労働審判手続制度
2017(平成29)年3月22日
2021(令和3)年1月8日改訂
2021(令和3)年1月8日改訂
労働審判法は、平成16年4月に成立し、平成18年4月1日から施行され、平成23年5月に改正された法律です。
以下、労働審判法が規定する労働審判手続制度の概略について記載します。
- 1 労働審判手続の制度目的
労働審判手続は、労働契約の存否、その他の労働関係に関する事項について,個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する労働審判委員会が、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合はこれを試み、その解決に至らない場合は、権利関係及び審理の経過を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行う手続きであり、あわせて、訴訟手続きと連携させて、迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする手続です(労働審判法(以下「法」といいます。)1条)。 - 2 対象事件
労働契約の存否、その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)を対象とします。 - 3 申立て
労働審判手続は、一方当事者の書面による申立てで開始され、相手方の同意は不要です(法5条)。 - 4 管轄
相手方の住所、居所、営業所ないし事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業しもしくは最後に就業した事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所、又は当事者が合意で定めた地方裁判所が管轄します(法2条)。 - 5 労働審判手続の主体(労働審判委員会)ー専門性を有するー
労働審判手続は、労働審判官(裁判官)1名、労働関係に関する専門的知識・経験を有する労働審判員2名で労働審判委員会が構成されます(法7、8、9条2項)。
労働審判委員会は、中立かつ公正な立場で労働審判事件を処理します(法9条1項)。
労働審判委員会は評議を行い、労働審判委員会の決議は過半数の意見によります(法12条)。 - 6 審理手続き ―迅速性を有する―
労働審判手続は、特別な事情がある場合を除き、3回以内の期日において審理を終結します(法15条2項)。
第1回期日は、特別の事由がある場合を除き、労働審判手続申立てがなされた日から40日以内の日に指定しなければなりません(労働審判規則13条)。
また、第2回期日、第3回期日はそれぞれ約1か月の間隔があけられることから、労働審判手続申立後、3~4か月で審判が出されることになります。
極めて迅速に審理されます。
労働審判委員会は、職権で事実の調査をします。
申立てにより、又は職権で民事訴訟法の例による必要な証拠調べをすることができます(法17条)。
なお,労働審判手続は法廷で行われることが通例ですが,原則非公開とされています(法16条)。
調停の成立による解決の見込みがある場合はこれを試みますが、調停による解決に至らない場合は、権利関係及び審理の経過を踏まえつつ事案に即した解決をするために必要な審判を行います。 - 7 労働審判ー柔軟性を有するー
民事訴訟における判決は、請求権があるかないかの判断しかなく、その他の解決はできません。
しかし、労働審判手続においては、
労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者の権利関係及び労働審判手続きの経過を踏まえて労働審判を行います(法20条1項、2項)。
すなわち、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができます(法20条2項)。
これにより実情に応じた柔軟な審判が可能です。 - 8 異議申立てなど ―訴訟手続きと連携している―
労働審判に対しては、審判の告知から2週間以内に異議申立てができます(法21条1項)。
異議申立てがあると、労働審判は効力を失います(法21条3項)。
(異議申立てがないと、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します(法21条4項)。)
そして、労働審判手続の申立てに係る請求について、労働審判手続が係属した地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(法22条1項)。
異議申立ては取下げができません。
労働審判委員会が、「事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは労働審判手続を終了させることができる」が、そのように労働審判手続きが終了した場合も、労働審判手続の申立てに係る請求については、労働審判手続が係属した地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(法24条2項、22条)。
異議申立などにより労働審判手続が係属した地方事務所に訴えの提起があったものとみなされた場合、労働審判手続の記録や取り調べられた証拠などは,自動的に第一審地方裁判所に引き継がれるわけではありません。
そこで、当事者は労働審判手続で出した主張や証拠を,改めて第一審地方裁判所に提出する必要があります。
- 参考文献
・森井利和著 実務に活かす労働審判 労働調査会発行
・「労働審判=紛争類型モデル」編集委員会編集
労働審判=紛争類型モデル(第2版)大阪弁護士協同組合発行
・清田冨士夫編著 詳解労働審判法 株式会社ぎょうせい発行
・菅野和夫他著 労働審判制度ー基本趣旨と法令解説 株式会社弘文堂発行 -