福祉型ないし後見型の「民事信託」ないし「個人信託」
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1 「信託」は、信託の設定者である「委託者」が、一定の目的(信託目的)のために、信頼できる「受託者」に対して、不動産や金融資産などの「信託財産」を委託(所有権を移転)し、「受託者」は定められた信託目的に従って信託の利益を受ける「受益者」のために信託財産の管理や必要な処分をする制度です。(信託法2条1項)
2 福祉型あるいは後見型の「民事信託」ないし「個人信託」とは、信託契約や遺言により、「委託者(遺言者)」が、信頼できる「受託者」に対して、自己の家族・親族などの受益者の生活を確保するなどの一定の目的に従って「信託財産」を管理運営することを委託(受託者に財産の所有権を移転します。)し、「受託者」がその一定の目的のために「受益者」に対して生活費や看護療養費等を支給するなどの行為を託する信託です。
3 そして、「民事信託」ないし「個人信託」は、「受託者」が信託業者ではない信託で、原則的な場合としては非専門家である個人が「受託者」である信託を指します。
4 「信託財産」は、「委託者」から「受託者」に名義が移転(所有権が移転)します。
しかし、「信託財産」の名義が「委託者」から「受託者」に変わっても、「受託者」は一定の信託目的のために「信託財産」を所有しているにすぎないことから、「受託者」の自らの利益のために管理・運用・処分することは禁じられています。
そして、「信託財産」は、「受託者」の固有の財産とは分別して管理されなければなりません。
仮に、「受託者」が倒産しても、受託者の債権者は「信託財産」を差し押さえることはできません。
このことから、「信託財産」には「倒産隔離機能」があるということになります。5 「受託者」の義務として、信託事務遂行義務、善管注意義務、忠実・公平義務、分別管理義務などがあります。
すなわち、「受託者」の乱用防止のために多種多様な義務が課せられます。6 「信託」は、以下の場合に設定できます。
- ①「委託者」と「受託者」との「信託契約」(信託法3条1号)
- ②「委託者」の「遺言」(信託法3条2号)
- ③公正証書等による「委託者」の「自己信託」(信託法3条3号)
最近では、信託の一類型として「後継ぎ遺贈型受益者信託」が話題となっており、遺言による遺贈では指定できない二次相続以降の受益者まで指定する内容が,この信託を利用することで可能となります。
7 「民事信託」ないし「個人信託」と「成年後見」による財産管理との違いは以下の通りです。
- ①「民事信託」ないし「個人信託」は、「信託財産」の名義が「委託者」から「受託 者」に移転します。
- ②「成年後見」では、「成年被後見人」の財産は「成年被後見人」の名義のまま で、「成年後見人」が「成年被後見人」の法定代理人として家庭裁判所の監督 を受けながら「成年被後見人」の財産を管理・運用・処分します。
参考文献
- 雨宮則夫・寺尾洋編著 第2版Q&A遺言・信託・任意後見の実務
日本加除出版株式会社発行 - 渋谷陽一郎著 民事信託における受託者支援の実務と書式
株式会社民事法研究会発行 - 一般社団法人民事信託推進センター編 有効活用事例にみる民事信託の実務指針
株式会社民事法研究会発行 - 塩見哲&ダンコンサルテイング株式会社編 ケーススタデイにみる専門家のための家族信託活用の手引
新日本法規出版株式会社発行