生債務者が所有し(共有でも良い。),自己の居住の用に供する建物であって,建物の床面積の2分の1以上に相当する部分が,専ら自己の居住の用に供されることが必要です。(民再196条1号) - ② この住宅資金特別条項においては、住宅資金貸付債権の元利金の全額を、既に分割払の弁済期が到来しているものは一般の再生債権についての弁済期間(最長5年)内に支払い、まだ弁済期がきていないものは当初の約定通りに支払うことが原則ですが、その弁済をすることの見込みがない場合は最長10年、70歳まで住宅ローンの支払期限を延長することができます。
- ③ また、一般の再生債権を支払っている期間内は住宅ローンの元本の支払を少なくすることもできます。
- ④ 住宅資金特別条項を定めた再生計画が成立した場合、その効力は住宅に設定された抵当権にも及びますので、再生計画に基づいて弁済をしていれば抵当権の実行がなされなくなります。
- ⑤ 住宅等について住宅資金貸付債権を担保する抵当権以外に,一般債権を担保する別除権が設定されている(民再198条1項但し書前段)等の場合は,住宅資金特別条項を定めることが出来ません。
- 7 個人債務者再生手続をするメリットがある主なケース
- ① 住宅ローンをかかえていて住宅は手放したくないケース
- ② 保険外交員や警備員をしていて,自己破産すると保険の外交員や警備員の仕事が続けられないケース
- ③ 破産手続開始決定を受けても免責決定がなされないケース
- ④ 破産手続開始決定を受けると風俗営業の許可が取消されて仕事が続けられないケース
です。