犯罪被害者保護法に基づく「損害賠償命令制度」
2022(令和4)年9月14日
- 1 損害賠償命令制度の意義
- 2 損害賠償命令制度の利用の要件
- ①故意の犯罪行為により人を死傷させた罪またはその未遂罪
- ②次に掲げる罪又はその未遂罪
- イ 強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等の罪
- ロ 逮捕及び監禁の罪
- ハ 未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪
- 二 イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪
- 3 申立手続
- 4 申立ての審理
- ①刑事と民事の審理の分離
損害賠償命令の審理及び裁判は、刑事被告事件の終局裁判の告知があるまでは行われません。(保護法26条1項)
刑事被告事件で無罪等の判決等の場合は損害賠償命令の申立ては却下になります。(保護法27条) - ②任意的口頭弁論
口頭弁論を経ないで裁判を行うことができます。
この場合は当事者を審尋することができます。(保護法29条) - ③審理の回数制限
裁判所は、特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日において、審理を終結しなければなりません。(保護法30条3項) - ④刑事訴訟記録の取調べ
最初の審理期日において、必要でないと認めるものを除き、裁判所が職権で刑事被告事件の訴訟記録を取り調べなければなりません。(保護法30条4項) - ⑤職権による移行
- ア 職権による移行の決定
裁判所が、審理に日時を要するため、4回以内の審理期日において審理を終結させることが困難と判断した場合には、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定により損害賠償命令事件は終了し、民事訴訟手続に移行します。(保護法38条1項・4項・34条1項) - イ 当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、損害賠償命令の決定書の送達または決定の口頭での告知があった日から2週間以内に裁判所に異議の申立てをすることができます。(保護法33条1項)
適法な異議の申立てがあったときは、仮執行宣言が付されたものを除き、損害賠償命令の申立てについての裁判は効力を失います。(保護法33条4項)
この場合は、その目的の価額に従い、申立て時申立人が指定した地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。(保護法34条1項) - ウ 民事訴訟への移行
民事訴訟に移行する場合には、その目的の価額に従い、申立て時に申立人が指定した地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。(保護法34条) - エ 損害賠償命令の効果
損害賠償命令の申立てについての裁判に対して、当事者が適法な異議を申し立てないときは、損害賠償命令は確定判決と同一の効力を有します(保護法33条5項) - オ 損害賠償命令申立てが却下されたとき
損害賠償命令申立てが却下されたときは、却下の告知を受けたときから6ヵ月以内に、申立てに係る請求について裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法もしくは家事事件手続法による調停の申立て、破産等の手続への参加、差押え、仮差押えまたは仮処分をしなければ、時効の完成猶予の効力が生じません。(保護法28条)
犯罪被害者が損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用し、簡易迅速に損害を回復することができる制度として、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法、以下「保護法」といいます。)の中に損害賠償命令制度が創設されました。(保護法23条以下)
犯罪被害者等が損害賠償命令制度を利用できるのは、以下の犯罪被害にあった被害者か、その被害者が死亡した場合の相続人です。(保護法23条1項)
損害賠償命令の申立ては、当該刑事被告事件が係属する地方裁判所に対して申立書を提出する方法により行います。
損害賠償命令の申立ては当該刑事被告事件の弁論が終結するまでに行わなければなりません。(保護法23条1項柱書)
申立書に具体的な事実の詳細な記載があると、裁判官の心証形成に不当な影響を及ぼすおそれがあることから、保護法・規則所定の記載事項(保護法23条2項)以外の事項を記載してはなりません。(保護法23条3項)
参考文献
- ・実践 犯罪被害者支援と刑事弁護
編者 兵庫県弁護士会「実践 犯罪被害者支援と刑事弁護」出版委員会
発行 株式会社 民事法研究会 - ・犯罪被害者保護法制解説 第2版
著者 高井康行・番敦子・山本剛
発行 株式会社 三省堂