配偶者居住権・配偶者短期居住権
2019(平成31)年3月11日
2021(令和3)年2月2日改訂
2021(令和3)年2月2日改訂
- 第1 民法が改正され,配偶者居住権と配偶者短期居住権が規定されました。
この配偶者居住権に関する改正の施行は,2020年4月1日からです。
そのため,配偶者居住権・配偶者短期居住権は,2020年4月1日以降に開始した相続について適用されます。(平成30年7月13日法72号の附則10条1項)
また,配偶者居住権は遺言で設定することも出来ますが,配偶者居住権を記載した遺言は,2020年4月1日以降しか作成出来ません。(平成30年7月13日法72号の附則10条2項)
- 第2 配偶者居住権
- 1 配偶者居住権の取得事由
- ① 配偶者は,被相続人の財産に属した建物に相続開始前に居住していた場合に,以下の事由があるときに限り,配偶者居住権を取得し,無償でその居住建物の全部を使用・収益することができます。(改正民法1028条1項,554条)
- ア)遺産の分割により配偶者居住権を取得するとされた場合
- イ)配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合
(被相続人は,遺言によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができますが,「遺贈」によることが必要とされています。(改正民法1025条1項本文)) - ウ)被相続人と配偶者との間に,配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約がある場合(改正民法554条参照)
- ② 遺産分割の審判により配偶者居住権を取得させる場合
遺産分割協議や調停が調わない場合,家庭裁判所は以下の事由がある場合に限り,遺産分割によって配偶者居住権を取得させる審判をすることが出来ます。(改正民法1029条)
- ア)配偶者に配偶者居住権を取得させることについて共同相続人全員の合意がある場合
- イ)配偶者が配偶者居住権の取得を希望する旨を家庭裁判所に申し出た場合で,居住建物の所有者が受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために配偶者居住権を取得させることが特に必要であると認められる場合
- 2 配偶者居住権を取得した場合,その配偶者はその財産的価値に相当する価額を相続したものと取り扱われます。
- 3 配偶者居住権の存続期間
遺言などによる特段の定めがなければ,その存続期間は配偶者の終身の間になります。(改正民法1030条)
- 4 配偶者居住権の対抗要件
配偶者居住権を登記したときは,居住建物について物権を取得した者その他の第三者に対抗することが出来ます。
居住建物の所有者は,配偶者に対し配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。(改正民法1031条)
- 第3 配偶者短期居住権
- 1 配偶者は,無償で居住建物を使用できる配偶者短期居住権を,以下のア)又はイ)の場合に取得します。
- ア)改正民法1037条1項1号により,相続開始前に被相続人所有の建物に無償で居住していた相続人の配偶者に対し,その居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべきときは,相続開始から遺産分割により配偶者の居住建物の帰属が確定する日又は相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日まで
- イ)上記ア)以外の場合(改正民法1037条1項2号),その居住建物の所有権者から配偶者短期居住権の消滅の申入れを受けた日から6カ月を経過する日までの間の期間
- 2 配偶者短期居住権の対抗力
配偶者短期居住権は,被相続人の配偶者の居住建物について,配偶者が他の共同相続人や遺言等によりその建物を取得した者に対して主張できる権利です。
しかし,配偶者短期居住権は,第三者対抗力はありません。
〈参考文献〉
・堀総合法律事務所 編 相続法改正と金融実務Q&A 株式会社きんざい
・日本弁護士連合会 編 Q&A改正相続法のポイント 新日本法規出版株式会社
・弁護士法人Y&P法律事務所・税理士法人山田&パートナーズ編著
改正相続法への対応と実務Q&A 日本法令
・碓井孝介著 図解でわかる改正相続法入門 日本加除出版株式会社