民法改正による売買契約に関する規律の変更
(契約不適合責任として、損害賠償請求、契約解除の他に追完請求の修補請求、代替物引渡請求、そして代金減額請求が新設されました。目的物の種類又は品質に関する契約不適合の場合1年以内の契約不適合の通知が必要になります。)
2019(令和元)年12月8日
2020(令和2)年2月19日改訂
2022(令和4)年1月18日改訂
2020(令和2)年2月19日改訂
2022(令和4)年1月18日改訂
民法改正により売買に関する規律が改正され、2020(令和2)年4月1日から施行されました。
この改正された売買契約に関する規律は、消費貸借契約、賃貸借契約や請負契約など、売買契約以外の有償契約についてもその性質に反しない限り準用されます。(改正民法559条)
なお、経過規定は以下の通りです。
改正法附則34条1項により、改正民法施行日前(2020(令和2)年3月31日以前)に締結された売買契約については旧法が適用になります。
売買契約は、売主が財産権を買主に移転し、買主がその代金を支払うことを約する契約です。(改正民法555条)
- 第一 売買目的物の契約不適合に関する規律の改正
売主が引き渡した売買目的物が種類や品質の点で契約内容と異なっていたり、数量が不足していた場合の売主の責任に関する規律が改正されました。 - 1 旧法でも、同様の場合には、瑕疵担保責任として、買主は、損害賠償請求や契約解除をすることができます。
- 2 改正法では、買主は、売主に対し、契約不適合責任として、損害賠償請求や契約解除のほかに、追完請求として修補請求や代替物請求など完全な履行を請求することや、代金減額請求することができるようになりました。
- 3 買主の追完請求権
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます。(改正民法562条)
- 4 買主の代金減額請求権
- ①引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。
(改正民法563条1項) - ②次の場合は、買主は催告をすることなく直ちに代金減額請求をすることができます。
- ア 履行の追完が不能なとき
- イ 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
- ウ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき
- エ 前3号に掲げる場合のほか、買主が①項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき
(改正民法563条2項) - ③但し、目的物の不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は、買主は代金減額請求ができません。(改正民法563条3項)
- ④代金減額請求権は、形成権であり,代金減額的損害賠償請求権ではないと考えられます。
代金減額請求権を現に行使した後は、これと両立しない損害賠償の請求や解除権の行使をすることは出来ないと考えられます。 - 5 目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができません。(改正民法566条本文)
但し、売主が引き渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、買主は、目的物の不適合を知ったときから1年以内にその旨の通知をしなくても上記の履行の追完請求や代金の減額請求、損害賠償請求、契約解除ができます。(改正民法566条但書) - 6 目的物の数量や移転した権利が契約内容に適合しない場合
- ア 買主が権利を行使することができることを知った時から5年間、
- イ 権利を行使することができる時から10年間
の消滅時効になります。
(改正民法166条1項1号又は2号)
買主は、その消滅時効が完成するまでは、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができます。(改正民法566条本文の反対解釈) - 7 売買契約の契約解除
- ① 改正民法は、債務不履行による解除一般の要件として債務者の帰責事由を不要にしました。
解除制度を、履行を怠った債務者への制裁ではなく、債権者を契約(売買契約)の拘束から解放する制度と考えたからです。 - ② 催告解除の要件
当事者の一方がその債務を履行しない場合、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約(売買契約)の解除をすることができます。
(改正民法541条本文) - ③無催告解除の要件
- ア 改正民法は、催告することなく契約の全部を解除できる要件を以下の通り定めました。(改正民法542条1項各号)
- a 債務の全部の履行が不能であるとき
- b 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
- c 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
- d 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき
- e 上記a~dに掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が改正民法541条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき
- イ 契約の無催告による一部解除
改正民法は、催告することなく契約の一部の解除ができる要件を以下の通り定めました。(改正民法542条2項各号) - a 債務の一部の履行が不能であるとき
- b 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
- ④ 債権者(買主)に帰責事由がある場合の解除の制限
改正民法で、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、契約の解除をすることができないと定められました。
(改正民法543条) - ⑤ 債務不履行が当該契約や取引上の社会通念に照らして軽微である場合の解除の制限
改正民法で、催告期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約の解除をすることができないと定められました。
(改正民法541条但書) - ⑥ 契約解除の効果
改正民法は、解除の効果として、各当事者は相手方を原状に回復させる義務を負い、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならないと定め、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以降に生じた果実をも返還しなければならないと定めました。
(改正民法545条1項~3項) - ⑦ 解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅
改正民法は、解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は消滅すると定めました。
(改正民法548条本文)
但し、その場合に、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、解除できると規定しました。
(改正民法548条但書) - ⑧ 契約解除の経過規定
改正法施行日(2020(令和2)年4月1日)前に契約(売買契約)が締結された場合におけるその契約(売買契約)の解除については、旧法が適用されます。
(改正法附則32条)
この場合は、一般的な消滅時効が適用され、