建物明渡の強制執行を申し立てる場合に、同時に建物内にある残置動産に対して動産差押申立をするか否かについて
特にいわゆる「ゴミ屋敷」の建物明渡の強制執行に関して

2017(平成29)年7月10日

 

 例えば建物賃貸借契約をしていたが、賃借人が賃料を支払わないので、賃料不払いの債務不履行を理由に賃貸借契約を解除して、建物明渡請求と未払賃料ないし賃貸借契約解除後明渡済みまでの期間の賃料相当損害金請求訴訟を提起し、それらの請求が認容され判決が確定した場合を前提にします。

 賃借人が建物を任意に明け渡さない場合は、賃貸人は債権者として、賃借人を債務者として建物明渡の強制執行の申立ができます。
 明渡しを求める建物内に価値のある動産がある場合は、建物明渡の強制執行申立と同時に、動産差押の申立もすることが大事です。
 その動産差押により動産が売却された場合は、債権者はその売却代金から債権(手続費用や、未払賃料等)の満足を受けることができます。

 しかし、動産に対する強制執行では、差し押さえるべき動産の売得金の額が手続費用の額を超える見込みがないときは、執行官は差押えをしてはならないとされています(民事執行法129条1項)。
 従って、動産差押手続費用の額を超える見込みのない残置動産に対しての動産差押申立はできません。

 また、差押物の売得金の額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の額の合計額以上となる見込みがないときは、執行官は差押えを取り消さなければならないとされています。(民事執行法129条2項)

 更に、差押物について相当な方法による売却の実施をしてもなお売却の見込みがないときは、執行官はその差押物の差押えを取り消すことができるとされています。(民事執行法130条)

 その上、
①債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、台所用具、畳及び建具
②債務者等の1月間の生活に必要な食料及び燃料
③標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
④仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
その他民事執行法131条で定める差押禁止動産に対しては動産差押えが出来ません。

 以上のように、ほとんど価値のない残置動産(ゴミ)や差押禁止の動産が建物内にある場合には、建物明渡の強制執行申立と同時にその建物内に残置された動産について動産差押申立をしても、建物内の全ての動産を強制的に撤去させることはできません。
 つまり、撤去できない動産を、債権者が倉庫等を確保して保管(その費用は、通常は債権者が負担します。)することとなるのが原則です。

 そこで、このような場合は、民事執行法168条5項に定める方法により、その動産を、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業員で相当のわきまえのある者に引き渡すか、それができない場合には、執行官から残置動産を買い受けて残置動産の所有権を取得した上で、自己所有物になった残置動産を処分することになります。

 すなわち民事執行法上、執行官は、建物の明渡しの強制執行において、その目的物でない動産を取り除いて、債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業員で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならず、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、これを売却することができると定められています。(民事執行法168条5項)。その売却方法の1つとして、最高裁判所規則で定めるところにより、「明渡断行日に即時売却」の手続が行われます(民執規154条の2第3項)。明渡執行を実施した日において債務者等が荷物を引取る可能性がほとんどなく引渡しの見込もない場合に買い受け希望者が現場に存在する(通常は、債権者)場合に、公告なしで競り売りするのが普通です。

 しかし、この方法でも、残置動産の中に、前記の
仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物等の民事執行法131条が定める差押禁止動産がある場合は、その動産の管理売却保管について執行官と協議する必要があります。

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