商標権侵害等について
2018(平成30)年5月4日
2020(令和2)年10月22日改訂
2020(令和2)年10月22日改訂
- 第1 商標
- 1 商標とは,「知的財産権(知的所有権)」の中の,「産業財産権」の一種で,「一定の商品またはサービスについて使用するマーク等の営業標識」を保護するものです。
- 2 商標法2条1項は,「商標」を、「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、
- 一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
- 二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」
- 3 商標には,
- (1)自他商品・役務識別機能(その商標を使用する事業者が提供する商品・役務を,他の事業者が提供する商品・役務と区別する機能)
- (2)出所表示機能
- (3)品質保証機能
- (4)広告宣伝機能
- 第2 商標権として保護を受けるためには,登録が必要となっています。
- 1 商標権の登録は,先出願主義がとられています。
- 2 これに対して,著作権は,無方式主義を採用しており,著作権者として保護を受けるための登録は,必要とされていません。(著作権法17条2項)
- 3 登録された商標かどうかを,簡易に調べる方法としては,国内商標については,特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を使用する方法等があります。
J-PlatPatは,独立行政法人「工業所有権情報・研修館」が運営している特許・実用新案・意匠・商標のデータベースです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage - 4 外国商標を調査する方法としては,WIPO(世界知的所有権機関)が運営する「Global Brand Database」,「Romarin」、EUIPO(欧州連合知的財産庁)の運営する「TMVIew」,「AseanTMView」を利用する方法等があります。
- 5 ただし,上記に記載した方法は,あくまで簡易検索であるため,本格的な商標調査を必要とする場合は,専門家である弁理士に依頼した方が良いでしょう。
- 第3 商標法に基づく請求
- 1 商標権者は,指定商品または指定役務について,登録商標を使用する権利を専有します。(商標法25条)
- 2 そのため,商標権者は,他人が指定商品または指定役務について,
- (1)登録商標と同一の標章を使用している(又はそのおそれがある)
- (2)登録商標に類似した標章を,指定商品または指定役務に使用している(又はそのおそれがある)
- (3)登録商標を指定商品に類似した商品,又は指定役務に類似した役務に使用している(又はそのおそれがある)
- (4)登録商標に類似した標章を,指定商品に類似した商品に使用すること,または指定役務に類似した役務に使用している(又はそのおそれがある)
場合には,その侵害行為の停止又は予防請求をすることができます。(商標法36条1項・37条) - 3 また商標権者は,侵害行為の停止又は予防請求の際に,侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができます。(商標法36条2項)
- 4 故意・過失によって上記のような行為があり,それによって損害が発生した場合には,商標権者は,登録商標を使用されたことによって生じた損害賠償を請求することができます。(商標法38条参照)
- 5 商標を,商品又は役務に「使用する」とは,以下のようなものであるとされています。(商標法2条3項)
- 一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
- 二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為
- 三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し,又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
- 四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
- 五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
- 六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
- 七 電磁的方法(電子的方法,磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
- 八 商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
- 九 音の標章にあつては,前各号に掲げるもののほか,商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
- 十 前各号に掲げるもののほか,政令で定める行為
- 第4 商標の類否について
- 1 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は,当該商標権又は専用使用権の侵害とみなされます。(商標法37条1号)
