「祭祀承継」に関する法律問題
2016(平成28)年3月30日
2016(平成28)年4月14日改訂
2016(平成28)年4月14日改訂
- 1 祭祀財産について
系譜(家系図),祭具等(仏壇,仏具,位牌),墳墓(お墓。墓石の所有権や,墓地の使用権)を,「祭祀財産」と言います。 -
2 遺骨について
- (1) 遺骨については,客観的には「有体物」ではあるものの,もともとは権利義務の主体であった「自然人」の死亡によって生じた物であること,埋葬や供養のために支配・管理する権利しか行使できないこと,社会的・宗教的・心理的観点等から,通常の「有体物」とは性質が異なると考えられます。
- (2) 最高裁は,遺骨の特別な性質を指摘した上で,遺骨は祭祀財産に準ずるものとして,祭祀主宰者に承継される,としました(最判平成元年7月18日家庭裁判月報41巻10号128頁)。
- (3) 遺骨に関する問題については,遺骨の「散骨」に関する法律問題もご参照下さい。
- 3 祭祀財産の承継
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- (1) 祭祀財産の承継については,生前の承継として,離婚等の場合(民法769条,771条,749条),離縁等の場合(民法808条,817条),配偶者死亡による復氏又は姻族関係を終了させるとき(民法728条2項,751条2項),死亡による承継として相続の場合(民法897条)が規定されており,「相続財産」の相続(民法896条)とは別に規定されています。
ですから,祭祀財産の承継は,いわゆる遺産分割の問題とは,法的には別問題と解されています。
- (2) 被相続人が,祭祀を主宰すべき者を指定した場合には,その指定をされた者が,祭祀財産を承継します(民法897条1項ただし書)。
この祭祀を主宰すべき者の指定時期・方法には,特に制限はありません。
また,祭祀を主宰すべき者は,相続人とも限りません。
祭祀を主宰してもらいたい人がいるのであれば,その旨を遺言書に記載するなどの方法で,第三者にも分かる形で明らかにしておいた方が無難でしょう。 - (3) 被相続人が,祭祀を主宰すべき者を指定していない場合は,慣習によって祭祀を主宰すべき者が承継します(民法897条1項本文)。
また,「祭具等」についての承継者を当事者の合意で定めることもできます。(家事事件手続法別表第二の五,六,十一)。
- (4) 被相続人が,祭祀を主宰すべき者を指定していない場合で,しかも,慣習によっても祭祀を主宰すべき者が明らかでない時は,家庭裁判所に調停を申立てることが出来ますし,合意ができないときは,審判により祭祀承継者を指定してもらうことができます(民法897条2項)。
- (5) なお,一般に祭祀の承継者は一人に限られるべきですが、特別の事情がある場合には、祭祀財産を共同して承継するものとして承継者を共同指定した事例もあります(仙台家審昭和54年12月25日家月32巻8号98頁)。 また,一般に系譜、祭具および墳墓の所有権の承継者は一人に限られるべきですが,特別の事情があれば、祭祀財産を分けて、別箇にその所有権の承継者を指定することも差し支えないと解した事例もあります(東京家審昭和42年10月12日家月20巻6号55頁)。
- (1) 祭祀財産の承継については,生前の承継として,離婚等の場合(民法769条,771条,749条),離縁等の場合(民法808条,817条),配偶者死亡による復氏又は姻族関係を終了させるとき(民法728条2項,751条2項),死亡による承継として相続の場合(民法897条)が規定されており,「相続財産」の相続(民法896条)とは別に規定されています。
- 4 祭祀承継者を決定する際の判断基準について
- (1) 裁判所が,祭祀承継者を決定する際の判断基準については,以下の裁判例が参考になります。
- (2) 大阪高等裁判所昭和59年10月15日決定・判例タイムズ541号235頁は,「祭祀財産の承継者を指定するにあたつては,承継者と被相続人との身分関係のほか,過去の生活関係及び生活感情の緊密度,承継者の祭祀主宰の意思や能力,利害関係人の意見等諸般の事情を総合して判断するのが相当であると解される」としています。
- (3) また,東京高等裁判所平成18年4月19日決定・判例タイムズ1239号289頁は,「承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係,承継候補者と祭具等との間の場所的関係,祭具等の取得の目的や管理等の経緯,承継候補者の祭祀主宰の意思や能力,その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが,祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく,死者に対する慕情,愛情,感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから,被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって,被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち,他方,被相続人からみれば,同人が生存していたのであれば,おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」としています。
以上