民事保全法に基づく仮差押えないし仮処分に対し債務者が取り得る手段の1つの起訴命令申立
2021(令和3)年2月9日
今回は、民事保全法(以下「法」といいます。)に基づく仮差押ないし仮処分に対し債務者が取り得る手段の1つである起訴命令申立を解説します。
- 1 仮差押え
仮差押えは、金銭の支払を目的とする債権について、将来強制執行をすることが不可能又は著しく困難になるおそれがあるときに、その権利の実現を保全するために行う手続です。(法20条1項) - 2 仮処分
仮処分は、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の2種類があります。 - (1)係争物に関する仮処分
係争物に関する仮処分は、債権者が債務者に対して特定物や権利(債権、知的財産権など)についての給付請求権を有する場合に、その執行を保全するために、その処分を禁止したり、占有の移転を禁止したりするものです。(法23条1項) - (2)仮の地位を定める仮処分
仮の地位を定める仮処分は、争いのある権利関係について、現在債権者に生じている著しい損害や急迫の危険を回避するため、本案の権利関係を基礎として、暫定的に必要な措置を命じ、当事者間の法律関係を形成するものです。(法23条2項) - 3 起訴命令申立
- (1)仮差押えや仮処分を受けた債務者は、その保全命令を発した裁判所に対し、2週間以上の相当と認める期間内に、債権者に本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命ずる起訴命令の申し立てができます。(法37条1項、2項)
- (2)債権者が裁判所が発した起訴命令に定められた期間内に(1)記載の書面を提出しなかったときは、債務者は裁判所に対し、保全命令の取り消しを求めることができます。(法37条3項)
債務者のその申し立てがあれば、裁判所は保全命令を取り消さなければなりません。(法37条3項) - 4 本案が家事調停の場合の起訴命令
人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件については、いきなり訴訟手続により紛争の解決をはかるのでは
なく、その前に調停の場で話し合いの機会を持つことが必要であるとする調停前置主義がとられています。(家事事件手続法257条1項)
そして、法は、家事調停の申立てを本案の訴えの提起とみなすことにしています。(法37条5項) - 5 仮処分に関して
なお、仮処分に関しては、
2009(平成21)年7月2日占有移転禁止の仮処分と、
2009(平成21)年8月26日隣人が、越境してブロック塀を造り始めたときの対処法(土地所有権確認訴訟と妨害排除請求訴訟(妨害物収去土地明渡訴訟)そして工事禁止の仮処分)
でご紹介しています。
参考文献
- ・民事保全手続
関 述之 著
一般社団法人 金融財政事情研究会発行 - ・仮差押え・仮処分の法律相談(新版)
羽成 守 編集
株式会社青林書院発行