- 2 商標の類否は,商品または役務の出所の誤認混同を生じるかどうかを基準に判断されます。
- 3 審決取消請求事件についての最高裁判決は,清酒と焼酎の類否が争われた橘正宗事件(最判昭和36年6月27日民集15巻6号1730頁)で,「商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべきものと解するのが相当である。」と判断しています。
- 4 氷山印事件判決(最判昭43年2月27日民集22巻2号399頁)は,商標の類否を,「対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によつて取引者に与える印象,記憶連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断」する,と判示しています。
- 第5 商品・役務の類否について
- 1 商標法施行令の第1類~第45類までの商品及び役務の区分(商標法6条2項)は,商品又は役務の類似の範囲を定めるものではありません。(商標法6条3項)
- 2 商品と商品の類否は,「商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある」かどうかで判断されます。
- 3 審決取消請求事件について最高裁判決は,清酒と焼酎の類否が争われた橘正宗事件(最判昭和36年6月27日民集15巻6号1730頁)では,「そして、指定商品が類似のものであるかどうかは、原判示のように、商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであつても、それらの商標は商標法(大正一〇年法律九九号)二条九号にいう類似の商品の商品にあたると解するのが相当である。」と判断しています。
- 4 サンヨウタイヤー事件(最判昭和38年10月4日民集17巻9号1155頁)では,「商標権の効力として、商標権者が、指定商品のみならず、類似商品についても、類似商標の使用禁止を求めることができるのは、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があるためであることは原判示のとおりである。しかし、商品の出所について誤認混同を生ずる虞の有無、すなわち、商品の類似するかどうかは、場合々々に応じて判断せられるべき問題であつて、類似商品に対する禁止権をあまりに広く認めることは、商標権者を保護するのあまり、他の者の営業に関する自由な活動を不当に制限する虞がないとはいえない。本件のように、タイヤーを指定商品とする商標と類似する商標を完成品たる自転車に使用したからといつて、直ちに、自転車とタイヤ―とその出所について誤認混同を生ずる虞があるとは考えられない。要するに、二つの商品が用途において密接な関係があり、同一店舗において同一需要者に販売されるということだけで、両者を類似商品として被上告人の請求を全面的に容認した原判示は首肯することができない。また、自転車の部分品中タイヤーについては、被上告人の商標と類似する商標を上告人が使用することができないのはいうまでもないが、自転車の部品中には、他にもタイヤ―と類似商品とすべきものもあるであろうし、そうでないものもあるであろう。さらに、自転車そのものをタイヤーの類似商品とするについては、詳細な説明を必要とするのであつて、この点に関する原判示は、理由として十分でないものがあるといわざるを得ない。論旨は理由があることに帰し、他の論点について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。」と判断しています。
- 5 最判昭和39年6月16日民集18巻5号774頁では,「商標権者は指定商品のみにつきその商標を専用し得る権利を有するに過ぎないこと、正に、所論のとおりである。しかし、商標法二条一項九号は、商標の不登録事由を単に他人の登録商品と「同一ノ商品」に使用するものに限定することなく、一般公衆が不測の損害を蒙ることを防止し且つ不正競争を抑圧する目的で、「類似ノ商品」に使用するものにまで拡大しているので、登録商標権者に対する保護の範囲は、当該指定商品のみならず、これと類似の商品にも及ぶもの、といわなければならない。そこで、商標の本質は、商品の出所の同一性を表彰することにもあるもの、と解するのが相当である。しかして、商標の本質が右のごときものである以上、商標の類否決定の一要素としての指定商品の類否を判定するにあたつては、所論のごとく商品の品質、形状、用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく、さらに、その用途において密接な関連を有するかどうかとか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべきことは、むしろ、当然であ」ると判断しています。
- 6 役務と役務の類否
役務と役務の類否は,それらの役務が通常同一営業主により提供されているなどの理由により,それらの役務に同一又は類似の商標を使用した場合に,同一営業主により提供される役務と誤認されるおそれがあると認められるか否かを基準に判断すべきと解されています。 - 7 商品と役務の類否
商品と役務の類否は,その商品と役務が通常同一営業主により提供されているなどの理由により,その商品と役務に同一又は類似の商標を使用した場合に,同一営業主により提供される役務と誤認されるおそれがあると認められるか否かを基準に判断すべきと解されています。 - 第6 商標権侵害を理由にした請求を受けた場合の対応について
