会社法改正法(平成27年5月1日施行)で新設された「監査等委員会設置会社」制度を制定した理由とその概要
2016(平成28)年3月9日
- 1 2015(平成27)年5月1日に施行された会社法改正法(以下「改正法」といいます。)の改正目的の大きな柱の1つが企業統治(コーポレート・ガバナンス)の強化です。
企業統治(コーポレート・ガバナンス)の目的は,コンプライアンス(法令遵守)と会社の経営の評価(効率性の向上)の2つが中心にあります。 - 2 改正法は,企業統治の強化を図るために会計監査人の独立性を強化する外に,社外取締役の活用を目指しています。
改正法は,社外取締役の活用のために,
- ① 新たな機関設計として監査等委員会設置会社制度の新設
- ② 社外取締役を選任しない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由の株主総会における説明義務の新設
- ③ 社外取締役等の要件の厳格化
- 3 本稿は,そのうちの新設された新たな機関設計である「監査等委員会設置会社」制度について,新設の理由と制度のアウトラインを説明します。
現在の日本の企業統治の主流は,「監査役(会)設置会社」制度です。 - 4 しかし,「監査役(会)設置会社」制度は,欧米における制度と異なっており,海外機関投資家等からは理解されにくい制度と言われています。
また,監査役(会)は,監査権限があるだけで,監査の結果に基づいて経営者を解任したり,新たな経営者を選任する権限がないことから,経営者への監督の実効性について疑問視されていました。 - 5 ところで,改正前の会社法では「委員会設置会社」(会社法改正後の名称は「指名委員会等設置会社」となりました。)制度がありました。
「委員会設置会社」では,「指名委員会」,「報酬委員会」,「監査委員会」が置かれ,各委員会は取締役により構成されますが,いずれの委員会も過半数が社外取締役でなければならないとされています。
そして,「指名委員会」には,株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案の決定権限があり,また「報酬委員会」には,取締役及び執行役の個人別の報酬額決定権限が与えられました。 - 6 しかし,このような「委員会設置会社」制度は,現在の日本の会社実務で一般的な,会社の代表取締役が後継取締役を指名し,また各取締役の報酬額を決定するという,会社の代表取締役の「力の源泉」を奪ってしまうことになることから,「委員会設置会社」制度を採用する企業は極めて少数にとどまりました。
- 7 そこで改正法は,社外取締役の企業統治に関する機能をより活用できるように,「監査役(会)設置会社」及び「委員会設置会社」とは異なる新しい第三の類型の機関設計として「監査等委員会設置会社」制度を新設しました。
- 8 「監査等委員会設置会社」は,監査役会に代えて(監査等委員会設置会社は,監査役(会)を置くことは出来ませんので社外監査役に加えて社外取締役を置く重複感・負担感がありません。),社外取締役が過半数を占める「監査等委員会」を設け,同委員会が「委員会設置会社」の指名委員会・報酬委員会に代わるある程度の経営評価機能(株主総会における取締役人事・報酬等に関する意見陳述権)を持つことになります。
- 9 「監査等委員会設置会社」では,監査等委員会の外,取締役会及び会計監査人を必ず置かなければなりません。
- 10 「監査等委員会設置会社」は,取締役会設置会社ですので,取締役が少なくとも3人いることが必要で,かつ監査等委員である取締役が少なくとも3人いることが必要です
- 11 そして,監査等委員である取締役の過半数を業務執行者から独立した社外取締役が占める必要があることから,最低でも監査等委員である取締役3人の外,監査等委員である取締役以外の代表取締役となるべき取締役1人を置く必要があります。
- 12 更に,「監査等委員会設置会社」の取締役のうち,監査等委員である取締役以外の取締役の任期を1年とする一方,監査等委員である取締役の任期を2年として,かつ,その任期の短縮を認めないこととして,監査等委員会の監査機能及び監督機能の実効性を確保するようにその身分保障を強化しています。
- 13 「監査等委員会設置会社」制度は,取締役の過半数を社外取締役が占める場合,又は定款の定めがある場合に,取締役会はその決議により「委員会設置会社」と同様の業務執行を取締役に委任することが出来るとされて,極めて柔軟な運用を図ることが出来るようになっています。
- 14 更に,「監査等委員会設置会社」では,取締役(監査等委員である取締役を除く)と会社の利益相反取引について,監査等委員会が事前に承認した場合は,取締役の任務懈怠の推定規定(423条3項)を適用しない(423条4項)とされています。
- 15 このように「監査等委員会設置会社」制度は,柔軟に運用することが可能であるとともに,社外取締役と社外監査役の重複もないことから重複感・負担感が払拭されました。
それで前述した社外取締役を選任しない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由の株主総会における説明義務の新設ともあいまって,今年中に上場企業の内少なくとも200社以上が定款改正により「監査等委員会設置会社」制度を採用する模様です。
参考文献は,以下の通りです。
坂本三郎編著 一問一答平成26年改正会社法 商事法務
二重橋法律事務所編 Q&A平成26年改正会社法 金融財政事情研究会
野村修也・奥村健志編著 平成26年改正会社法 有斐閣
太田洋編著 速報会社法改正清文社 神田秀樹著会社法(第18版) 弘文堂
江頭憲治郎著 株式会社法第6版 有斐閣