- 1 相手方が主張する商標権が,現時点で有効に存在しているのか,確認が必要です。商標についての簡易な調査方法は,上記のとおりです。
また,商標権に基づく差止請求を行うことができるのは,商標権者か専用使用権の設定を受けた者ですので,相手方が商標権者あるいは専用使用権の設定を受けた者かの確認が必要となります。 - 2 商標権の侵害にあたるのは,その使用方法が,「商標としての使用」に該当する場合です。
そのため,自己の「使用方法」を,再度検討する必要があります。 - 3 商標法26条は,商標権の効力が及ばない範囲を,以下のように定めています。
- ① 商標法26条1項1号,同条2項
自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標は,不正競争の目的がない場合は,商標権者から商標権に基づいてそれらの使用を禁止されることはありません。 - ② 商標法26条1項2号
商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標は,商標権侵害とはなりません。(商標法26条1項2号)
商品の普通名称かどうかが争われた事件としては,招福巻事件(大阪高判平成22年1月22日判時2077号145頁)があります。
この判決は,「招福巻」の部分は普通名称となっていた,と判断しました。
その他,正露丸事件(大阪高判平成19年10月11日判時1986号132頁)があります。 - ③ 商標法26条1項3号
当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標も,商標権侵害とはなりません。(商標法26条1項3号) - ④ 商標法26条1項4号
当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標は,商標権侵害とはなりません。(商標法26条1項4号) - ⑤ 商標法26条1項5号
商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標は,商標権侵害とはなりません。(商標法26条1項5号) - ⑥ 商標法26条1項6号 需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標。
商標とは,「自他商品識別機能」及び「出所表示機能」を有するものです。
そのため,このような機能を発揮し得ないような使用態様での標章の使用については,商標権侵害とは評価されない,と判断されることがあります。
その主張の際には,問題となっている商標を,具体的にどのように使用していたのか,その商標の使用によって,どのような顧客誘因力が働いてのか等が問題となります(通行手形事件,東京地判昭和62年8月28日無体例集192号277頁。ドーナツ枕事件,知財高判平成23年3月28日判時2120号103頁参照)。 - 第7 抗弁
- 1 先使用に基づく法定使用権
登録商標の商標登録出願前から,当該標章を業として使用していた場合は,以下の要件を満たすことにより,先使用に基づく法定使用権が認められます。(商標法32条1項)
そのため, - ① 当該商標登録の出願前から,日本国内で,指定商品または指定役務,ないしはこれに類似する商品・役務について,当該標章又はこれに類似する標章を業として使用していたこと
- ② その標章の使用に,不正競争の目的がないこと
- ③ 当該商標登録の際に,当該標章が,先使用者の業務にかかる商品または役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたこと
以上の要件を満たした上で,先使用者が継続して,商品または役務に当該標章を業として使用していたことを主張立証して,先使用の抗弁を行うことが考えられます。 - 2 権利行使の制限(商標無効の抗弁。商標法39条が準用する特許法104条の3第1項)
当該登録商標が無効審判によって無効にされるべきであると認められるときは,商標権者又は専用使用権者は,相手方に対して,その権利を行使することができません。
無効審判請求の除斥期間は,商標権設定の登録の日から5年です。(商標法47条) - 3 権利濫用
登録商標の取得経過や取得意図,商標権行使の態様によっては,商標権の行使が,客観的に公正な競争秩序を乱すものとして権利の濫用に当たり,許されない場合があります。 - 4 特許権等との抵触(他人の特許権等との関係)
商標法29条は,「商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と規定しています。 - 5 その他の抗弁
商標権の存続期間の満了(商標法19条1項),商標登録の取消(商標法50条~55条),相続人の不存在による商標権の消滅(商標法35条,特許法97条1項),商標権の譲渡による商標権の喪失,準占有による取得時効などの抗弁が考えられます。
と定義しています。
があると言われています。
以上
参考文献
商標の法律相談Ⅰ 小野昌延・小松陽一郎・三山峻司 編集
青林書院
商標の法律相談Ⅱ 小野昌延・小松陽一郎・三山峻司 編集
青林書院
新しい商標と商標権侵害 色彩,昔からキャッチフレーズまで 青木博通 著
青林書院
要件事実マニュアル(第5版) 3巻 岡口基一 著
ぎょうせい
日本弁理士会ホームページ
日本弁理士会近畿支部ホームページ
実務家のための著作権ハンドブック 著作権法令研究会 編著
著作権情報センター